【いじめ×IT】令和3年度「ネットいじめ」が増加、リテラシー教育の実施状況は?

文部科学省の調査によると、令和3年度の小・中・高等学校および特別支援学校におけるいじめの認知件数は616,351件。前年度と比較すると19%増加しています。

令和3年度 いじめ認知件数
いじめ認知件数の推移/文部科学省(2023.9.22閲覧)

「ネットいじめ」の増加

文部科学省によると、小学校・中学校の「いじめの態様別状況」は、「冷やかし、からかい、悪口」がもっとも多く、「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」が続いています。

一方、高等学校では「パソコンや携帯電話で、ひぼう・中傷やイヤなことをされる」、いわゆる「ネットいじめ」の割合が増えています。

令和3年度 いじめの態様別状況
いじめの態様別状況/文部科学省(2023.9.22閲覧)

同調査によると令和3年度のネットいじめの認知件数は21,900件で、いじめ認知件数全体の約3割に達しています。特に高等学校では約17%と「冷やかしや悪口」に次いで2番目に多いのが「ネットいじめ」であることが分かりました。小学生や中学生と比較して高校生のネットいじめ件数が増えているのは、スマートフォンの所有率と関係があると考えられます。

ネットいじめとは

「いじめ」が社会問題として取り上げられるようになったのは1980年代のことです。

その後、2000年代に入ると「いじめ」がインターネット空間に移り、大きな事件にまで発展しはじめます。

これまで教室というリアルな場で起きていた「いじめ」が、SNSやメッセージアプリ、ゲームアプリなどのやり取りというデジタル上で起きるようになったのです。

「ネットいじめ」として、次のようなものが挙げられます。

ネットいじめ(例)

  • SNS上で、だれかを傷つける言葉やウソの内容を投稿する
  • 恥ずかしい写真を投稿する
  • 特定の人を無視・仲間外れにする

ネットいじめ問題点と特徴

ネットいじめの問題は、不特定多数の人から特定の児童・生徒に対するひぼう・中傷が行われ、短期間で深刻な被害になりやすい点です。また、匿名性が高いため、誰によって行われているのか特定することが難しいことも問題点として挙げられます。

また、情報の収集がしやすく、加工もしやすいため、個人情報がインターネット上に流出して悪用されてしまう危険をはらんでいます。

さらに、教師や保護者などの身近な大人が、児童・生徒がどのようにインターネットを利用しているのか把握しにくいため、いじめが起きたときの対応が遅れることが多いことも問題点として挙げられます。

ネットいじめの推移

「ネットいじめ」はSNSなどのデジタル上で起きているいじめですが、10代の子どもたちが利用しているSNSはどのように推移しているのでしょうか。

総務省が13歳から69歳までの男女1,500人を対象に「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」をまとめています。

10代利用SNSアプリの推移
主なソーシャルメディア系サービス・アプリ等の利用率/総務省情報通信政策研究所(2023.9.22閲覧)

この調査によると、10代のFacebookの利用は平成26年に25%にまで達しましたが、令和4年には11%にまで減少しています。Facebookは大人の利用率が高いこと、また本名で登録する必要があるため、10代の子どもにはハードルが高いのかもしれません。

一方、Twitter(現「X」)の利用率は令和3年には67.4%でしたが、令和4年度には54.3%にまで減少しています。ネットにおけるいじめの多くがTwitterの利用によるものが多かったため、それを回避するために利用率が減少しているのかもしれません。また、Twitterは大人の利用率も高いため、大人の目から逃れるために利用を控えている可能性もあります。

世界と日本のネットいじめの比較

令和3年7月、マカフィー株式会社が世界10カ国の親11,687人とその子どもを対象にネットいじめに関する調査を行っています。

同社は、ネットいじめの3大行為として次の3つを挙げています。

ネットいじめ3大行為(マカフィー株式会社)

  • (悪意のある)あだ名
  • 仲間はずれ
  • ウソの拡散

この調査によると、いじめの3大行為のバランスは国によって違います。

たとえばアメリカやイギリスでは、「悪意のあるあだ名」が50%以上あるのに対し、日本では23%に留まっています。一方、「ウソの拡散」は日本が44%となっていて、世界平均の28%と比較しても非常に高いことが分かりました。

