【STEAM教育④】STEAM教育は「Society Transformation & Environment Adaptive Management教育」という解釈を
VUCA(Volatility Uncertainty Complexity Ambiguity:不確かで、変動的で、曖昧で、複雑な)と言われる時代、 これまでの教育方法の試行錯誤を通して、次のような教育の必要性にたどり着いています。
広範な知識学習だけでなく、 | 社会課題に向き合う体験と感性の育成を |
スキルやノウハウの習得に、 | 動く意志を |
伝統や歴史の理解とともに、 | 多様な価値観の受容と他者との協働を |
効率的な価値の最大化に加え、 | 新しい価値を生み出そうとする工夫を |
計画に従うことから、 | 変化への対応を |
左記の事柄に価値があり、これまで通り教育を継続することの重要性を認めながら、これからの時代、右記の事柄を強化していく必要があります。
この右記の事柄の教科手法として、いま STEAM教育という手法があります。
社会の変化は仕事の変化に、仕事の変化は学びの変化に結びついています。Society5.0を迎えた社会において、IT技術の進化、ロボット技術、AI利用領域の拡大は、人間の仕事の領域を大きく変え始めました。
一定の知識と技術を身に付け、知識量や知識の正確性、あるいは定型的な領域での丁寧で正確な仕事は、IT技術やロボット技術が担い始めています。一方で、人に求める仕事は定常業務からプロジェクト業務に移行しています。
プロジェクト業務そのものも、ある種の領域は定型化が始まっています。
たとえば、システム開発や文章作成、デザイン開発の領域では、既存のパーツの組み合わせによる業務の簡易化や、AIによる仕事の代替が可能になっています。
プロジェクト業務の最終目的は、仕事の定常業務化…すなわち人間の労働力を伴わない、あるいは最小化させたフローの構築です。
これからの社会で活躍するためには、私たちは新たな価値に気づき、まだ具体的な像を結んでいない価値を形にしていくプロジェクト業務をこなす力を身に付けていく必要があります。
このような社会の変化において、それでは教育は何を担っていくのでしょうか。
仕事の領域において定常業務はITが担うから、プロジェクトに関わる知見だけがあればよいか? と言えば、もちろんそんなことはありません。プロジェクトを企画・遂行していくためには、その前提となる定常業務の内容を知っておく必要があります。
教育においても同じように、プロジェクト型の教育の重要性は高まっていますが、教科教育や基礎教養を理解し、活用できてはじめてプロジェクト型の学びが成り立つだろうと考えられます。
国語・数学・理科・社会・英語と言った教科科目は、すでに映像視聴やアプリ活用が広がりつつあります。そこでIT活用が広がりつつある教科教育の領域を利用しながら、プロジェクトを通して学びを深め、プロジェクトの遂行経験を積んでいく必要があります。
また、特に伝統的な「リーダー」のあり方、リーダーシップとして求められるものが変化しています。次世代の人材育成を担っている教育現場はこの認識を新たにする必要があります。
社会における仕事が上記表のように移り変わっていることを知ると、2020年教育改革で示されている次の3つのコピーの意味とイメージが重なるものがあります。
- 学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性など
- 実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能
- 未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力
つまり、2020年の教育改革では社会に出てからも学校で学んだことを生かせるよう、3つの力をバランスよく育むことを宣言しているのです。そのことを踏まえて改めて考えてみると、学びの領域の移行は次のようになると考えられます。
いま注目されているSTEAM教育により、授業開発が進んでいます。
その経緯を、現在の社会情勢や仕事の変化の観点から捉えてみると、何のために、どのようにして、何を目指して行われようとしているのかが見えてくるのです。
STEAM教育は、もともと科学技術の進展による理工系人材不足の問題から STEM(Science Technology Engineering Mathematics)教育を強化する必要があるという文脈から生まれた概念です。
しかしSTEM教育では片手落ちだとして「A(Art)」が加わり『STEAM』となりました。STEMからSTEAMとなった時点で、理工系教育の強化とは違った別の教育であると考えるべきでしょう。
では、どのような教育になったと考えればいいのでしょうか。
「STEAM」をSociety Transformation & Environment Adaptive Management(社会変革と環境に対して、適応していくためのマネジメント教育)と位置づけてみてはどうでしょう。
STEAM教育の狙いとしてより意義深く、いまなぜ必要とされているかに応えられる解釈なのではないでしょうか。
この記事を書いたひと
田畑 豊史
(たばた とよふみ)
学習塾等教育現場で利用するシステムやアプリケーションを開発してきた文系出身アウトドア派のシステムエンジニア。
趣味は登山。娘が小学生のうちに100名山を一緒に登って回ろうと計画。7歳の娘が現在22座登頂。しかしコロナ禍でペースダウン中。