「はらぺこあおむし×STEAM」チョウになるまで何日? 絵本で読み解く生命の不思議

「はらぺこあおむし×STEAM」の第3弾は、生き物や植物にスポットライトを当てていきます。

エリック・カールは生涯に80冊以上もの絵本をこの世に送り出していますが、その絵本にはたくさんの生き物が登場します。

エリック・カール展(とうさんは、タツノオトシゴ)
『とうさんはタツノオトシゴ』 2004年 エリック・カール絵本美術館
Collection of the Eric and Barbara Carle Foundation.
© 2004 Penguin Random House LLC.

たとえば、あおむし、カメレオン、タツノオトシゴ、てんとう虫、カンガルー、しろくま、ナマケモノなどなど。いま挙げた生き物は、すべてタイトルに使われている生き物ですが、そのほんの一部です。絵本に描かれている生き物すべてをピックアップすることはとてもできません。なにしろ、エリック・カールは「えいごがいっぱい どうぶつあつまれ」や「はらぺこあおむしのエリック・カールと学ぼう これだけは知っておきたい 子ども図鑑」など図鑑に類する本も出版しているからです。

ところで、「はらぺこあおむし」は、卵から生まれたお腹を空かせたあおむしがサナギになり、チョウになるまでの一生が描かれているお話ですが、実際に卵から生まれたあおむしがチョウになるまで、どれくらいの日数がかかるかご存知でしょうか?

幼虫はなぜ食べ続けるの? 
サナギの中で起きる「完全変態」

地域にもよりますが、4月に入ったころからチョウが宙を舞う姿を見かけます。

モンシロチョウなど身近なチョウの場合、卵から生まれて成虫になり寿命を迎えるまで、およそ1ヶ月から2ヶ月ほどかかります。そのうち成虫の期間は2週間から1ヶ月程度です。

「はらぺこあおむし」の冒頭では、大きなお月様を背景に葉っぱが描かれ、その葉っぱのうえに小さな小さな卵がひとつ描かれています。絵のなかのどこに卵が描かれているのか、子どもが見つけるまでの過程を楽しめるような絵です。

「エリック・カール展」展示風景 東京都現代美術館 2026年 

チョウは、卵からかえった幼虫が食べるものに困らないよう、餌となる植物が周りにあり、天敵に狙われにくく、雨風もしのげる葉の裏側に、たくさんの卵を産み付けます。それでも、卵から無事にチョウになれるのは100個の卵から1~2匹くらいだとも言われています。

それでは、どれくらいの期間をかけて成長しているのでしょうか?

たとえばモンシロチョウの場合、卵は3日から5日ほどで孵化(ふか)し、卵からかえった幼虫は10日から20日ほどの間におよそ4回前後脱皮を繰り返してからサナギへと変化していきます。サナギの状態で7日から10日ほど過ごし、羽化(うか)してチョウになります。

エリック・カール展(チョウの成長)
チョウの成長サイクル(イメージ図)

「はらぺこあおむし」では穴が開いていて、あおむしがどれくらい食べたのか体感できますが、幼虫の間はとにかく食べます。

モンシロチョウの場合は、自分の体重以上の葉っぱを食べることもあります。生まれたばかりのころは、1日に数ミリから1センチ四方くらいの量を食べる程度ですが、3回目の脱皮を終えたころから急に食べる量が増え、1日で葉っぱ数枚分を食べることもあります。

サナギになる前の幼虫は、ほぼ一日中食べていて、幼虫の間に体長は数ミリから3センチほどに、体重は数百倍から、ときには数千倍になることもあると言われています。

「はらぺこあおむし」は、この幼虫の期間を主に描いたお話ですが、月曜日はリンゴ1個、火曜日はナシ2個、水曜日にはスモモを3個…と、いろいろな物を食べています。

そして土曜日に食べ過ぎてお腹が痛くなり、日曜日に葉っぱを食べて回復したあおむしは大きく太くなります。

エリック・カール展(はらぺこあおむし)
『はらぺこあおむし』1987年版 エリック・カール絵本美術館
Collection of the Eric and Barbara Carle Foundation.
© 1969, 1987 Penguin Random House LLC.

「はらぺこあおむし」は、好き嫌いなくいろいろなモノを食べます。
ところがチョウは意外と偏食です。

たとえばモンシロチョウの幼虫はキャベツをはじめとしたアブラナ科の植物、アゲハチョウはミカン科の植物、アオスジアゲハはクスノキ科の植物と食べるものが決まっています。

幼虫の間に大量に食べてエネルギーを蓄え、サナギの間は食事をしません。
この期間、実は体の中で「完全変態」と呼ばれる大改造が起きています。

チョウになるための細胞を残して、幼虫の体の一部を分解し羽や触覚、複眼、足などを作り直します。つまり、サナギの期間は休眠中ではなく、変身中なのです。サナギの間も、もちろん呼吸をしています。気門という空気穴があり、そこから酸素を取り込んでいます。

休眠中ではない証拠に、種類によってはサナギの間も振動を感じた場合などに少し動くことがあります。これは敵から身を守るためだと考えられています。

そして、あおむしからチョウへと変化したあとは、それまで食べていた葉っぱではなく、花の蜜を吸うようになります。これは、同じ場所で食料争いをしないためだと考えられています。

子どもは、あおむしがチョウになるように「変化するもの」に強く興味を惹かれる傾向があると言われています。卵が幼虫になり、サナギになり、そしてチョウになる――。この変化の連続を、エリック・カールは本に穴を開けたり色を変化させたりすることで表現しているのかもしれません。

