「学校に戻す」から「学びを支える」へ――次期学習指導要領が目指す不登校支援とは
日本全国に、現在、不登校状態の子どもがどれくらいいるのかご存知でしょうか?
文部科学省の調査によると、令和6年度の不登校児童生徒数は353,970人と過去最高を更新していて、12年連続で増加しています。令和5年度の調査で不登校に計上された児童生徒のうち、令和6年度の調査でも不登校に計上された児童生徒の割合は、小学校で71.2%(前年度75.2%)、中学校で77.1%(前年度80.7%)となっています。小学校・中学校ともに前年度からは低下しているものの、依然として7割以上の児童生徒は、年度が替わっても不登校が継続しているということです。

不登校児童生徒は、その背景にいろいろなものを抱えています。なかには「学校は好きだけど教室で過ごすことが難しい」「学校に毎日通うのは難しいけど勉強はしたい」「がんばった成果を成績に反映してもらえない」といった悩みを抱えている子どももいます。
現在、文部科学省の中央教育審議会において、2030年ごろからの実施を見据えて次の学習指導要領が検討されていますが、不登校児童生徒に対してはどのような対策を考えているのでしょうか?
一人ひとりのニーズに柔軟に対応できる仕組みを創設
次の学習指導要領では、「不登校を解消する」ことだけではなく、「学校に毎日通えなくても学び続けられる仕組みを整える」ことに重点が置かれています。
不登校の子どものほかにも、日本語指導が必要な子ども、発達障害などの多様な特性や背景を持つ子どもたちを取り残さないために、教育課程を「二階建て構造」として捉えて、一人ひとりの多様なニーズに応じられるように学校の仕組みを柔軟に整えようとしています。
つまり、学校全体で行う共通の学びを「1階」、一人ひとりの状況に応じた学びを「2階」とし、この2つを重ねるような仕組みです。

この仕組みの大きな特徴は、学校教育の枠組みのなかで個別最適な学びを制度的に位置づけようとしている点です。従来は「みんな同じ教育課程で学ぶ」ということを前提としていたため、不登校児童生徒への個別対応は学校外の支援に頼る場面も少なくありませんでした。
学校全体の学びに「余白」をつくる
1階部分では、学校として編成する教育課程の柔軟化を目指します。
たとえば、次の学習指導要領で創設が検討されている「調整授業時数制度」を活用して教科ごとの授業時数を削減し、「余白」を生み出そうとしています。この生み出された余白の時間が児童生徒にとっては個々の興味・関心に応じた学びや探究学習や、地域で体験活動する時間となり、教師にとっては研修に充てられる時間になることを想定しています。
不登校の子どもに合わせた学び方を制度化
2階部分では、不登校児童生徒など個別のニーズに応じて、「特別な学びの枠組み」を上乗せしたり、あるいは一部を代替したりできる授業枠組みを用意することを検討しています。
不登校児童生徒に対しては、文部科学大臣の指定を受けた「学びの多様化学校(旧:不登校特例校)」が、令和7年度現在、全国に小中高を合わせて80校以上設置されています。こうした学校では特例として総授業時数を減らすことが認められていたり、学び直しの時間が用意されていたりします。
次の学習指導要領では、不登校児童生徒のうち、特別の教育課程の対象となる児童生徒については、こうした取り組みを公立の小学校・中学校でも実施できるようにすることが検討されています。
特別の教育課程の対象となる児童生徒とは、次のような子どもを想定しています。
- 教育支援センター等による早期の伴走支援があれば、学びに向かうことができる状態にある児童生徒
- 心身の状態が回復傾向にあり、「学びたい」という意欲を持ちつつある児童生徒
- 現に、校内外教育支援センターで前向きに学習に取り組んでいる児童生徒

