次の学習指導要領はどう変わる? 探究学習が学校教育の中心になる理由
政府は、全国どこの学校でも一定の教育水準が保てるように、およそ10年に1回の頻度で「学習指導要領」として教育カリキュラムを改訂しています。たとえば1989年・1999年の改訂では、総合的な学習の時間が導入され、2008年・2009年の改訂では小学校高学年に外国語活動が導入されています。
現在、文部科学省の中央教育審議会において2030年度ごろからの実施を見据えて検討されている次の学習指導要領は、従来と同様に小学校から順次実施することを想定しています。
学習指導要領は、その時代その時代に合わせ、子どもたちが抱える課題に向き合い改善が行われています。現行の学習指導要領では、「何ができるようになるのか」という観点から、新しい時代に必要となる資質・能力の育成と学習評価の充実を目指し、次の3つの柱を掲げています。
- 学びに向かう力・人間性等
- 知識及び技能
- 思考力・判断力・表現力等
では、2030年に予定されている学習指導要領では、文部科学省はどのような改訂を行おうとしているのでしょうか。今回は、次期学習指導要領が目指す方向性と、現行の学習指導要領でも重要視されている探究学習に焦点を当てていきます。
次の改訂で羅針盤となる「3つの方向性」
現行の学習指導要領が掲げている3つの論点は、現在、検討されている学習指導要領においても非常に重視されています。そのため、その3つをベースとしながら、次期学習指導要領では、次の3つを柱として掲げる方針としています。
- 主体的・対話的で深い学び
- 多様性の包摂
- 実現可能性の確保

【主体的・対話的で深い学び】子どもが抱える「自信のなさ」を克服
現在、検討されている学習指導要領が現行の学習指導要領をベースとしているのは、教育目標が達成されているとは言い切れないからです。たとえば、現行の学習指導要領で掲げている「学びに向かう力」は、いまだ道半ばだと政府は考えています。
なぜなら日本の子どもたちは、諸外国と比較すると自律的に学ぶ自信や、自分で課題を立てて探究に取り組む姿勢、できるかどうか分からないことに対して意欲的に取り組む姿勢が低い傾向にあるからです。
具体的な例を挙げると、令和5年度に行われた「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」において、「うまくいくかわからないことにも意識的に取り組む」という質問に対して「そう思う」と回答した割合は13.4%。「どちらかと思えばそう思う」と合計しても56.4%となっていて、ほかの国と比べて明らかに低いことが分かります。

そこで、次期学習指導要領では、「まず考えてみて、行動してみる」というようなことも学びに向かう力として位置付け、子どもたちが「学ぶ」ことに興味・関心を持って根気強く課題に取り組んで次につなげられる「主体的な学び」や、地域の人や企業、大学、行政など多様な人との対話を通じて学びを深めることで「対話的な学び」の実現を図ろうとしています。
【多様性の包摂】 誰一人取り残さない「複層的な教育」の実現へ
現在、ひとクラスの中に不登校や日本語指導が必要な子ども、発達障害などの多様な特性や背景を持つ子どもなど、どの学校でもさまざまな個性や特性を持つ子どもが在籍している実態が顕在化しています。

そこで次期学習指導要領では、学校共通の教育課程と個々の児童生徒に着目して編成する教育課程を柔軟に組み合わせて、立場や能力などの違いに関わらずすべての人を集団の一員として受け入れ、参加し活躍できるように複層的な構造を作ろうとしています。
【実現可能性の確保】学校に「余白」を生む『調整授業時数制度』
新しい学習指導要領では、「調整授業時数導入」の創設を検討しています。
その背景には大きく分けて、次の3つの狙いがあります。
- 子どもたちの多様性への対応
- 教育の質の向上に向けた「余白」の創出
- 持続可能な指導体制の構築
現在の小学校では、時代の変化に合わせて必要となる資質・能力を育成しようと、外国語学習やプログラミング教育など、さまざまな要素を取り入れています。しかし、そうした教育を追加する一方で、「何かを削る」ということは一切されていません。
つまり、現在の学校現場でなにが起きているかというと、授業枠がいっぱいいっぱいになってしまっていて、「教科書を終わらせるだけで精一杯」という状態になってしまい、子どもたちがじっくりと探究したり、なにかを考えたりする『余白』がないという弊害が生まれてしまっています。
日本の小中学校には、小学校1年生の場合は年間850コマ、6年生の場合は年間1015コマなど、国が定めた「標準授業時数」という基準があります。あくまで「標準」であり、目安なのですが、現場では「1コマでも下回ってはいけない最低ライン」として扱われています。
つまり、運動会の練習などの年間行事はもちろん、台風の影響で休校したり、インフルエンザなどで学級閉鎖したりするなど予定外のことが起きたときにも、どこかで「帳尻合わせ」を行っているのです。この帳尻合わせが学校の柔軟なカリキュラム編成を阻んでいます。
さらに、毎日の授業コマ数が多すぎるせいで、教師は、学校内外で行われる授業改善に向けた研修や、教材研究のための時間を確保できていません。
こうした現状を踏まえ、新しい学習指導要領導入で検討されているのが「調整授業時数制度」です。これは、総授業時数は維持しつつ、学校の裁量で各教科の時間を1割程度、国への申請なしで増減できるようにする仕組みです。

