世界の15歳の学力比較(PISA2022)、日本は3分野すべてで世界トップレベル維持、ICT利用率は?
ヨーロッパ諸国を中心に、日本やアメリカを含めた38ヵ国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)が、各国の教育を比較する一環としてPISA(Program for International Student Assessment)と呼ばれる学習到達度調査を行っています。
PISAとは…
PISAは、義務教育終了段階の15歳の子どもが持っている知識や技能を、実生活でどの程度活用できるかを測ることを目的とした調査です。
調査している分野は次の3つ。
- 数学的リテラシー
- 科学的リテラシー
- 読解力
この3分野のうち1分野を順番に重点的に調査していて、2022年に行われた調査では「数学的リテラシー」を重点的に調査しました。
なお、PISAは、およそ3年ごとに行われていて前回の調査は2018年。次の調査は2021年に行われる予定でしたが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で1年延期されました。
今回の調査には81ヵ国・地域から約69万人が参加。日本からは全国の高等学校、中等教育学校後期課程、高等専門学校の1年生のうち、規定に基づいて抽出された183校、約6000人が調査に参加しています。
各分野で世界トップレベル、読解力はV字回復
2022年の調査の結果は、次のとおり。
- 数学的リテラシー:OECD加盟国中1位(全参加国中5位)
- 科学的リテラシー:OECD加盟国中1位(全参加国中2位)
- 読解力:OECD加盟国中2位(全参加国中3位)
今回の調査の結果を見ると、どの分野においてもOECDの平均点が低下している一方で、日本は全分野において前回よりも平均点が上がっています。これは、新型コロナウィルス感染症による休校措置が他国に比べると日本は短かったことが影響している可能性があります。
数学的リテラシー
2022年の調査において数学的リテラシーのOECDの平均点は472点(前回:489点)で、2018年の平均を大きく下回りました。一方、日本の平均点は536点(前回:527点)で前回よりも平均点がUPし、世界トップレベルを維持しています。
同調査では、実生活に絡ませて数学的な問題を解いたり、数学的な側面を見つけたりする自信があるかどうかも質問しています。この問いに対し、「とても自信がある」「自信がある」と回答する割合がOECDの平均が50%を超えているのに対し、日本の高校生の平均は30%以下と、自信がないことが分かりました。
また、実生活での経験を数学と関連づける経験がOECDの平均よりも低いことも分かりました。
さらに、日常生活と絡めた数学の授業を行っているかどうかを調査したところ、OECD加盟国37国中36位と、日本では日常生活と絡めた数学の授業が行われていないことが判明しました。
読解力
PISAの調査で測定する「読解力の能力」は次の3つです。
- 情報を探し出す
- 理解する
- 評価し、熟考する
PISAの調査による日本の「読解力」は、2003年に8位から14位に急落。2008年、学習指導要領が改訂され、いわゆる「脱ゆとり教育」を開始したところ、2009年に8位、2012年に4位とへと回復しましたが、2018年には15位と順位を下げていました。
2022年の調査において、OECDの「読解力」の平均点は476点(前回:487点)。一方、日本の平均点は516点(前回504点)となっており、OECD加盟国中2位(全参加国中3位)と大幅に順位が上がっています。
科学的リテラシー
PISAの調査で測定する「科学的リテラシーの能力」は、次の3つです。
- 現象を科学的に説明する
- 科学的探究を評価して計画する
- データと証拠を科学的に解釈する
2022年の調査において、「科学的リテラシー」のOECDの平均点は485点(前回:489点)ですが、日本の平均点は547点(前回:529点)と世界トップレベルを維持していることが分かりました。
授業でICTを利用する割合は…?
