世界と日本のICT教育のギャップとは――2018年OECDによる調査で判明した日本のICT利活用の遅れ――

コロナ禍において、世界各国でオンライン授業の普及が一気に広まりました。日本でも急遽、オンライン授業を展開した学校がありましたが、まだまだ思うようにできていないのが現状です。原因の一つは、諸外国に比べると日本のICT環境の整備が遅れているからです。世界各国と比べて日本の教育現場におけるICTの利活用は、どの程度遅れているのでしょうか?

OECDによる調査で、教育現場におけるICTの利活用の遅れが浮き彫りに

OECDでは、PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査を3年ごとに行っています。前回の調査は2018年に行われました。新型コロナウイルス感染症の影響で、次回の調査は2022年に行われることになっています。

調査の対象は15歳。日本では全国の183校、約6,100人の高校1年生に相当する子どもたちが調査に参加しています。2018年の調査によると、参加した79カ国・地域の中で、日本の中学校は生徒に課題や学級での活動にICTを活用していないことがわかります。

この調査の中で、「1週間のうち、教室の授業でデジタル機器をどれくらい利用しますか?」という問いに対し、日本は「国語」「数学」「理科」「外国語」「社会科」「音楽」「美術」の各教科でOECDの平均を大きく下回っていることがわかりました。

たとえば、国語の授業についての結果を見ると、日本では「利用しない」が83.0%であるのに対し、OECDの平均は48.2%となっています。

また、「学校の勉強のために、インターネット上のサイトを見る」「関連資料を見つけるために、授業後にインターネットを閲覧する」という各問いに対して、日本は2012年の調査からほとんど変化がなく、OECDの平均から遅れていることがわかります。

2018年度OECDによる調査結果:授業のためのインターネット閲覧率

さらにこの調査では、学校内だけではなく平日の学校外でもICT機器を利用していないことがわかりました。

2018年OECDによる調査結果:平日のデジタル機器の利用状況

少し古い情報ですが、2016年に富士通総研が「教育分野における先進的なICT利活用方策に関する調査研究」を行っています。

2016年富士通う総研による調査:教育用コンピュータ整備率

日本は、2014年の時点では6.5人/台だった教育用コンピュータの整備率は、2019年の調査では、5.4人/台となっています。しかし、それでも世界各国に比べるとまだまだ遅れていることがわかります。

海外のICT教育の状況

日本のICT教育が遅れているのはわかりましたが、海外の取り組みはどうなのでしょうか?

アメリカの場合

アメリカではオバマ政権下の2015年ごろから、積極的にICT環境の整備が進められ、プログラミング教育の普及に向けた取り組みも活発です。州によってICT教育の整備状況は異なりますが、メイン州では、公立の中・高校生の生徒全員にノートパソコンを配布、カリフォルニア州ではオープンソースのデジタル教科書が導入されています。また、たとえばテストスコアや健康状態、宿題の提出状況なども教育区のサーバに保存されているなど、生徒一人ひとりのデータ管理のIT活用も進んでいます。

イギリスの場合

教育ICT推進機関のもと、電子黒板や無線LANなどの環境を整備。各地域で大規模なクラウドプラットフォームの整備が進められ、時間や場所を問わずに学習可能な環境づくりが進められています。2014年9月からは、初等教育の段階からプログラミング教育が必修化されています。

オーストラリアの場合

2008年から2013年に実施された連邦レベルのプログラムにより、高校生段階で1人1台の情報端末整備を実現。また、連邦政府や州政府によりデジタル教材リポジトリやデジタル教材活用・共用プラットフォームも提供されていて、多くの教員が活用しています。さらに、ICTを活用した遠隔教育も活発で、地方の小規模校を遠隔授業システムでつなぐバーチャルスクールなどの取り組みも行われています。

シンガポールの場合

IT先進国であるシンガポールは、1997年から2014年にかけて「ICT教育マスタープラン」に基づき、国を挙げて教育現場のICT活用を推進してきました。2008年には国がイニシアティブをとり、フューチャースクールと呼ばれる構想のもと、選定した小学校に1人1台のタブレットを支給、ネットワーク環境の整備などを行い、ICT 環境の中での教育を開始。協働学習、反転学習を活用した学習や、SNSを活用した学習などが展開されています。

韓国の場合

1990年代からICT教育の推進に取り組み、国の機関が中心となってデジタルコンテンツの配信や、児童生徒向けの無償・低額学習サービスが開発・運用されています。また、学習環境だけではなく、成績管理や人事管理などの校務もICT環境によって整えられています。

スタートラインに立った日本のICT教育

日本のICT教育が遅れている原因の一つとして、予算の確保が難しいということが挙げられます。2019年度、「GIGAスクール構想の実現」を目指すための補正予算が成立しました。この補正予算が成立することによって、日本全国の小学校・中学校・高等学校でICT環境を整備し、1人1台の端末環境および大容量の通信ネットワークを整備するために、2,318億円が投じられたのです。

当初、GIGAスクール構想は2023年度の実現を目標としていましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、緊急時でも「学び」を止めないために、ICT環境を早急に整備する必要性が高まりました。そこで、文部科学省は2020年度の1次補正予算として新たに2,292億円を計上。さらに3次補正予算で209億円を計上することで、2021年3月末までに全国の小学校・中学校で1人1台の端末を配備、学校ネットワーク環境の整備、緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備を目指すことになりました。

また、日本のICT教育が遅れている原因として、教師がICT教育に積極的ではないということも挙げられます。一般的に、日本で授業の主導権を持っているのは教師です。つまり、ICT教育においても、教師側がコントロールする必要があることが前提となっているのです。これが、教師の大きな負担となっています。

たとえば、児童生徒が間違えた操作をしてトラブルが起きた場合、授業自体がストップしてしまうリスクがあります。頻繁に授業がストップする可能性があることは、効率的に授業を進めていきたいと考える教師にとってマイナス要素でしかありません。そのため、積極的にICT教育を行うことをためらう理由になってしまっているのです。 これに対して文部科学省は、2021年度の概算要求において、「GIGAスクールにおける学びの充実」のために4億円を計上。児童生徒1人1台端末の環境を踏まえた教員のICT活用の向上、およびICTを効果的に活用した指導の実施を目指しています。

さいごに

新型コロナウイルス感染症の影響により、全国一律にICT教育を行うための環境は当初の予定より大幅に早く整いつつあります。しかし、ようやくスタートラインに立ったに過ぎません。児童生徒に1人1台の端末を配備する環境は整いつつある一方で、まだ人的体制が整っていないなど問題は山積みです。『koedo』では、世界と比べて大幅に遅れている日本のICT教育が、今後、どのように世界に追いついていくのかを観測していきたいと考えています。

■参考
選択する未来2.0 中間報告/内閣府
2018年調査補足資料(生徒の学校・学校外におけるICT利用)/国立教育政策研究所
教育分野における先進的なICT利活用方策に関する調査研究/株式会社富士通総研
学校のICT環境整備について/文部科学省
「GIGAスクール構想の実現」とは~学校情報化の目的と概略/文部科学省
令和2年度第3次補正予算案への対応について/文部科学省

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