文科省がデジタル教科書の正式導入を検討、デジタル教科書を利用するうえでの懸念とは?
令和7年1月18日、現在は紙の教科書の代替教材とされている「デジタル教科書」を正式な教科書に位置付けたうえで、各教員委員会が紙の教科書とデジタル教科書のどちらを使うかを決める選択制の導入を文部科学省が検討していることが明らかになりました。
もしデジタル教科書が「正式な教科書」として認められて選択制が導入された場合、国公私立を問わず全国の小学生・中学生を対象に、自治体が選んだどちらか一方の教科書が国から無償で配布されます。
現在のところ、デジタル教科書の学習効果を明らかにしたデータはありませんが、次のようなメリットが挙げられます。
- 動画など多様なコンテンツを利用しながら学べる
- 文字の拡大・読み上げが可能
- 最新情報を反映しやすい
一方で、デメリットとしては次のようなことを挙げられます。
- 通信トラブルに影響される
- 記憶の定着の低下
- 視力の低下
デジタル学習よりも紙の学習の方が効果あり?
令和4年4月、富山大学が大学生を対象に「わかりやすさ」「記憶」「集中」「眼の疲労」の4つについて、紙とデジタル機器の学習効果を比較・調査しています。
その結果、学習内容の「わかりやすさ」に関しては「紙がよい」が32%、「同等」が32.8%、「デジタルがよい」が35.2%と回答されていて大きな差はありませんでした。しかし「記憶」に関しては約71%、「集中」に関しては約75%の学生が「紙がよい」がと回答しているのに対し、「デジタルがよい」と回答した学生はいずれも約6%に留まっています。さらに「眼の疲労」に関しては約85%の学生が「デジタルで悪い」と回答しています。
また、学習効果と学習時間の関連の調査では、「わかりやすさ」については学習時間が長いほどデジタル学習の効果を認めている一方で、「記憶」「集中」については、長時間デジタル機器と触れている学生でも「デジタル学習が紙よりもよい」と回答する割合はいずれも10%以下でした。
つまり、情報へアクセスしやすく、場合によっては音声を利用しながら学べるデジタル学習は「わかりやすさ」では紙の教科書より優れていますが、「記憶」「集中」に関しては紙の学習の方が優れているということです。
デジタル教科書を利用するうえでの懸念とは?
教育現場では、紙の教科書とデジタル教科書の選択制導入についてどのように考えているのでしょうか。
読売新聞が全国の小学校・中学校の校長を対象に複数回答可能な「デジタル教科書を利用するうえでの懸念」についてアンケートを実施しています。
その結果、もっとも多かったのは「フリーズやページめくりの遅さなど通信トラブル」で約60%、続いて「学習用端末の紛失や破損時の対応」が約48%、「視力や姿勢の悪化など子どもの健康面への影響」が47%となっています。
そのほかにも、約36%の学校で「授業と関係ないネットやゲームの操作に集中してしまう」と回答しています。
デジタル教科書の効果・影響は?
文部科学省は、令和5年11月、全国の小学校中高学年および中学生を対象にデジタル教科書の効果・影響を調査しています。
その結果、デジタル教科書の使いにくいとろことして小学校中高学年の47.6%、中学生の59.4%が「ログインするのに時間がかかる」と回答。また、小学校中高学年の35.3%、中学生の47%が「教科書のページをめくるのに時間がかかる」と回答しており、通信速度の遅さを指摘しています。
また、この調査ではデジタル教科書の使用感についても児童生徒に質問を行っています。
その結果、小学校中高学年・中学生ともに紙の教科書よりもデジタル教科書の方が使いやすいと回答した割合が高かった項目は次のとおり。
- いろいろな情報を集めやすい
- 図や写真が見やすい
- 一度にいろいろな資料を見て比べやすい
一方で、小学校中学年・中学生ともに紙の教科書の方が使いやすいと回答した割合が多かった項目は次の2つです。
- 書き込みやすい
- 自分の学んだことを残しやすい
さらに、中学生はこのほかにも次の3つの項目で紙の教科書の方が使いやすいと回答しています。
- 見たいページが開きやすい
- 文字が見やすい
- 教科書の内容を捉えやすい
つまり、児童生徒は図や写真を見たり、情報の収集・比較にはデジタル教科書の方がいいと考えていますが、自分の学んだことを残したり、教科書の内容を捉えたりするのは紙の教科書の方がいいと考えていることが分かりました。
デジタル教科書による授業負担への影響は?
この調査では、教師に対してデジタル教科書を利用することでどのような影響があったかについても調査しています。
その結果、授業準備において「これまで手作りしていた素材を準備するための負担が軽減した」と感じている教師が多いことが分かりました。
また、半数程度の教師が授業中に児童生徒との対話の時間や、児童生徒間の意見の交流の機会が増えたと感じていることも明らかになりました。
一方で、授業後の負担に関しては、「評価を急いで行う必要がなくなった」という質問に対しては約6割の教師が「あまりあてはまらない」「あてはまらない」と回答。さらに「児童生徒の画像ファイルを開くなど繰り返しの作業に負担を感じている」という質問に対しては約4割が「あてはまる」「少しあてはまる」と回答しています。
さいごに
デジタル教科書は令和4年に紙の教科書との併用が決まり、令和6年度から小学校5年生から中学3年生の英語、および一部の算数・数学で先行導入されています。
デジタル教科書は音声や映像で理解を助ける役割や、教師の授業準備の負担軽減に対して期待されています。その一方で、「記憶の定着」や「集中」には不向きだとされています。
また、子どもがゲームで遊ぶなど授業と関係ない操作をしたり、視力の低下や姿勢の悪化など子どもたちの健康に害が出ていたりなど、デジタル端末を利用することによる悪影響も出てきています。
さらに、通信環境が十分でないためエラーが出た場合の対処に教師が不便を感じているなど、デジタル教科書が正式に採用された場合の不安は尽きません。
koedoでは、今後もデジタル教科書の導入など教育現場のデジタル化について定点観測を続けていこうと考えています。
【参考】
- デジタル教科書への全面移行、多くの校長は「強い懸念」…海外では「脱デジタル」へ転換も/讀賣新聞オンライン
- デジタル教科書「紙と併用を」、小中学校校長の95%が希望…文科省はデジタル拡大の方針/讀賣新聞オンライン
- 「デジタル」も正式教科書、文部科学省が「紙」との選択制検討…専門家から懸念も/讀賣新聞オンライン
- 紙vsデジタル学習:ディープラーニング(深い学び)は紙が良い デジタルは覚えにくい、集中しにくい、眼に負担 医学・薬学・看護学生調査/富山大学
- 大規模アンケート調査等の実施による 学習者用デジタル教科書の効果・影響等の 把握・分析等に関する実証研究事業 成果報告書/アビームコンサルティング株式会社