日本の高校における1人1台端末の整備は、令和4年度の1年生を対象に令和4年度中に完了させる計画で進められていました。
一方、PISAの調査が行われたのは令和4年6月から8月のため、高校における1人1台端末の整備が完了する前に実施されています。
そのため、現在の高校におけるICTの利用状況は、PISA調査時から変化している可能性があります。
ICT機器の利用しやすさ
OECDによる「学校でのICT機器の利用しやすさ」についての調査で、「学校にインターネットに接続できるデジタル機器が十分にある」「学校には、生徒全員のために十分なデジタル・リソースがある」と回答した割合が、OECDの平均よりも高いことがわかりました。
その一方で、「学校のインターネットは十分速い」と回答した割合は13.3%と低く、課題が残っていることが分かります。
また、「ICTを利用することで、気が散っているか」という質問に対し、「いつもそうだ」と回答した割合がOECDの平均が25.2%であるのに対し日本は4%、「たいていそうだ」と回答した生徒の割合はOECDの平均が30.4%であるのに対し日本は5.1%と、全参加国のなかで日本が一番低く、ICT機器を使うことが学習に悪影響を与えていないことが分かりました。
授業でのICT利用頻度
「授業でどれくらいICT機器を利用しているか」という質問に対し、「国語」で48,5%、「数学」で53.5%、「理科」で43.8%の生徒が「まったく、又はほとんどない」と回答しています。
一方で、「すべての授業、又はほとんどすべての授業」「授業の半数以上」と回答した割合を合計すると、いずれの教科においてもICT機器の利用率がOECD平均の半分程度であることが分かりました。
ICTを用いた探求型教育の頻度
さまざまな授業でICTを使う機会が増えてきていますが、ICT活用調査に参加したOECD加盟国29カ国中で日本は最下位と、日本の高校ではICTを利用した探求型教育の頻度が、OECDの平均を大きく下回っていることが分かりました。
この調査によると、日本の高校生がICT機器を週1回から2回以上利用しているのは、主に「ICT機器を利用して文章を書いたり編集したりする機会」のみで、そのほかの場面ではあまり利用されていません。
特に「分析」は約7割の生徒が「まったく、又はほとんどない」と回答しています。
生徒のICTに関する能力や興味・関心
インターネット上で情報を検索するときや情報を共有するときに、その正確性を確認しているかどうかを調査したところ、日本の高校生は、OECDの平均と比較して正確性を確認している割合が高いことが分かりました。
また、「捏造された情報を共有しているかどうか」の質問に対しては、「共有していない」と回答した割合が、OECDの平均よりも大きく下回っています。
このことから、日本の高校生の情報モラル意識は、諸外国よりも高いということが判明しました。
また、日本の高校生はコンピュータやプログラミングへの興味・関心度の調査では、OECDの平均と大きな差がないことが分かりました。
一方で、プログラムを作成したりコンピュータでトラブルが発生したとき対応できたりする自信が、OECD諸国と比較して低い傾向にあります。
つまり、日本の高校生はプログラミングへの興味は諸外国と同じくらいあるものの、実際にwebページを制作したり、プログラミングしたりした経験が少ないということです。
平日にICTを利用している割合と「PISA3分野平均得点」の関係
学校のある日に、デジタルゲームやSNSに3時間以上かけている割合を調査したところ、日本の高校生は、OECDの平均と比較して少ないことが分かりました。
また同時に「平日のICT利用時間」と「PISA3分野の平均得点」の関係を調査したところ、日本を含めどの国も、ゲームの場合は3時間未満を超えると、SNSの場合は1時間未満を超えると、3分野の平均得点が低くなる傾向があることが判明しました。
さいごに
2022年に行われたPISA(学力到達度調査)で、日本は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」のいずれにおいても、OECDの平均を上回り、日本の15歳の子どもの学力が世界トップレベルを維持していることが分かりました。
特に「読解力」の分野では、日本の平均点はOECDの平均よりも40点も高く、順位が前回の15位から2位へと大きく上がりました。
その一方で、ICTの利用率はOECDの平均よりも低い傾向にあることが判明しています。
ただし、これは調査対象である高校1年生への1人1台端末の整備がPISA調査時には完了していなかったことが関係している可能性があります。
koedoでは、今後もOECDによる調査に注目し、15歳の学力レベルや高校生のICT利用状況を定点観測していこうと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- OECD生徒の学習到達度調査PISA/文部科学省国立政策研究所
- OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント/文部科学省国立政策研究所