ネットリテラシーが低いことによるリスク、身に付けるべき3つの能力とは
インターネットは、技術者や研究者、学者による議論や情報交換に利用するところから始まりました。1969年アメリカ国内の4つの大学・研究機関を接続する形で運用を開始。日本国内では、1984年に東京大学、東京工業大学、慶応義塾大学の3大学を結ぶネットワークとして実験が開始され、1993年にはインターネット接続の商用サービスが開始されています。インターネットはその後、「Windows95」の発売とともに広く普及しました。
現在、インターネット上には多くの情報が蓄積・拡散され続けていますが、拡散されている情報がすべて正しいわけではありません。なかには危険な情報やウソも多く含まれています。
リテラシー(literacy)とは、もともと「読み書きの能力」を意味する英語です。
それが、日本では「使いこなす能力」という意味へと変化しました。
ネットリテラシーとは、インターネット・リテラシーの略で、インターネットを使いこなす能力のこと。インターネット上の情報や事象を正しく理解し、それを適切に判断・運用できる能力を意味します。
インターネットを正しく利用するための3つの能力
インターネットを安全に正しく利用するためには、次の3つの能力が必要です。
- 情報を受け取る能力
- 情報を発信する能力
- セキュリティに対する理解
情報を受け取る能力
インターネット上で興味のある記事を読んだり、気になるワードで検索したりするなど、インターネットを使えば使うほど、個人の趣味・嗜好に合った情報や広告が目立つようにカスタマイズされていきます。これをフィルターバブルと言います。また、SNS等で同じような意見ばかりを目にしていると、根拠もなくそれが「正しい」と思い込んでしまうことがあります。
インターネット上には、悪意をもってウソの情報が拡散されているだけではなく、発信した人の思い込みや誤解もそのまま拡散されています。
目にした情報を鵜呑みにするのではなく、ほかの情報と比較したり、情報の発信元を確かめたりするなど、積極的にチェックすることが大切です。
情報を発信する能力
差別発言をしたり、悪口を言ったりする行為は「してはいけない」ということを、多くの人は認識しているハズです。ところが、インターネット上は匿名性が高いため、ひぼう中傷や差別的発言があふれかえっています。
日常的に使わない人を傷つける言葉は、たとえインターネット上であっても「してはいけない」と認識しなければいけません。
一度拡散された情報は完全には削除できません。
「匿名だから大丈夫」と安易に考えずに、慎重さをもって情報を発信すること、そしてインターネット上でのコミュニケーションルールを守ることが求められます。
セキュリティに対する理解
インターネットの利用には、ウィルス感染や詐欺などさまざまな危険が潜んでいます。
インターネットを利用するうえで、リスクがあることを認識して、自分を守るための対策を取る必要があります。
ネットリテラシーが低いことによるリスクとは
「ネットリテラシーを身に付ける」ということは、情報を受け取ったり発信したりするときには「注意が必要だ」ということを理解しているということです。
ネットリテラシーを身に付けることで、インターネット上に潜む危険から遠ざかることができ、トラブルに巻き込まれるリスクを低減できます。
それでは、ネットリテラシーが身に付いていなかった場合には、どのようなリスクがあるのでしょうか。
詐欺による被害
インターネット上の情報はしっかりと見極めないと詐欺被害に遭う可能性があります。
たとえば、銀行やクレジット会社を装ったメールで偽のサイトに誘導し、個人情報をだまし取る「フィッシング詐欺」や、webサイトやメール、SNSなどに記載されているURLをクリックするだけで、不当な料金を請求される「ワンクリック詐欺」などが挙げられます。
最近は手口も多様化し、本物そっくりのサイトに誘導されることもあるため、注意が必要です。
個人情報の流出
SNSなどに写真をアップした際、たとえ顔が写っていなくても周囲の風景から住所が特定される可能性があります。また、制服や指定カバンなどによって、幼稚園や学校が分かってしまうこともあります。個人情報が流出することで、さまざまなトラブルに遭遇するリスクが高まります。