たとえば、週2日程度出席することができている児童生徒に対し、本人等の意向を踏まえ、年間約600コマの授業時数を設定しているとします。この場合において、週3日程度の出席を基本としつつも、本人の状態によって週2日程度の登校に変更したり、1日1コマ程度としたりするなど、柔軟に実施内容を決定・見直しできるようにしようとしています。
不登校の子どもの学びをどう評価する?
不登校児童生徒の学習評価についても、柔軟な対応ができる方向で検討を進めています。
現在の評価規準は、学年の教育課程が前提となっているため、その教育課程に沿った学習状況の評価が中心となっています。そこで、次の学習指導要領では、個別の教育課程を組みやすくしたうえで、学習のプロセスも評価しようとしています。
| 現在の学習指導要領 | 次期学習指導要領で検討されている内容 |
|---|---|
| 学年の教育課程が前提 | 個別の教育課程を組みやすくする |
| 学年の教育課程に沿った学習状況の評価が中心 | 学習のプロセスも評価 |
| 個別対応は学校によって差がある | 不登校児童生徒向けの学びを制度化 |
今の評価制度が抱えている課題はなに?
現在、不登校児童生徒の学習評価について、次のような課題があると考えられています。
- 評価材料が多く、課題の消化や記録の確認に時間が取られ、学習や指導の充実につながらない
- 1学期にできなかったことが学年末にできるようになっていても、前の学期の評定が変えられない
- ペーパーテストのみで思考・判断・表現も評価するのは限界がある

「学び直し」や「個別」の学びを評価しやすく
現行制度においても、積極的に学習成果を評価するための取組みが行われていますが、成績は本来在籍している学年の教育課程に基づいて評価しなければならないため、子どもの学習に対する努力や学びたい気持ちを後押しできるような成績を付けることには限界があります。
そのため、従来の評価方法では、十分な学習時間を確保できなかったり、下学年の学び直しをしたりしている児童生徒に対して、5段階評定を採用している学校では「1」を付けざるを得なかったり、評価ができないとして「/」を付けざるを得なかったりとするため、学習意欲や自己肯定感の低下につながっていることが指摘されてきました。
たとえば、中学1年生の生徒が小学校の算数を学び直して大きく成長したとしても、現在の仕組みでは中学1年生の学習内容で評価しなければいけないため、努力や成長が成績に反映されにくい場合があります。
そこで、次の学習指導要領においては、不登校児童生徒に対して次の3つのパターンの評価方法が提示されています。
- 在籍学年と同一の目標に基づき評価するケース
- 下学年の内容や在籍学年の一部の目標に取り組む場合、その実態に合わせた評価規準で評価するケース
- 児童生徒の実態を踏まえて指導のねらいを設定し、それに基づき個人の進捗や頑張りを記述で評価するケース

結果だけでなく学びの過程も評価
次の学習指導要領では、学習の成果だけではなく、取り組んできたプロセスも評価対象にしようとしており、次のような点を重視して不登校児童生徒の多様な実態に寄り添った評価の実現を図る方向で検討が進められています。
- 個別の指導計画を活用し、子ども自身の振り返りや教師のフィードバックを通じて、小さなステップの積み重ねを可視化する
- 児童生徒が取り組んできた内容や学習意欲をできる限り受け止める
- 在籍する学年に過度に縛られることなく、長期的な視点で、一人ひとりの変化や成長をベースに評価する
これは、評価規準を下げることを目的としているものではなく、児童生徒の学習状況や学習内容に応じて適切な評価規準を設定し、その達成状況を評価するという考え方に基づいています。
「学びに向かう力」はどう評価される?
子どもたちの「深い学び」を確かなものにするため、次期学習指導要領に向けて、「学びに向かう力・人間性」に対する評価方法が検討されています。「学びに向かう力」とは、分からないことを調べようとする姿勢や、自分で学習計画を立てて取り組む力、他者と協力しながら学ぶ姿勢などを指します。
そのひとつとして、各教科において「思考・判断・表現」の過程で「学びに向かう力」を構成する次の3つの要素が評価期間を通して「継続的に発揮された」と見てとれた場合に、評定を決定する際の判断材料となる「〇」を付与する仕組みを整えようとしています。
- 初発の思考や行動を起こす力・好奇心
- 学びの主体的な調整
- 他者との対話や協働

