【いじめ×IT】令和4年度 いじめ認知件数約68万件、加害者と被害者の関係は…?
令和5年10月、文部科学省が「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」を公表しました。
これは、主に「暴行事件」「いじめ」「不登校」について各自治体が調査した結果をまとめたものです。ここでは、「いじめ」について触れていきます。
いじめの認知件数が過去最多を更新
この調査によると、令和4年度のいじめ認知件数宇は、小学校が551,994件、中学校が111.404件、高等学校が15,568件で合計681,948件となっており、前年度(615,351件)と比較すると約1割増加しています。
令和2年度、コロナウィルス感染症による一斉休校、行事や部活などの制限により大幅に減少したいじめ認知件数が、令和4年度再び増加傾向となり過去最多となりました。
文部科学省は、いじめの認知件数が増えたことについて、次のように考えています。
- 部活動や学校行事などの活動が再開されたことによって、接触機会が増えたため
- 法の理解が進んだことにより、いじめの認知に対する理解が広まったため
- アンケートや面談の充実など、児童生徒に対する見取りの精緻化
- SNS等のネット上のいじめに対して積極的な認知が広まったため
いじめを認知した学校数は小学校で17,420校(約90%)、中学校で8,723校(約85%)と、いずれも前年度より2%ほど増加しています。
なお、各自治体からの報告によると、小学校の約72%、中学校の83%が、令和4年6月末時点でいじめの認知件数が前年度より増加しています。
いじめの解消状況
令和4年度に認知された「いじめ」は、年度末時点で小学校・中学校いずれにおいても約75%が解消していると報告されています。
なお、文部科学省は、いじめが「解消している」状態とは、少なくとも次の2つの条件が満たされている必要があるとしています。
- いじめに係る行為が止んでいる状態が少なくとも3か月継続していること。
- 「いじめ」が止んでいるかどうかを判断する時点において、被害児童およびその保護者が心身の苦痛を感じていないことを面談等により確認できたこと
各自治体からの報告によると、令和4年6月末の時点で、約85%の自治体が前年度と比較して「いじめの解消」状況が減少しています。
いじめの解消率が減少した要因として、次のようなことが考えられます。
- 安易に解消せず、丁寧な対応を行っているため
- 解消の定義である「3か月」を経過しない事案の増加(転校・卒業を含む)
- SNS上のトラブルなど、見えづらい案件の増加
いじめの態様別状況
いじめを態様別に見てみると、小学校・中学校では「冷やかしやからかい」がもっとも多く、「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」が続きます。
一方、高等学校では、「冷やかしやからかい」がもっとも多く、「パソコンや携帯電話等でひぼう・中傷」が多い傾向です。
パソコンや携帯電話等による、いわゆる「ネットいじめ」の件数は全体で23,920件となっており、前年度に続き増加傾向にあることが分かりました。
加害者と被害者の関係は…?
文部科学省は、いじめ防止対策推進法で「いじめ」を次のように定義しています。
いじめ防止対策推進法 第二条
「いじめ」とは、当該児童が一定の人間関係にある者から、心理的、物理的攻撃(インターネットを通じて行われる行為を含む)を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。
e-GOV 法令検索
かつて「いじめ」は、どこのグループにも属していない子どもを集団でいじめるというのがもっとも多いパターンでした。しかし、最近のいじめは、いつも一緒にいるグループの中に、いじめの対象となる子どもをつくり、「遊び」や「ふざけ」の延長線上でいじめるケースが増えてきています。
そのため、近くで見ている教師や保護者も「いじめ」を認識しづらいだけではなく、加害者側も「いじめ」をしている意識が薄く、また被害者側も明確に「いじめられている」と判断しにくいと考えられます。
なお、少し古い資料ですが、森田洋司監修「いじめの国際比較研究」によると、被害者と加害者の関係は男女ともに約45%以上が「よく遊んだり、話したりする」と回答しています。
こうした最近のいじめのなかで「ネットいじめ」が起きた場合、それを大人が把握するのは、ほぼ不可能だと言わざるを得ません。
ネットいじめは、大きく分けて次の2種類に分類できます。
- 直接型…プロフやブログに悪口やひぼう中傷を書き込むこと
- 間接型…学校の裏サイトなどに、具体的な個人名を挙げて書き込むこと
学校の裏サイトでは、クラスメイトの悪口やひぼう中傷、悪質な場合には住所や本名など個人情報がさらされることもあります。
また、ネットいじめは、ネット上でイヤな思いをした子どもが、「自分もやられたから、やり返した」というように、被害者と加害者が相関関係にある恐れがあります。
インターネット利用時に嫌な思いをした経験 ー東京都の場合―
東京都教育委員会が、令和4年10月、都内の公立学校に通う児童・生徒の約1%にあたる約12,000人および、その保護者12,000人に対し、インターネット被害に関するアンケート調査を行っています。
この調査において、「インターネット利用時のトラブルや嫌な思いの経験」を質問したところ、約7%の児童生徒が「経験ある」と回答しています。
また、複数回答可能な「トラブルや嫌な思いをした経験の内容」を聞いたところ、いずれの学校種別においても、「メールやSNSに書き込んだ文章が原因で友だちとケンカになった」の割合がもっとも多く、「グループ内や、誰もが見られるところで、自分の悪口や個人情報を書かれた」が続いています。
さいごに
文部科学省の調査によると、令和4年度の「いじめ認知件数」は前年度より約1割増加して約68万件であることがわかりました。政府は、認知件数が増加したことに対し、いじめの認知に対する理解が広まったことも理由のひとつだと考えています。
一方で、都道府県からの報告によると、令和4年6月末の時点で約85%の自治体で前年度よりも「いじめの解消」状況が減少しています。これは、SNS等ネットいじめの増加が関係していると考えられます。
また、「遊び」や「ふざけ」の延長線上でいじめるケースが増えてきているため、加害者側に「いじめている」という認識が薄く、被害者側も「いじめられている」と判断しにくい状況が増えているようです。
koedoでは、今後も「いじめ×IT」に関する定点観測を続けていこうと考えています。
(koedo事業部)
【参考】