小・中学校で端末利用が定着、Next GIGAに向けて浮上している課題とは?
全国の公立小学校・中学校に1人1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」の開始から3年が経過し、端末の更新など「NEXT GIGA(GIGAスクール構想 第2期)」に向けた取り組みが本格的に始まりつつあります。
GIGAスクール構想とは文部科学省の主導で端末の配布、高速インターネット環境の整備、デジタル教材の導入などを行ったプロジェクトで、ICT機器を利活用して個別最適化された学びを子どもたちに持続的に提供することを目指した取り組みです。
文部科学省の調査によると令和6年3月1日の時点で、小学生および中学生に対して平均で1.1台と、予備機を含めた端末が整備されています。また、高等学校においても令和6年度中にすべての自治体で、1人1台の端末の整備が完了する予定です。
現在、この整備された端末の更新が課題となっています。
端末は使う頻度にもよりますが、3年から5年でバッテリーが劣化したり、故障が増えたりしてきます。GIGAスクール構想」は、新型コロナウィルス感染症拡大によって大幅に前倒しされ、令和2年ごろから本格的な端末の配布が始まっています。つまり、対応が早かった自治体では、そろそろ更新時期に入ってきているということです。
なお、文部科学省は、配布された端末の整備・更新の時期を令和6年度から令和10年度までとしています。
GIGAスクール構想の現在の課題とは
「GIGAスクール構想 第2期」に入っている現在、次のような課題が挙がっています。
- 端末のさらなる利用
- 端末の利用頻度の格差解消
- 教員のICTスキルの向上
端末のさらなる活用
ICT機器を学習にどのように活用していくべきか…という点については、端末が配布されて以来、多くの学校で課題になっていると推測されます。
令和6年1月、株式会社MM総研が全国の教育委員会に対し「小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用動向調査」を行っています。
この調査によると、端末を「授業で毎日利用」している割合が全体の77%と、前回の調査から引き続き高い割合を維持していて、端末の利用が定着していることが分かります。
その一方で、端末持ち帰りを「毎日実施」している自治体は24%と4分の1程度に留まっています。毎日、端末を持ち帰ることに関しては、「ランドセルが重くなって通学が大変」という意見もあり、実際に子どもたちもそう感じています。
端末の持ち帰らせて「何をさせるのか」という点も、今後、解決すべき課題のひとつとして挙げられます。
今回の調査では、用途別の利用率に関しても調査を行っています。この調査では、どの項目でも前回の調査よりも利用率が増えています。たとえば「調べ学習」が76%、「学習支援ソフトやアプリの利用」が73%、「考えをまとめて発表」が73%、「デジタル教科書・デジタルドリル」が73%となっていて、自治体ベースではありますが、ほとんどの用途で7割前後の割合で端末を利用していることが分かりました。
しかし、ICTを授業で利用する割合は、世界と比較すると日本はまだまだ低いことが、OECD(経済協力開発機構)が各国の教育を比較する一環として行っているPISAと呼ばれる学習到達度調査によって明らかになっています。
PISAは3年に1度、義務教育修了段階の15歳の子どもを対象に行っている調査で、日本では高校1年生が対象です。そのため、MM総研が行った小学校・中学校を対象としたこの調査と純粋に比較できませんが、2022年に行われた調査では、「授業でどれくらいICT機器を利用しているか」という質問に対して、「国語」「数学」「理科」のいずれの教科においても、ICT機器の利用率が日本はOECD平均の半分程度となっています。
さらに、「ICTを用いた探求型教育の頻度」は、OECD平均が0.01に対し日本は-0.82という結果になっていて、ICT活用調査に参加したOECD加盟国29カ国中29位と最下位でした。
端末の利用格差の解消
