文科省が生成AIのガイドラインを改訂、パイロット校の取り組みから分かったこととは

文部科学省は令和6年12月26日、これまで暫定版としていた教育現場における生成AI(人工知能)の利用ガイドラインを「リスクや懸念に対策を講じたうえで利用を検討すべき」として、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を公表しました。

このガイドラインには、教育現場において生成AIを適切に利活用できるよう、基本的な考えや押さえるべきポイントが示されています。

生成AIとは?

生成AIとは、学習したデータから文章、画像、プログラム等を生成できるAIのことで、令和4年11月にOpenAI社からChatGPTが公表・リリースされてから、急速に社会に普及しました。今では文章だけではなく動画・画像・音声等、異なる種類の情報をまとめて扱えるようになっています。

生成AIとは
初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン/文部科学省(最終閲覧日:2025.1.23)

文部科学省が令和5年7月に公表した暫定的なガイドラインでは、これからの子どもたちは生成AIをはじめとしたテクノロジーを使いこなせるようになることは重要だと認めている一方で、教育現場での生成AIの利活用は「限定的な利用から始めることが適切だ」としていました。

今回の改定案では、教育現場に向けた生成AIの指針として、次のような指針を示しています。

生成AIの指針

  • 位置づけ
    • 一律に禁止したり、義務付けたりするものではない。
  • 学習場面での利用
    • リスクや懸念に対策を講じて利用を検討すべき
    • 小学生が直接利活用することのついては、より慎重な見極めが必要
  • 校務での利用
    • 働き方改革のため、校務に利用することは有用

利活用のポイント

教育現場で生成AIを利用するにあたり、どのような注意が必要なのでしょうか。

文部科学省は、今回改訂したガイドラインにおいて、次の5つのポイントを挙げています。

学校現場における生成AI利活用のポイント

  • 安全性を考慮して訂正に利用すること
  • 情報セキュリティを確保すること
  • 個人情報やプライバシー、著作権を保護すること
  • 公平性を確保すること
  • 透明性を確保し、関係者への説明責任を取ること

ガイドラインでは、生成AIを利用する前に約款を確認し、年齢制限など児童生徒が利活用するにあたってのリスクが許容できるものか否かを校長や担任教師が確認し、そのうえで必要に応じて保護者の理解を十分に得たうえで、教師が適切な指導・監督するよう促しています。

また、利用する生成AIサービスに一部のサービスを利用拒否できるオプトアウト設定ができる場合には、機械学習を許容しない設定をしたうえで利用することや、プロンプト(対話形式のシステムにおいて指示や質問を入力すること)からは学習しない生成AIを選択するなど情報セキュリティを確保することを求めています。

さらに氏名や個人情報を入力しないことや、外部のコンテストなどに作品として提出する場合には著作権侵害にならないよう注意することを促しています。

そして、生成AIが導き出す回答には偏りがある可能性があることを児童生徒に認識させることも大切だということを明記しています。そのため、情報の真偽を確かめる「ファクトチェック」の方法を意識的に教えることも必要だとしています。

このほかにもガイドラインでは、現在、無償、もしくは安価な価格で利用できている生成AIサービスが、将来にわたって同じ条件で利用できるとは限らないことも指摘しています。そのため、保護者の経済的負担等にならないよう十分に配慮したうえで、利用するサービスを選択することも重要だとしています。

パイロット校の取り組みから分かったこととは

文部科学省は、生成AI利用に関する暫定的なガイドラインを策定した令和5年7月に、生成AIを学校教育のなかで活用するために、先導役となる「生成AIパイロット校」として全国で52校を指定しています。

パイロット校では生成AIの仕組みを理解したり、学びに活かしたりする能力を高めるために次のような4段階を設定していました。

生成AIの理解・能力を高める4段階

  • 生成AIの仕組み、利便性・リスク、留意点など「生成AI自体を学ぶ段階」
  • よりよい回答を引き出すための対話スキル、ファクトチェックの方法など「使い方を学ぶ段階」
  • 問題を発見し、課題を設定する場面や自分の考えを形成・整理・比較・深めるなど、「各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階」
  • 生成AIを検索エンジンと同様に普段使いする「日常使いする段階」

パイロット校では、生成AIを利用して授業で取り扱う教材や確認テスト問題のたたき台を作成したり、授業で発問に対する回答のシミュレーション相手として活用していたほか、学習場面では英会話の相手として活用したり、議論を深めるために足りない視点を見つけるために活用したりしていました。

文部科学省は、こうした実証内容の分析および傾向を把握するために、パイロット校における担当者に対しアンケートを実施しています。

その結果、生成AIを利用することで児童生徒の学習意欲や創造性の低下が懸念されていましたが、現状では学習意欲や創造性が低下すると感じた学校関係者はほとんどいなかったことが分かりました。

その一方で生成AIの回答を鵜呑みにするケースもあったことから、ファクトチェックを行う必要性を周知することが重要だということが明らかになりました。また、発達の段階によっては生成AIの仕組みを理解させることが困難だったケースがあったため、生成AI自体に関する理解をさらに深めていく必要があることが分かりました。

生成AI教育利用に関するアンケート結果
初等中等教育段階における生成AIに関するこれまでの取組み/文部科学省(最終閲覧日:2025.1.23)

また、児童生徒自身が適切な場面で生成AIを活用できていなかったケースもあるため、活用環境を学校側が整える必要があるとことが判明しました。

生成AI教育利用に関するアンケート結果
初等中等教育段階における生成AIに関するこれまでの取組み/文部科学省(最終閲覧日:2025.1.23)

さいごに

令和4年11月にChatGPTが公表・リリースされてから、生成AIは急速に進化・普及し、ビジネスの現場においても生成AIを利活用する場面が増えてきています。

学校現場において生成AIを利活用するにあたり、たとえば、AIに人格があるかのように誤認してしまったり、AIが出した回答を鵜呑みにしてしまったりなど、さまざまなリスクが考えられます

また、生成AIを安易に利活用することで、AIに依存しすぎてしまったり、目的に必要な学習過程が省略されてしまったりなど、子どもの資質や能力に影響が出ないかなど心配は尽きません。

ただ、生成AIが普及し始めた以上、「使わない」という選択をするのではなく、正しく使えるように導くことも大事なのではないかと考えられます。

koedoでは、今後も学校現場における生成AIの利活用について観測を続けていこうと考えています。

【参考】