はらぺこあおむし×STEAM 『はらぺこあおむし』の色彩の秘密

エリック・カールの絵本を手に取ったことはありますか?

赤、緑、青、黄色――。 エリック・カールの絵本は、子どもだけではなく、大人も惹き付けられる「なにか」があります。その「なにか」とはなんでしょうか? 

エリック・カール展「はれぺこあおむし 1987年版」
『はらぺこあおむし』1987年版 1987年 エリック・カール絵本美術館蔵
Collection of the Eric and Barbara Carle Foundation.
 © 1969, 1987 Penguin Random House LLC.

今回は、東京都現代美術館で開催中の「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」をSTEAMの視点から読み解いていきます。

エリック・カールの絵本のイラストは、絵具を使って筆やペンで直接描いたものではありません。 色のついた紙をちぎって貼り付ける「コラージュ」という技法が使われています。

 一般的なコラージュは、新聞や雑誌、色のついた紙など既存の素材が使われることが多いのですが、エリック・カールの場合は、「薄紙」と呼ばれるティッシュペーパーのように薄い紙一枚一枚に、自分で色を塗って模様をつけ、その紙でコラージュしています。

しかも、たとえば「今日は、あおむしを描こう」と紙を用意するのではなく、事前に紙に色を塗る日を決め、その日は無心に自由にとことん色を塗っていたのだそうです。

そして、パレットに用意した絵具で絵を描くように、その無数の紙の中から使いたい色を探し出して、コラージュしていました。

エリック・カール展「さびしがりやのほたる」
『さびしがりやのほたる』 1995年 エリック・カール絵本美術館蔵
Collection of the Eric and Barbara Carle Foundation.
 © 1995 Penguin Random House LLC.

そもそも「色」とは?

ところで、「色」とはなんでしょうか。

本質をひと言で表すと、色は「目に見える電磁波」です。電磁波は波長によって名前が分かれています。赤外線や紫外線、X線などは電磁波に付けられた名前のひとつです。

これらの電磁波のなかで、人間の目に見える範囲のものを「可視光線」と言います。これが太陽光をはじめとした「光」です。そして、この可視光線も、波長の長さによってモノに当たったときに見え方が変わります。それが「色」として、私たちの目に見えているのです。言い方を変えると、モノが光を反射し、ほかの色を吸収した結果として見えているものが「色」です。

では、私たちの目はどのようにして「色」を感じているのでしょうか。

目の仕組みは、カメラの仕組みと似ています。カメラのレンズの役割をしているのが「水晶体」。この水晶体を通り目の奥にある「網膜」に光が届きます。網膜はカメラのフィルムに当たる部分です。

光を感じる仕組み(イメージ)
色を感じる仕組み(イメージ)

この網膜には、光を感じる細胞が2種類あります。ひとつは明るさを感じる細胞「杆体(かんたい)」、もうひとつが光の色を感じる細胞「錐体(すいたい)」です。錐体細胞は、赤い光を受け取る錐体と緑の光を受け取る錐体、青い光を受け取る錐体があり、ここで感じた光が視神経を通って脳に伝わることで「色」を見ています。

話は少し変わりますが、虹が7色に見えるのは、可視光線がそれぞれの色の波長に分かれているからです。虹の色は、日本では外側から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫とされています。

実際には、色がくっきりと分かれて見えているワケではないため、6色のような気もするし、8色のような気がすることもあります。実際、世界を見渡してみるとアメリカやイギリスでは6色、ドイツでは5色だと言われています。

日本人が持つ「色」へのこだわり

色に関して日本人の目は繊細で、たとえば「赤色」を表す言葉として「赤」のほかに「紅色」「えんじ色」「朱色」などなど、ちょっと考えるだけでいろいろと思い浮かび、こうした色の違いを無意識に使い分けています。英語でも赤色を指す言葉はいくつかありますが、日常会話では「red」とひとくくりに表現していることと比較すると、微妙な色の違いを使い分ける文化が日本にあることが分かります。

日本人が色に関して繊細だ…ということが分かるものとして、「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」という言葉があります。茶色は48種類、鼠色(灰色)に至っては100種類くらいあるよ…という意味です。もちろん実際には48色、100色あるわけではなく、「すごくたくさん」的な表現です。

江戸時代中期以降、幕府はたびたび日常生活全般に質素倹約を強制する「奢侈禁止令」を発令していました。このときに、庶民が着る着物の色は「茶色、鼠色、藍色」のみに限定されたことがありました。制約があったからこそ、庶民は工夫を重ね、新しい色や美しさを求めてバリエーションを増やしていき、最終的にいろいろな茶色、いろいろな灰色ができた…ということです。

絵具を混ぜると色が変わる理由 
「青+黄=緑」は、なぜ起きるのか?

エリック・カールの絵本の絵は、ほとんどがコラージュという技法で描かれています。

コラージュ自体は昔からある技法で、ピカソもコラージュで作品を仕上げたことがあります。

エリック・カールが初めて子ども向けに描いた「くまさん くまさん なにをみているの?」は、40~50枚くらいの市販の薄紙を使ってコラージュされています。このときに、市販の色のついた紙は日に焼けて変色しやすいことが分かり、もっといろいろな色と質感でコラージュしたい…と考えて、色のついた薄紙にさまざまなタイプの筆や、ときには自分の指を使って絵具をぬったり、散らしたり、とばしたりするようになったそうです。

エリック・カール展「エリック・カールの制作道具および手彩色の薄紙」
エリック・カールの制作道具および手彩色の薄紙/エリック・カール絵本美術館
「エリック・カール展」展示風景、東京都現代美術館 2026年

エリック・カールが作品を作るときに、特にこだわっていたのが「色」です。

代表作である「はらぺこあおむし」は、あえていうならば赤色の顔に、緑色の体をした「あおむし」です。ひとこと「緑」と言っても深緑や黄緑、青緑などさまざまな色があり、その微妙な色の違いが、「はらぺこあおむし」の魅力なのかもしれません。

ところで絵具で色を混ぜるー たとえば「赤」と「青」を混ぜると紫、「赤」と「黄」を混ぜるとオレンジといった感じで新たな色ができます。

それでは、このときいったいどういった現象が起きているのでしょうか?