MM総研が行った調査で「授業における用途数」について確認したところ、「7つ以上の用途で利用」と回答した自治体が44%と、前回の調査よりも31ポイント増加。「3つ~4つの用途で利用」と回答した割合が前回の調査より大幅に減っていることから、前回の調査で「3つ~4つの用途で利用」していた自治体の一部において、利用場面が増えたのかもしれません。
その一方で、「1つ~2つの用途で利用」が前回の調査で29%に対し、今回の調査では24%と5ポイントしか減少していません。このことから、依然として4割程度の自治体が端末利用に消極的であることが伺われます。
教員のICTスキルの向上
MM総研が行った今回の調査において、教員のICTスキル不足を課題と考えている自治体に対して、その原因として考えられることを質問したところ、「スキル習得の時間が足りていない」が64%、「デジタルに抵抗感のある教員が多い/メリットを感じない」が57%となりました。
一方で、「気軽に相談や質問できる環境がない」が14%、「リーダー(校長など)の後押しや積極性がない」が12%と、スキルを習得すること自体に大きな課題は生じていないと考えられます。
なお、文部科学省が令和6年3月に行った「令和5年度学校における情報化の実態等に関する調査」によると、ICT研修の64%が学校で行われていて、研修を受講した教員の割合は72%であることが明らかになっています。
文部科学省による端末リプレイスに備えた支援策
小学校・中学校において端末の利活用が進むなか、バッテリーの耐用年数の限界が迫り、故障端末が増加しています。
文部科学省は、今後5年程度を目安に端末の更新や故障した際でも子どもの学びが止まらないよう予備機の整備を進めるとして、令和5年度の補正予算案で2,661億円を計上しています。
同時に都道府県に5年間分の基金を造成し、この基金において令和7年度までの更新分(約7割)に必要な経費を計上しています。
また、文部科学省は1人1台端末の利活用の促進を阻害している原因のひとつとして、ネットワークの遅延や不具合を挙げています。
文部科学省が行った調査によると、令和4年度に自治体等で発生した不具合例として、「動画視聴時に映像の乱れが生じたり、スムーズに再生できない」「クラスで一斉にオンライン教材などを利用する際、一部の児童生徒が教材に接続できない状況が発生」といった事象が挙げられます。
今後、デジタル教科書の導入をますます進め、教育DXを加速させるためには、通信ネットワーク環境に関わるトラブルは致命的とも言えます。つまり現状のネットワークを分析・診断することで問題点を把握し、課題があった場合には必要な改善を早急に図る必要があります。
この問題に対し文部科学省は、都道府県や市町村を対象にネットワークの分析・診断に必要な費用として補助対象となる事業費の上限を100万円とし、1校あたり333.000円を上限に補助金を交付するとしています。
さいごに
GIGAスクール構想が本格的に稼働し始めて3年、すでに全国の小学生・中学生に対して1人1台の端末が整備されていますが、新たな課題が浮上してきています。
そのひとつが、「端末の持ち帰り」が挙げられます。端末の学校での利活用が定着されつつある一方で、端末の持ち帰りを「毎日実施」している自治体は、全体の4分の1程度です。
端末を持ち帰る必要はどこにあるのでしょうか。
これに関しては、たとえばICTスキルやネットリテラシーをどこで身に付けさせるのかを考えてみてもいいかもしれません。
これまでも学校の授業だけでは理解しきれない部分を、家庭学習でカバーしてきました。これから、ますますITが進化していくことを考えると、ITに関する知識を身に付けることを学校だけに任せるのではなく、端末を持ち帰り、家庭で保護者と一緒に調べ学習をしたり、ネットリテラシーについて考えたりしてもいいのではないでしょうか。
koedoでは、今後もGIGAスクール構想について定点観測を続けていこうと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント/国立教育政策研究所
- ICTを活用した授業スタイル変革の格差広がる 小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用同行調査(2024年1月時点)/株式会社MM総研
- 令和5年度学校における情報化の実態等に関する調査結果(概要)/文部科学省
- 令和5年度補正予算案への対応について/文部科学省