この「〇」は独立した評価観点としてではなく、「思考・判断・表現」の評価と一体的に勘案することで評定に影響を与えます。たとえば5段階評定において「知識・技能」をA評価、「思考・判断・表現」をB評価とした場合に、通常であれば「4」あるいは「5」の評定が想定されます。ここに「思考・判断・表現」のプロセスにおいて「〇」の評価があるかどうかを、最終的な評定を決定する際の判断材料のひとつとして考慮できるようにします。
ここで大事なのは「〇」が付いたからといって、自動的に評定がワンランクアップするのではなく、その児童生徒の「思考・判断・表現」がどの程度伸びたかによって判断が分かれるという点です。
この仕組みは、従来の「主体的に学習に取り組む態度」の評価が、ノートの提出や発言回数などの形式的・定量的な材料集めになりがち…という教師側の課題を改善するために考えられたものです。不登校児童生徒など、学習の進捗に遅れが生じている場合でも、学びに向かおうというプロセスや努力を見取り、学びの過程や成長が十分に評価されにくい実態を改善することが期待できます。
学校と外部機関が連携して子どもを支える
不登校児童生徒の多くは、校内の別室や校外の教育支援センター、民間施設などで学習しています。
そこで、次の学習指導要領では、学校と外部機関がバラバラに指導を行うのではなく、共通の目標を持って支援できるよう、情報の可視化・共有を徹底する方針を固めています。
具体的な運用方法は今後の議論で整理される予定ですが、たとえば、「不登校」「障害」「日本語指導」など複数の課題を持つ子どもに対し、個別の指導計画や支援シートをひとつの電子ファイルで一体運用する「2階シート(仮称)」の導入が検討されています。
学習評価の最終責任は学校(担任等)が持ちますが、教育支援センターなど学校外の指導員等から活動記録や成果、評価のたたき台などの情報を随時受けながら、多面的な見取りを行う体制を整えます。
情報共有には、教師・子ども・外部機関の三者にとって、次のようなメリットがあります。
- 教師の業務負担の軽減と効率化
- 俯瞰的な理解
- 「学びのサイクル」の共有
- 共通認識の形成
現状、各学校では「不登校」「障害(通級・特別支援)」「日本語指導」など、課題ごとに別々の指導計画や支援シートが作成されています。ひとつの電子ファイルによって情報を共有することで、指導要録や各種支援計画に必要な情報を効率的に整理・共有しやすくなります。
また、子どもの状況を個別のニーズ全体として俯瞰でき、より一貫性のある支援が可能になります。さらに、在籍校の担任と外部の指導員が「今、何を目標に、どんな方法で学んでいるか」という情報をリアルタイムで共有できるようになります。
このように「2階シート」は、単なる事務書類の統合ではなく、「バラバラだった支援の情報をひとつにまとめ、社会全体で子どもを支えるためのハブ」としての役割を果たすことが期待されています。
さいごに
現在、文部科学省は不登校児童生徒に対して「学校に戻すこと」を目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立することを目指すという方針を掲げています。
教育課程の柔軟化や新たな評価の仕組みが実現すれば、不登校児童生徒の「今できている学び」を認めながら成長を支えることが期待されます。
一方で、こうした制度を実際に機能させるためには、学校現場の理解や人的支援の充実も欠かせません。koedoでは、次期学習指導要領が導入されることによって、不登校児童生徒へのサポートがどのように変化していくのかについて、今後も定点観測を続けていこうと考えています。
【参考】
- 不登校児童生徒に係る特別の教育課程の対象となる児童生徒/文部科学省
- ポイント資料:概要版 教育課程企画部会論点整理/文部科学省
- 不登校児童生徒に係る特別の教育課程の教育活動等について/教育課程部会
- 不登校児童生徒に係る特別の教育課程の学習評価等の方向性について/不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ
- 検討資料⑧ 学習評価の在り方について/特別支援教育ワーキンググループ