この制度を利用してできた「余白」を、探究学習に利用したり、一斉授業のスピードについていけない子へのフォローや、逆にもっと先へ進みたい子への発展学習の時間に充てたりしようとしています。
「調べ学習」から社会へとつながる「探究学習」へ
それでは、「探究学習」はどのように変化していくのでしょうか。
探究学習は、これまでの「手法」に留まらず、探究的な学びの位置づけが一段と重視され、教科横断的に充実が図られる方向にあります。
現行の学習指導要領でも「探究」の重要性は高く、全国の小中学校で「問いを立てる」「情報を整理する」「他者と協働する」「解決策を試す」といった流れを組み込んだ授業が行われてきました。ただ、この探究学習が「ネットで調べて終わり」という段階で終わってしまっているのではないかという危機感を、中央教育審議会は抱いています。
文部科学省が小学生・中学生に対して行った令和7年度の「全国学力・学習状況調査」によると、「インターネットを使って情報を収集する」という質問に対して、小学校では89.8%、中学校では91.5%の子どもが「とてもそう思う」「そう思う」と回答しています。

その一方で、「情報を整理する」という質問に対して「とてもそう思う」「そう思う」と答えた児童生徒は、小学校で69.3%、中学校では63.6%に留まっています。

さらに、「学校のプレゼンテーションを作成する」という質問に対しても「とてもそう思う」「そう思う」と回答した児童生徒は、小学校・中学校いずれも76.8%となっています。

実は、この「自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表する学習活動に取り組んでいますか」という問いに対して、「当てはまる」と回答している児童生徒は、小学校ではここ数年3割を超えている程度、中学校ではここ数年2割程度だったのが令和6年になりようやく3割を超えた程度と、増加傾向にはありますが、大きな変化はありません。

つまり、学校の授業において「情報を収集する」ところまではやってはいるものの、それをもとにして図や表をつかってまとめることや、発表用のスライドを作成することにまで手が回っていないという実態が伺われます。
そこで、次の学習指導要領では、探究学習の質の向上を目指して、次のようなプロセスを大切にしようと考えています。
- 自分が「興味・関心のあることや問題意識を持っているもの」を起点にする
- 地域の企業や大学、NPOなど社会のなかで実際に働いている大人と関わり合いながら探究を進める
- プロトタイプを作成したり、アンケートを取ったりなど、まず行動する

こうしたプロセスを経ることで、国語や算数・数学といった一般教科で学んだ知識を探究の時間で実践し、探究に行き詰まったときには「もっと〇〇について知りたい」と感じて一般教科にもどってくるという「一般教科⇔探究学習」の往来をスムーズに行えるようになることを目指そうとしています。
さいごに
次期学習指導要領では、「問いを立てる」「情報を集める」「試行錯誤する」「発表する」という探究のプロセスが、ますます重要視されています。
これをSTEAMで表すのであれば、日常生活の疑問から仮説を立てるアプローチ(Science)、ICT活用(Technology)、試作品作成(Engineering)、デザイン(Arts)、そしてデータ分析(Math)といったところでしょうか。
2030年には、生成AIを含むデジタル技術の活用を前提に、情報活用能力を高める必要性がいっそう高まります。つまり、それだけのネット環境が小学校・中学校で構築されている必要があります。
ネット上で情報を集めたり、集めた情報を要約したり、それらしいスライドを作成したり…といったことはAIがものの数秒から長くても数分で行ってしまう時代です。その一方で、AIが出した答えを批判的に吟味する力や、AIが集めたデータをもとに人と対話を重ねて、よりよいものを形成したりする力は人間にしかないものです。
koedoでは、探究学習がAIと結びつき、どのように変化していくのかを、今後も観測していこうと考えています。
【参考】
- 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ/文部科学省
- 教育課程企画特別部会 論点整理/中央教育審議会
- 教育課程企画特別部会 論点整理 参考資料集/中央教育審議会
- ポイント資料:概要版 教育課程企画特別部会 論点整理(令和7年9月25日)/文部科学省
- 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 補足資料/文部科学省
- 総合的な学習・探究の時間に関する現状・課題と検討事項/文部科学省
- 令和7年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)/文部科学省国立教育政策研究所
- 質の高い探究の実現に向けた方策について/文部科学省
- 我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)/こども家庭庁














