令和4年度の教育産業市場、前年度比0.3%減ー現在起きている変化とは
株式会社矢野経済研究所の調査によると、令和4年度(2022年度)の教育産業は前年度比0.3%減で、主要15分野のうち、10分野がマイナス成長であることが分かりました。
教育産業には、次のような分野が含まれています。
- 教育機関(幼稚園、小学校、中学校など)
- 学習支援機関(学習塾、予備校など)
- 語学・資格スクール
- 企業向け社員研修
- カルチャースクール
令和3年度に売上高が微増した背景
教育産業は、少子化が進んでいることで厳しい状況に置かれています。
その一方で、より手厚いサービスを提供したり、企業向け研修や資格取得スクールを強化したりするなど、ここ数年少しずつ売上高が増える傾向にありました。
しかし、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で行われた一斉休校に伴い、学習塾や資格スクールなども休校措置を取らざるを得なくなったり、生徒募集活動を抑制したりしたことで、令和2年度(2020年度)の売上高は前年度より減少していることが分かります。
令和2年度に減少した売上高は、翌年には微増しています。その理由として、次のようなことが考えられます。
リモートワーク・テレワークの増加
新型コロナウィルス感染症拡大の影響で行動制限が続くことによりオンラインへの抵抗感が薄まり、社会全体でテレワーク・リモートワークが積極的に受け入れられるようになりました。
内閣府の調査によると、東京23区と地方圏で差がありますが、新型コロナウィルス感染症の拡大前の令和元年(2019年)12月に全国で約10%(東京23区では17.8%)だったテレワーク実施率は、拡大後の令和2年5月には27.7%(東京23区では48.4%)まで増加しました。その後少し減少するものの、令和3年4月以降は約30%(東京23区では約50%)を維持しています。
GIGAスクール構想による小・中学校における端末利用
政府が主導する「GIGAスクール構想」は、当初令和5年度達成を目標としていましたが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で計画が大幅に前倒しされました。
その結果、文部科学省によると令和4年度には平均して約9割の小学校が、「ほぼ毎日」または「週3回以上」配備された端末を利用していると回答しています。
学習塾・企業向け研修のオンライン化
学習塾や語学・資格スクールなどでも端末を利用した授業が増加傾向にあります。
eラーニング戦略研究所が令和4年度に行ったコロナ禍における学習塾のオンライン授業の導入に関する調査では、「オンラインを導入している」と回答した学習塾は58%。このうち43%が「コロナ感染拡大を機に導入した」と回答しています。
また、同社が行った各種スクールのオンライン授業の導入に関する調査では、全体の81%が「オンライン授業を導入している」と回答。このうち「コロナ拡大後に導入」と回答したスクールが42%となっており、コロナ禍にオンライン化が急速に進んだことが分かります。
社員研修のオンライン化
ビジネスの現場でも、社員研修が対面研修からオンライン研修へと移行し始めています。
eラーニング戦略研究所が行った調査によると、「社員がどのような研修を受講しているか」という質問に対し、85%の社員が「オンライン研修」「ハイブリッド研修」と回答しています。
この調査では、完全テレワークを行っている社員は全員オンライン研修を受講。オフィスワークや現場仕事がメインの社員でも「集合研修のみ」と回答したのは約30%でした。
ただ、オンライン研修やハイブリッドラーニングでは、企業側も社員側も「円滑なコミュニケーションが難しい」「ちゃんと理解ができたか不安」と考えており、まだまだ課題が残っています。
小学校・中学校の小規模化
現在、児童・生徒数は年々減少しており、平成2年度と令和3年度を比較すると小学生は34%、中学生は40%減少しています。それに伴い学校の統廃合も進んでいますが、児童・生徒数の減少と比べると減少幅は少なく、小学校数は20%、中学校数は約10%の減少に留まっています。
小規模化に伴い考えられる課題
子どもの減少ほどに小学校・中学校が減少していない背景には、「通学距離が小学校ではおよそ4キロメートル以内、中学校ではおよそ6キロメートル以内」という法令があるからです。そのため、小学校・中学校では統廃合よりもむしろ小規模化が進んでいます。
