AIドリルのメリットとデメリット、「手書き」と「タブレット入力」の違いとは?

現在、国内の多くの小学校・中学校で「AIドリル」など、タブレットを活用して授業を行ったり、宿題を行ったりするスタイルが定着しつつあります。

AIドリルとは、人工知能の技術を活用して学習をサポートするデジタル教材です。

紙のドリルと異なり、児童生徒の解答パターンや正答率を分析し、個々の理解度に合わせて問題が自動的に選択されます。

たとえば、正答率が低い場合は基礎的な問題が出題され、正答率が高い場合には応用問題へとレベルアップできます。

AIドリルのメリット

教育現場にAIを導入することで、次のようなメリットがあります。

個人のレベルに合った学習をサポート

これまでの授業は多数の児童生徒に対し、教師が一方的に教えるのが一般的でした。
この形式の授業の欠点は、一人ひとりの学習速度に寄り添えないことです。

そのため、授業の内容についてこられない子どもが取り残される一方で、物足りなさを感じる子どもがいるという状況が生み出されています。

AIドリルは、一人ひとりの学習状況や理解度に合わせた問題を出題されます。つまり、間違えた問題から分析した苦手分野から問題が出題されるため、効率的な学力アップにつながります。

蓄積されたデータをもとに、リアルタイムでアドバイス

学習データを継続して蓄積できることも、AIドリルを導入する大きなメリットとして挙げられます。

たとえば児童生徒の解答パターンや、解答に至るまでの所要時間などのデータを分析することで、児童生徒一人ひとりの弱点や学習傾向が把握できます。

そのデータをもとに、「いまするべき学習」をリアルタイムでアドバイスできたり、より理解度を深めるための学習を提案できたりするため、勉強を効率よく進めることができます。

教師の負担軽減

AIドリルを活用することによって、教師がこれまで行っていた採点や進捗管理を行う必要がなくなるため、教師の負担軽減につながります。

これまでもOCRとして、採点の自動化は確立されていましたが、昨今のAIは進化が目まぐるしく、手書きの答案を即時に採点してくれるサービスも登場し始めています。

採点業務の負荷を減らすことで、教師は授業の準備や児童生徒一人ひとりに合った指導を行うなど、AIには任せられない分野の仕事に集中できます。

AIドリルのデメリット

AIドリルの導入は、教育現場にメリットをもたらす一方で、もちろんデメリットも存在します。

AIにデータを学習させる必要がある

AIは蓄積された大量のデータを分析することで、適切な問題を提供できるようになります。これは、児童生徒一人ひとりの学習パターンや理解度を把握するためには、AIに学習させる準備期間が必要だということです。

つまり、導入直後は児童生徒の学習履歴がないため、AIの精度が十分ではない可能性があります。

子どもの「考える力」を阻害する可能性がある

AIドリルは活用の仕方によって、子どもから「考える力」を奪ってしまう可能性があります。

たとえば、不得意な分野をAIが判断して問題を提供するということは、子ども自身が「不得意な分野を克服するためには、どうすればいいのか」について考える機会を奪っていることにつながります。

また、選択問題のドリルばかりを利用していると、問題解決のために必要な「試行錯誤」や「創造的思考」の機会が減少する可能性があります。

「手書き」と「タブレットに入力」の違い

タブレット端末を利用した場合と「紙とペン」を利用した場合を比較すると、タブレット端末を利用した場合の方が記憶の定着につながりにくいというデータがあります。

これは、脳の仕組みと関係しています。

脳には、場所によってそれぞれ役目があります。
たとえば字を書いたり、楽器の演奏をしたりなど、習得した動作をコントロールしているのは左前頭葉、記憶を処理するのは海馬、視覚を司っているのは後頭葉です。

NTTデータ経営研究所と日本能率協会が共同で、「手帳にペンで記入」「タブレットにタッチペンで入力」「スマホに入力」という3つのグループに分けてMRI(磁器共鳴画像装置)の中で実験を行ったところ、「手帳にペンで入力」したグループが、ほかのどのグループよりも、前頭葉・海馬・側頭葉3カ所すべてで活動量が多いことが判明しました。

では、なぜ「手帳にペンで記入」したグループの脳の働きがもっとも活発だったのでしょうか?

手帳にペンで文字を記入する場合、キーボードを使ったりスマホに入力したりするよりも時間がかかるので、聞いた内容すべてを書き取ることができません。そのため、ペンで記入する際には「書く」という行為そのものよりも、むしろ「要点を絞る」という作業に時間を割いています。この「要点を絞る」という作業が記憶の定着につながっています。

また、手書きしたときに「どのページのどのあたりに書いた」ということまで、なんとなく覚えている人もいるのではないでしょうか。

人は記憶を思い出すときに文字情報だけではなく、位置情報も頼りにしています。ところが、タブレットやスマホに入力した場合には、スクロールしたりリンクでページごと移動したりすることで画面が入れ替わるため、「画面と文字情報」の位置関係が記憶しにくいのです。

これは、文字情報と位置情報を自然と覚えている「紙とペン」の方が、スマホやタブレットを利用するよりも記憶が定着しやすいということを意味しています。

さらに「書く」という行為は、「情報の入力→モノゴトを分解・整理→出力(書く)」という過程をたどっています。つまり、情報を自分なりに理解して、自分の言葉で組み立て直して文字にしているということで、この一連の流れが理解力や記憶力に直結しています。

一方で、キーボードで入力している場合には、情報を入力することに集中しすぎるあまり、「モノゴトを分解・整理する」というプロセスを素通りしてしまいがちです。

心当たりがある方もいるのではないでしょうか。

つまり、「手書き」している場合には、情報を整理し、重要度の高い部分を選択して、自分の言葉で書いているのに対し、キーワードで入力している場合には、片っ端から入力してしまうため、情報がきちんと整理しきれていない可能性があるということです。そのうえ「考える」という行為を素通りしてしまうので、「わかったつもり」になっている場合もあると推測されます。

さいごに

AIドリルをはじめとしたデジタル教材は、個人のレベルにあった学習をサポートできたり、自動で採点してくれるため教師の負担軽減につながったりと、さまざまなメリットがあります。

その一方で、AIに学習させるために一定程度の期間が必要だったり、子どもから「考える力」を阻害する可能性があったりするなど、デメリットも存在します。

また、タブレット端末に入力するよりも「紙にペンで記入」した方が、記憶の定着につながりやすいというデータもあります。

AIドリルにはAIドリルの良さがあり、手書きには手書きの良さがあります。

たとえば反復練習にはAIドリルを使用し、漢字を覚える際にはノートに書くといったように、どちらか一方に偏るのではなく、適切な使い分けも必要だと考えられます。

koedoでは、教育現場にどのようにテクノロジーが浸透していくのか、引き続き定点観測を続けていこうと考えています。

(koedo事業部)

【参考】