子どもと一緒に訪れやすい博物館へ
東京国立博物館「ファミリースペース」

令和8年4月21日、東京国立博物館平成館の1階、正面入口の右側のスペースに、新たに「ファミリースペース」が開設されました。

未就学児(0歳~6歳)を連れた来館者が安心して過ごせる空間として整備され、ベンチやクッションも用意されています。

東京国立博物館「ファミリースペース」
東京国立博物館ファミリースペース

この空間は、一般来館者からの視線をやわらかく遮る落ち着いた環境の中で、子どもとともにゆったりと過ごせるよう設計されています。

ファミリースペース内には絵本を約200冊、そのほかにもぬいぐるみやウォールトイも備えられ、親子でリラックスできる空間となっています。また、床や壁は柔らかい素材が利用されているなど、万が一にも子どもが大ケガをしないように配慮されています。

東京国立博物館ファミリースペース
東京国立博物館ファミリースペース
東京国立博物館ファミリースペース
東京国立博物館ファミリースペース

さらに、授乳やおむつ替えに対応したベビーケアルームを2室設置。ベピーケアルームはドアを閉めると部屋の外の音が遮られる設計となっているため、安心して赤ちゃんのケアができます。また、紙おむつの自動販売機が近くに設置されるなど、滞在を支える細やかな配慮が見られます。展示室に近い平成館1階に位置しているため、鑑賞の合間に無理なく立ち寄ることができそうです。

東京国立博物館ファミリースペース
東京国立博物館ファミリースペースマップ

博物館に来ることで育まれる学び

このような空間設計は、STEAM教育の「学びを継続させるための環境づくり」という考え方とも重なります。

たとえば、小さな子どもがいても安心して過ごせる環境があることで、保護者自身が興味のある展示に足を運ぶことができます。その経験が積み重なることで、博物館に行くことが、家族の中で自然なものとして定着していくのではないでしょうか。

また、年齢の異なるきょうだいがいる家庭にとっても、このような空間は重要です。
こまめなケアが必要な乳幼児の時期でも、上の子どもと共に無理なく来館できるので、家族全員が同じ場所で、同じ時間を共有できます。誰かが我慢するのではなく、それぞれの過ごし方を受け止めながら、同じ場にいられるようになると思います。

幼いころから家族とともに博物館を訪れる経験が積み重なることで、子どもにとっても博物館という場所が身近な存在になっていくのではないでしょうか。そうした環境の中で育つことが、成長した後に展示や文化に自然と関心を向けるきっかけにつながっていくように思います。

ファミリースペースは、そうした時間を支える場所なのではないかと思いました。
子どもも大人も無理なく安心して滞在できることで、来館そのものが心地よい経験として積み重なっていくように思います。直接的に知識を提供する場ではなくとも、将来の学びへとつながるきっかけを育くむ役割を担っているのではないでしょうか。

海外の博物館に見る「家族で過ごす」という発想

こうした家族向けの空間づくりは、海外の主要な博物館、美術館ではすでに一般的なものとなっています。

フランス・パリのルーヴル美術館では、家族向けエリア「Studio」にベビーケアのための設備が整えられており、授乳用の椅子や哺乳瓶を温める機器などが用意されているそうです。静かに過ごせる環境の中で、乳幼児とともに滞在できるよう配慮されています。

ロンドンの大英博物館でも、館内各所にベビーケア設備が整備されているほか、希望すればより落ち着いて授乳できるスペースも用意されているそうです。親子での来館を前提とした受け入れ体制が整えられていることが分かります。

また、イギリスの博物館では、展示とは別に「少し休める場所」が用意されている例も多く見られます。たとえばオックスフォード大学のピット・リバース博物館では、授乳やおむつ替えスペースがあり、家族での来館を支える環境が整えられていると知りました。

どれも、子どもに何かをさせる場というよりも、家族が無理なく過ごせる環境を整えるという発想のようです。乳幼児を連れた家族連れが安心して滞在できる場所のひとつに、博物館が位置づけられているように感じました。

共通しているのは、博物館が知識を受け取る場としてだけでなく、家族で時間を過ごす場となっていることです。結果、子どもが自然に学びに触れ、大人もまた新たな関心へと導かれていくのではないでしょうか。

東京国立博物館の「ファミリースペース」の取り組みは、こうした国際的な流れとも重なります。展示だけでなく「ファミリースペース」を整えることで、来館者が増え、展示に関わりやすい環境がつくられます。日本の博物館にも、このような取り組みが着実に広がりつつあることを感じました。

さいごに

筆者自身、博物館や美術館を巡ることが好きで、関心のある展示があれば全国どこへでも(時には世界に)足を運んできました。しかし、子どもが生まれてからしばらくの間は諦め、行くことはありませんでした。長時間の滞在や静かな環境が求められる空間に乳幼児を連れていくことは、ハードルが高く感じたのです。

そうした経験を踏まえて、この「ファミリースペース」は単なる利便性の向上にとどまらず、子ども連れの来館に大きな意味があるように感じました。一見すると休憩のための場所のようにも見えますが、実際には来館者がその場にとどまり、展示と向き合い続けるための条件を支える空間でもあるのではないかと思えます。

展示を見る前後の時間も含めて設計されたこの空間は、博物館の新しい役割の一端を示しているようです。家族が安心して長時間滞在できる空間があるのは、大変心強いです。


【引用】

Posted by traceon-e