著作権侵害・肖像権侵害
たとえば、旅行先で何気なく撮った写真の中にポスターや広告が写り込んでいた場合、著作権や肖像権の侵害に該当する可能性があります。
また、漫画を撮影してアップロードする行為、動画やライブ配信を見ながら録画する行為も著作権侵害に該当します。違法と知りながら動画をダウンロードした場合も違法として2年以下の懲役、または200万円以下の罰金に科せられることがあります。
無料で使える画像や曲でも利用条件を確認し、ルールに従った使い方をしなければいけません。
名誉棄損
SNS上でつぶやいた言葉が意図せず人を傷つけたり、誤解を与えたりした場合、名誉棄損で訴えられる可能性があります。
また、たとえばSNS等で過激な内容で個人を攻撃した場合、それが再投稿であったとしても、「広めることに加担した」とみなされ、損害賠償請求、名誉棄損、侮辱罪などの責任に問われる可能性があります。
匿名? 実名? 諸外国と日本の差
インターネット上では、匿名性が高いために発言が過激になったり、攻撃性が増したりしてしまうことがあります。
たしかに日本では、匿名でSNSを利用することが当たり前となっていますが、諸外国においては、どうなのでしょうか。
少し古い資料ですが、総務省が平成26年に、SNSにおける匿名性について国際比較を行っています。
この調査で、SNS利用の有無と匿名・実名利用について調べたところ、日本では実名登録が推奨されているFacebook以外のSNSは匿名で利用している割合が高く、特にX(旧Twitter)では、7割以上が匿名で利用していることが分かりました。
SNSにおける実名公開の抵抗感についての質問では、日本では6割を超える人が「やや抵抗感がある」「抵抗感がある」と回答しています。諸外国ではその割合が3割~4割程度であることを考えると、日本では実名でSNSを利用することに抵抗を感じている人が多いことが分かります。
なお、利用率が高いと言われる10代から20代の若者においても同じ傾向が見られました。
「ネットリテラシー教育」の取り組み状況
総務省が、全国の高校1年生を対象に、インターネットを利用することに対するリスク対応能力に係るテストを毎年行っています。
令和5年の調査では、「プライバシー・セキュリティリスク」に対応する問題の正答率が68.8%と、そのほかのリスク対応に関する問題と比較すると、やや低いことが分かりました。
また、「インターネットを利用するうえでの注意点、または対応策について学校で教えてもらったこと」について複数回答可能な質問に対し、「ネットいじめ」が87.9%でもっとも多く、「個人情報・プライバシー」が83.9%と続いています。
一方で、「偽・誤情報(フェイクニュース)」は45.2%、「ファクトチェック」については14.9%、「生成AI」と、まだまだ教育が行き届いているとは言えませんが、「偽・誤情報に遭遇した際の対応」についての質問に対しては、全体の正答率が71.4%と、7割以上の高校生が適切な対応を取っていることが分かりました。
さいごに
スマホの普及や、GIGAスクール構想による小学生・中学生への1人1台の端末の配布など、大人だけではなく子どもも日常的にデジタルツールに触れる機会が増えています。
インターネット上におけるトラブルは、本人がネットリテラシーを理解し、気を付けていれば避けられるものもあります。
学校におけるネットリテラシー教育は進められています。令和5年の調査では、約7割の高校1年生がフェイクニュースに対して適切な対応ができていることが分かりました。
子どもが被害に遭わないよう、大人もネットリテラシーを理解する必要があると感じます。
koedoでは、今後も「ネットリテラシー教育」について定点観測を継続していこうと考えています。
【参考】
- インターネットの誕生/情報通信白書for kids
- インターネットリテラシーの重要性/情報通信白書平成26年版
- インターネットトラブル事例集(2022年版)/総務省
- 2023年度青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果/総務省情報流通行政局