学校の小規模化に伴い、次のような課題が生じると考えられています。
- 友だちが限定されるためコミュニケーション能力の低下
- 意欲や成長を伴う切磋琢磨する環境の不足
- 多様なものの見方や考え方に触れる機会の減少
授業のオンライン化、または遠隔化
コロナ禍を経て、授業のオンライン化や遠隔教育が注目され初めています。
授業をオンライン化・遠隔化することで、小・中学校の小規模化に伴う課題も解決できると考えられます。
対面授業からオンライン授業へ
株式会社矢野経済研究所の調べでは、令和2年度(2020年度)のeラーニング市場規模は、前年度比24%増、令和3年度(2021年度)は前年度比17%増と、コロナ禍において急速にeラーニングが普及していたことがわかります。
また、内閣府が行った調査によると、令和2年(2020年)5月の時点で全国の約45%、東京23区に限ってみると約70%の児童生徒がオンライン教育を受けていること判明しました。
遠隔教育
遠隔教育には、次のようなパターンがあります。
- ほかの学校とつないで交流学習したり、合同で授業を行ったりすることで、さまざまな人とのつながりを実現する遠隔教育
- 遠方にいる講師等が授業を行うことで、より専門性の高い学びを深める遠隔授業
- 不登校児童生徒、病弱な児童生徒を支援するなど個々の児童生徒の状況に応じた遠隔教育
- 災害等により学校が臨時休校した場合でも、家庭と学校をつないで家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習
- 教員研修をオンラインで実施する遠隔教員研修
遠隔授業のメリットとして、英語をネイティブスピーカーから教えてもらったり、大学教授など専門家から教えてもらったりなど、地方にいてもレベルの高い授業を受けられることが挙げられます。
文部科学省が令和3年に教員を対象に行った「遠隔教育の実施状況や評価」を把握するためのアンケートでは、遠隔教育の実践を重ねた教員ほど、遠隔授業の有効性を実感していることが分かります。
また、遠隔教育を受けたことのある児童生徒を対象としたアンケートでも、遠隔教育を受けた回数の多い児童生徒の方が、自分の考えがうまく伝わるよう工夫を重ねることや、課題の解決に向けて自分から進んで取り組むことに対して高く評価していることが分かりました。
さいごに
令和4年度(2022年度)の教育産業は前年度比0.3%減で、主要15分野のうち、10分野がマイナス成長でした。
教育産業界は、令和2年度の売上高は前年度より減少したものの、令和3年度には売上高が微増。微増した理由として、政府が主導した「GIGAスクール構想」の導入が前倒しされたことや、オンライン授業を取り入れる学校等が増えたことが考えられます。
また少子化に伴い、小学校・中学校が小規模化する傾向にあります。小規模化することでコミュニケーション能力の低下や多様なものの見方や考え方に触れる機会の減少が指摘されています。そのため、文部科学省は遠隔教育を活用するようガイドブックを作成。実際に遠隔教育を実践した学校では、その有効性が認められていることが分かりました。
koedoでは、今後も教育産業界の動向や遠隔教育について定点観測を続けていこうと考えています。
【参考】
- 教育産業市場に関する調査を実施(2023年)/株式会社矢野経済研究所
- 教育業界/リクナビ就活準備ガイド
- 第6回 新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査/内閣府
- GIGAスクール構想を含む教育の情報化を通じた教育改革/文部科学省
- コロナ禍におけるスクールのオンライン授業に関する調査報告書/eラーニング戦略研究所
- コロナ禍における学習塾のオンライン授業に関する調査/eラーニング戦略研究所
- ポストコロナ時代の企業研修に関する調査報告書/ eラーニング戦略研究所
- これまでの論点の整理(『未来の教室』ビジョン2.0)の作成に向けて/経済産業省
- eラーニング市場に関する調査を実施(2023年)/株式会社矢野経済研究所
- 第3回 新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査/内閣府
- 遠隔教育システム活用ガイドブック(第3版)/文部科学省
(koedo事業部)