先ほど「色」はモノが光を反射したものという説明をしましたが、たとえば「葉っぱ」は、緑色の波長を反射してほかの色の波長を吸収しているから、人の目には緑色に見えています。ほかの色の場合も同じです。

イメージ図

絵具を混ぜたときに色が変わるのは、この反射する色の波長、吸収する色の波長が変わるからです。

たとえば絵具で緑色を作ってみましょう。
 何色と何色を混ぜれば緑色になるでしょうか。

「青」と「黄」です。
 青色の絵具は小さな青色の粒の集まりだと思ってください。黄色の絵具も小さな黄色の粒の集まりです。もちろん青色は青を反射し、そのほかの色を吸収しているから青色に見え、黄色は黄を反射し、そのほかの色を吸収しているから黄色に見えています。

この小さな粒の集まりでできた青と黄を混ぜると「緑」の粒ができる…のではありません。

 青色と黄色を混ぜると、青と黄の粒が混ざります。青色の顔料と黄色の顔料には、それぞれ反射しやすい光の波長があります。両者に共通して反射されやすい「緑系」の波長が目に届くため、緑色に見えているというわけです。

絵具の広がりを「科学」してみると…

ところで、絵具が紙に広がっていくのはどうしてでしょうか?

当たり前のことのように感じている人も多いかもしれませんが、実はここに科学的な仕組みが隠されています。

そもそも絵具は、色のもととなる「顔料」と、それをつなぎ止める「メディウム(糊剤)」を混ぜて作られています。実は色のもとである顔料は、水で溶かしただけでは紙に定着しません。

接着剤の役割を果たすメディウムと顔料を丁寧に練り合わせることで、顔料の粒子がコーティングされ、紙に「くっついて離れない」強固な固着力が生まれます。

絵具が紙の上できれいに広がるのは、水が紙の繊維のすき間を通り抜ける毛細管現象と呼ばれる力と一緒に顔料が移動・拡散するからです。水が多いほど「にじみ」は遠くまで広がりやすくなり、粒子の細かい顔料ほど紙の上で伸びていきます。

和紙と薄紙では、なにが違う?

もちろん、紙の質によっても色の広がり方は違います。
 これは網の繊維の密度や厚さ、表面加工などが異なるからです。

たとえば和紙の特徴は繊維が長く、すき間が多いことです。
そのため、絵具に含まれた水がゆっくりと自然に広がるので、にじみが美しく、色の境界線に柔らかい印象を与えることができます。

エリック・カール展「ゆっくりがいっぱい」
『ゆっくりがいっぱい』2002年 エリック・カール絵本美術館
Collection of the Eric and Barbara Carle Foundation.
 © 2002 Penguin Random House LLC.

では、エリック・カールが好んで使用していたティッシュペーパーのような薄い紙を使った場合は、和紙と比べてどう違うのでしょうか。

「薄紙」は繊維の密度が低いため、光を通しやすく、下の色がうっすらと透けて見えるという特徴があります。 エリック・カールが描く絵は、このような特徴のある薄紙を使っているため、下の色と上の色、そして光が混ざり合い、ひとつの色として目に映るのではなく、深みや奥行きを感じる色になっているということです。

色を塗るときに、にじんだり、かすれたりすると「失敗した」と思ってしまいますが、エリック・カールのように、色のにじみやかすれ、色ムラなど偶然できる模様を楽しんでみるのもいいかもしれません。

さいごに

エリック・カールが描いた「はらぺこあおむし」は子どもだけでなく、大人も楽しめる絵本です。その「はらぺこあおむし」をSTEAMで読み解く第一弾として、今回は「色」を取り上げさせていただきました。

私たちが目にしている「色」はモノが光を反射し、ほかの色を吸収したものです。
 たとえば、夜、部屋の明かりを消したとき、部屋は真っ暗になります。
 当たり前…と思うかもしれません。

でも、モノが光を反射しなくなったので「真っ暗」に見えている…と考えると、光の反射で色を認識しているということが実感できるのではないでしょうか。

エリック・カールの作品には、かわいくて楽しい絵本というだけではなく、色とはなにか、素材とはなにか、そして、なぜ色が混ざり、にじみ、表現されるのか…というSTEAMの要素がたくさん隠されています。

もし、この記事を読んで「色」に興味を持ったのであれば、一度、東京都現代美術館にも足を運んでみてください。色にこだわったエリック・カールの原画を実際に目にして、そして、できればエリック・カールの絵本も読んでみてくださいね。

 次回は、エリック・カールの絵本の特徴であるコラージュや絵本に施されている仕掛けについて深掘りする予定です。

エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし
エリック・カール展「東京都現代美術館展示風景」
「エリック・カール展」展示風景、東京都現代美術館 2026年
  • 会期:2026年4月25日(土)~7月26日(日)
  • 会場:東京都現代美術館 企画展示室
  • 開催時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
  • 公式HP:https://ericcarle2026-27.jp/

【参考】

CaseSTEAM教育

Posted by traceon-e