植物はどうやって旅をする? 
「ちいさいタネ」に隠された戦略

エリック・カールは、「はらぺこあおむし」では、あおむしがチョウになるまでのお話を描いていますが、「ちいさいタネ」では、植物の一生を描いています。

この「ちいさいタネ」では、秋風に乗って旅に出たタネが、高い山や灼熱の砂漠、海を越えて、やがて地面に根を下ろし、大きな花を咲かせてタネを実らせるまでの「植物のライフサイクル」が描かれています。

植物は自分自身では動くことができない生き物ですが、「タネをどうやって遠くまで運ぶか」に対して、ものすごく工夫をしています。

その手段としては、風に運んでもらったり、鳥をはじめとした動物に運んでもらったり。ときには爆発したり、人間に運んでもらったり。

たとえばタンポポは風に乗ってタネを運んでいる植物のひとつです。
タンポポはタネを綿毛にすることでパラシュートのように空気抵抗を増やして、ゆっくりと飛びます。上昇気流に乗ることができれば数キロ飛ぶことがあるそうです。

イメージ写真
イメージ

サクランボやイチゴは、鳥に食べてもらうことで遠くへ運んでもらっています。そのほかにも、オナモミなど人や動物にくっつくことで遠くへ運ばれるタネもあります。

また、ホウセンカは熟すとパンッとはじけます。
これは、同じところに落ちてしまうと光や水、栄養素を奪い合うことになってしまうからです。ホウセンカのタネは、条件が良ければ4メートルから5メートル近く飛ぶこともあります。

チョウが食料争いを避けるために幼虫と成虫で食べるものを変えるように、植物もまた、子孫をより遠くへ残すために、ときに「風」という自然のエネルギーを利用し、そしてときには「爆発」という運動エネルギーを利用してタネを遠くに運んでいるということです。

エリック・カールの絵本は、動物も植物も、それぞれが過酷な自然の中で「生き抜くための戦略」を持っていることを子どもたちに伝えてくれています。

絵本が教えてくれる「生物多様性」 
みんな違っていて、それでいい

エリック・カールの描く絵本には、上手に鳴けないコオロギや、ご機嫌ななめなてんとう虫など、どこか不器用なキャラクターたちがたくさん登場します。

まるで「完璧ではなくてもいいんだよ…」ということを教えてくれているかのようです。

いろいろな場所で、いろいろな生き物が暮らし、人を含めた生き物がつながり合ってバランスを取っている状態を「生物多様性」と言います。

たとえば、『ごきげんななめのてんとうむし』では、2匹のてんとう虫が同じ葉っぱにいるアブラムシを分け合って食べるシーンが描かれています。これは自然界の「共生(きょうせい)」そのものです。

エリック・カール展(ごきげんななめのてんとうむし)
「エリック・カール展」 展示風景 東京都現代美術館 2026年
「ごきげんななめなてんとうむし」1977年 
『おはよう。』と、きげんのよいてんとうむし。
『あっちへ いけ。ぼくが こいつをたべるんだ。』と、ごきげんななめのてんとうむし。』

強い生き物だけが生き残るのではなく、それぞれが自分の強みを活かし、ときには譲り合いながら環境に適応していく。エリック・カールは、自然界のリアルな生態系の美しさを、子どもたちへの優しいメッセージとして絵本に残してくれています。

おまけ:エリック・カールの言葉へのこだわり

エリック・カール展(はらぺこあおむし)
「エリック・カール展」展示風景 東京都現代美術館 2026年

実は、「はらぺこあおむし」の翻訳には素敵なエピソードが隠されています。

あおむしが、サナギになるシーンです。

原文では、チョウになる前のあおむしが「まゆ(cocoon)になりました」と表現されています。生物学的には、チョウは「まゆ」を作るのではなく「サナギ」になります。

翻訳家がエリック・カールに確認したところ、エリック・カールからは、次のような答えが返ってきたそうです。

ここは、どうしても“まゆ”としてほしい。英文の“come out of a cocoon”という表現は、子どもが成長して大人になるとか、平凡な人が自分にうち勝ってすばらしい脱皮をとげる――しいては、芸術家が傑作を生みだすという、壮大な想いをこめた表現だから、原文を活かしてほしい。また、“さなぎ(chrysalis)”という英語は発音しにくいし、冷たい響きがあり、印象がよくない

『はらぺこあおむし』誕生のエピソード

エリック・カールは科学的な正確さよりも、言葉が持つイメージや響きを大切にしていたことが分かります。そして、子どもが発音しにくい単語ではなく、発音しやすい単語を使い、英語が本来持っている表現を大切にするなど、子どもが読む本に対してさまざまな思いを込めていたことも分かります。

さいごに

3回にわけて「はらぺこあおむし×STEAM」をお届けしました。

エリック・カールの絵本に限らず、大人になってから絵本を手に取ると、子どものときには気が付かなかった作者の想いに気が付くことがあります。「はらぺこあおむし」は、正確な生物学の知識をベースにしながらも、子どもの心の成長や未来への願いが紡がれています。

いま、東京都現代美術館において「エリック・カール展」が開催されていますので、ぜひ足を運んで、たまには童心に戻ってみてください。

「はらぺこあおむし×STEAM」の連載はこれで完了とさせていただきますが、機会がありましたら、また別の題材で「〇〇×STEAM」を取り上げさせていただきます。

また、koedoではこれまでもたびたび博物館とコラボしたSTEAM記事を連載しておりますので、そちらの方も一読いただければ幸いです。

「エリック・カール展」 はじまりは、はらぺこあおむし
エリック・カール展「東京都現代美術館展示風景」
「エリック・カール展」展示風景 東京都現代美術館 2026年
  • 会期:2026年4月25日(土)~7月26日(日)
  • 会場:東京都現代美術館 企画展示室
  • 開催時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
  • 公式HP:https://ericcarle2026-27.jp/

【参考】