小・中・高等学校で暴力件数が過去最多を更新、小学1年生の加害児童数が9年で約10.5倍に
小学生や中学生にとって、「学校」は生活の半分以上を過ごす場所です。しかし、学校で子どもがどのように過ごしているかは外部からは分かりにくく、大人の目が届きにくいのが現実です。
その学校での暴力行為認知件数が過去最多を更新したことが文部科学省より発表されました。
令和4年度の暴力発生件数は95,426件
文部科学省の「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」によると、小・中・高等学校および特別支援学校における暴力行為の発生状況は95,426件(前年76,441件)と過去最多を記録しています。
文部科学省の調査によると、児童生徒の暴力行為のうち、対教師、生徒間、器物破損のいずれも昨年度よりも増加していますが、もっとも多いのは生徒間の暴力行為で全体の7割を占めています。
暴力行為の背景にあるものとは
文部科学省は暴力行為が増加している原因として、次のようなことを挙げています。
- 児童生徒の生育、生活環境の変化
- 児童生徒が経験するストレスの増大
- 感情をコントロールできない
- 考えや気持ちを言葉でうまく伝えられない
- 話を聞く能力の低下
そして、その背景に規範意識の低下、人間関係の希薄化、映像等の暴力場面に接する機会の増加など、児童生徒を取り巻く家庭・学校・社会の変化に伴う多様な問題があると考えています。
暴力行為認知件数 もっとも多い学年は?
校内における暴力認知件数は、25年前の平成9年(28,526件)からは約17倍、20年前の平成14年(3,3765件)から約2.8倍増えています。
学年ごとに加害児童数を見ると、中学1年生が13,028人に対し、中学2年生が9,472人、中学3年生が5,416人と、中学1年生がほかの学年と比較して突出して多いことが分かります。
中1ギャップ
この10年ほどの間に教育業界では、中学1年生の加害児童数が増える現象のこと指し、「中1ギャップ」と表現することが定着しつつあります。小学校を卒業して中学校へ進学した際、新しい生活スタイルに馴染めず、授業についていけなくなったり、不登校になったり、いじめが起こったりする現象のことです。
少し古い資料ですが、平成24年、国立教育研究所発行の「不登校・長期欠席を減らそうとしている教育委員会に役立つ施策に関するQ&A」の中で、中1ギャップに触れています。
国立教育研究所では、平成16年度に小学校4年生だった子どもが平成21年度に中学校3年生になるまでの6年間12回の被害経験率を比較しています。
この調査によると、被害経験率は中学時代よりも小学時代の方が多いことが分かります。
つまり、中学1年生でいじめが急増するという印象は、あくまでも学校による「認知件数」によるもので、実態と差がある可能性もあります。
小学校1年生の加害児童数は9年前の約10.5倍
平成9年度、もっとも暴力行為が多かったのは中学生で、次いで高校生でした。それが平成25年度には小学校が高校を上回り、平成29年度には中学校も抜いています。
いわゆる「第2次反抗期」が早まったことにより、小学校高学年の暴力が増えているのかと思いきやそうではありません。
小学校時代の暴力行為は、データ上は突出して多い学年はありません。
令和4年度の文部科学省の調査では、5年生がもっとも多く8,292件、1年生がもっとも少なく6,569件です。
しかし、「学年別加害児童数」を平成26年、平成30年、令和4年で比較すると、小学6年生の加害児童数は、平成30年が平成26年の約2.1倍、令和4年度が平成26年の約2.5倍です。一方、小学1年生の暴力行為は平成30年が平成26年の約5.3倍、令和4年度で約10.5倍に増えています。
就学前の過ごし方に変化
小学1年生の暴力件数が増えている理由として、就学前の過ごし方に変化が起きている可能性があると言われています。
ベネッセ教育総合研究所が、5年ごとに就学前の乳幼児の生活の様子や保護者の子育てに対する意識や実態を把握するために「幼児の生活アンケート」を実施しています。
令和3年に行われた調査によると、「平日に幼稚園や保育園以外で遊ぶときにだれと一緒の場合が多いか」という質問に対し、「母親」が86.9%ともっとも多く、次いで「きょうだい」が38.8%、「父親」が22.4%と続いています。平成7年からの変化を見ると、遊び相手が「母親」である割合が年々増加している一方で「友だち」が減少し続けていることが分かります。
つまり、最近の子どもは、同年齢の子どもと遊んだ経験が少なく、当然、大人数で遊んだ経験も少ないということです。
そんな子どもが、小学校に入学することで、急に同年齢の集団の中に放り込まれているわけですから、なんらかのトラブルが起きても不思議ではありません。
また、少子化により「ケンカ」の経験数が減っています。小さな子どもは、自分の気持ちを上手に言葉にできずに思わず手がでる…ということもあるのかもしれません。
政府の対応
小・中・高等学校での暴力行為の増加に伴い、文部科学省は平成23年「暴力行為のない学校づくりについて」として報告書を公表しています。
この報告書では、児童生徒が安心して学べる環境を確保するために適切な指導・措置を行うことを基本姿勢としつつ、児童生徒が抱えている個々の事情に配慮して内面に迫る指導を薦め、関係機関等との連携のもと、抜本的な解決に向けて取り組むことが大切だとしています。
また、保護者からの信頼関係を確立するために次のような要件が不可欠だとしています。
- 保護者とも十分に話し合うこと
- 学校の指導方針についての理解と協力を得ること
- 地域社会とも協力関係を築いていく努力
さらに、担任がひとりで抱え込まない体制が整っているか、校内指導体制における指導方針やマニュアルが現状に見合ったものかなどの点検が必要であるとしています。
さいごに
文部科学省の調査により、令和4年度の小・中・高等学校の暴力行為件数が過去最多の95,426件であることがわかりました。
ただ、文部科学省は「暴力行為によってケガの有無や病院の診断書、被害者による警察への被害届の有無などに関わらず、暴力行為に該当するものすべてを対象」としていて、その判断は学校や自治体に任されています。つまり、軽微なものを含めて、どこまでカウントしているかが学校や自治体によって異なります。
「暴力行為」の定義をもっときちんと決めることで、また違ったデータが見えてくるかもしれません。loedoでは、今後も、「小・中・高等学校の暴力行為」について定点観測を続けていきたいと考えています。
(担当:koedo事業部)
【参考】