ネットいじめ状況(マカフィー)
ネットいじめ状況/マカフィー株式会社(2023.9.22閲覧)

また、同社はネットいじめの発生率の高いSNSについても調査しています。
それによると、世界的にネットいじめの発生率が高いSNSはFacebookが「自ら体験した」「目撃した」のいずれにおいても高く、もっとも低いTwitterの2倍以上となっています。

SNSを利用したいじめ状況
SNS上のいじめ比較/マカフィー株式会社(2023.9.22閲覧)

しかし、先にも述べましたが、日本の10代の子どもはFacebookをあまり利用していません。日本でネットいじめの件数がもっとも多いのはTwitterで、世界ではわずか18%であるのに対し、日本では38%となっています。

上位のプラットフォームを並べて比較すると、
日本と世界の子供たちの報告率は以下のようになっています。

− Twitter – 38% (日本)、18% (全世界)
− Facebook – 16% (日本)、49% (全世界)
− WhatsApp – 5% (日本)、38% (全世界)
− Instagram – 21% (日本)、36% (全世界)
− Facebook Messenger – 4% (日本)、28% (全世界)

マカフィー、ネットいじめに関するグローバル調査の結果を発表

では、ネットいじめは、誰から受けているのでしょうか。

見知らぬ人によるネットいじめと、知っている人によるネットいじめの比率
見知らぬ人によるネットいじめと、知っている人によるネットいじめの比率/マカフィー株式会社(2023.9.22閲覧)

この調査によると、日本は「知っている人」「知らない人」の差があまりありません。しかし世界平均では、「知らない人」からのいじめが「知っている人」からのいじめよりも高くなっています。

日本ではTwitterによるいじめの件数が多いことを考えると、炎上型・便乗型のいじめが起こっているのかもしれません。

ネットリテラシー教育の実施状況

インターネットを利用した犯罪やいじめが増えていることに伴い、学校でもリテラシー教育が行われるようになってきています。

総務省が「2022年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果」で、高校生のインターネット利用実態について報告しています。

この調査で複数回答可能な「インターネットの危険について教えられた経験」についての質問に対し、「通常の授業の中」が73.8%、「外部の講師による特別授業」が61.6%となっています。

】インターネット上の危険に関する学校での学習
インターネット上の危険に関する学校での学習/総務省(2023.9.23閲覧)

また、学校で教えてもらった内容としては、「ネットいじめ(92.7%)」がもっとも多く、「個人情報・プライバシー(89.1%)」が続いています。

フィルタリング利用状況

総務省の「2022年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等に係る調査結果」よると、スマートフォンを利用している高校生のうち84.6%がフィルタリングを認知しており、認知している高校生のうち44.4%がフィルタリングを利用しています。

フィルタリング利用状況
フィルタリング利用状況/総務省(2023.9.22閲覧)

さらに、同調査では学校や家庭においてSNS等のインターネット利用ルールがあるかどうかとフィルタリングの利用状況の関係を調べています。

それによると、学校でルールが「ある」場合、フィルタリング利用率は46.5%、ルールが「ない」場合の利用率は41%。家庭内でルールが「ある」場合のフィルタリング利用率は61.3%、ルールが「ない」場合の利用率は33.4%と、ルールがある場合の方がフィルタリングを利用していることが分かりました。

学校・家庭でのSNS等のルールとフィルタリングの利用状況
学校・家庭でのSNS等のルールとフィルタリングの利用状況/総務省(2023.9.22閲覧)

さいごに

文部科学省は、いじめの認知件数を毎年発表しています。
この発表によると、小・中・高等学校および特別支援学校における令和3年度のいじめの認知件数は615,351件と、前年度に比べて19%増加しています。

いじめが教室というリアルな場所からインターネット空間という大人の目が行き届かない場所へと移行していることを踏まえ、学校においてリテラシー教育が行われるようになってきています。

保護者の知らない機能を活用している子どもにとっての「普通」は、保護者が考えている「普通」とは違うかもしれません。「わが子は大丈夫だろう」と安易に考えずに、大きな問題へと発展する前にインターネットの特性や危険性を家庭でもしっかりと話し合う必要があるように感じました。

koedoでは、今後も「ネットいじめ」について定点観測を続けていこうと考えています。

(koedo事業部)

【参考】