一斉休校中の授業の実態――オンライン授業のメリットとデメリットは?

2021年4月26日

新型コロナウィルス感染症の感染を防ぐために、全国の小学校・中学校・高等学校等に対し、政府が休校措置を要請したときから、すでに1年が経過しました。学校が休校措置を取っていた期間、子どもたちはどのような授業を受けていたのでしょうか。

一斉休校中の授業について

政府が東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県を対象に緊急事態宣言を発したのは2020年4月7日でした。そして4月16日には、緊急事態宣言の対象を全国に広げています。

文部科学省は、緊急事態宣言が出た直後の2020年4月16日と、全国で緊急事態宣言が解除されたあとの6月23日に公立小学校・中学校・高等学校・特別支援学校等に、休校中の学習指導の取り組み状況について調査をしています。

まず、2020年4月16日、緊急事態宣言の全国への適用前に複数回答が可能な調査結果では、授業動画を利用した学校は全体の10%、同時双方向型のオンライン指導を行った学校は5%に過ぎなかったことがわかりました。

 割合
教科書や紙の教材を活用100%
テレビ放送を活用24%
教育委員会が作成した授業動画を活用10%
デジタル教科書やデジタル教材を活用29%
同時双方向型のオンライン指導5%

しかし、緊急事態宣言解除後の2020年6月23日の行った調査によると、「教育委員会が作成した授業動画を活用」したのは、小学校で22%、中学校で23%、高等学校では30%となっています。さらに、「同時双方向型オンライン指導」は、小学校で8%、中学校で10%、高等学校では47%と、緊急事態宣言直後よりも増えていることがわかりました。

 小学校中学校高等学校
教科書や紙の教材を活用100%100%99%
テレビ放送を活用35%34%31%
教育委員会が作成した授業動画を活用22%23%30%
デジタル教科書やデジタル教材を活用34%36%51%
同時双方向型のオンライン指導8%10%47%

小学校・中学校では授業動画も含めてオンライン授業を行った学校は30%以下、高等学校でも50%以下でしたが、大学ではどうだったのでしょうか。文部科学省によると、2020年5月12日時点においてほぼすべての大学等が、「遠隔授業を実施」もしくは「検討する方針」と回答しています。

一斉休校中の大学におけるオンライン授業の状況

日本ではこれまで活用が進んでこなかったオンライン教育ですが、コロナ禍においてその重要性と必要性が大きく高まりました。しかし、内閣府の調べによると小学生・中学生におけるオンライン教育の受講率に地域差が大きいことが判明しています。

オンライン授業地域格差

オンライン授業のメリットとは

文部科学省によると、2020年5月時点において国立大学(全86校)の約9割が遠隔授業を実施していました。オンライン授業の形式は、授業録画配信(オンデマンド形式)とライブ授業配信(同時双方向形式)が、同じくらいの割合で行われていたようです。

オンライン授業のメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

メリット

  • 通学の必要がなくなったこと。   
  • オンデマンド形式の講義は、何度も講義を再生できるため、わからない部分を見直して復習に役立つこと。
  • 講義のペースに理解が追いつかないことがあったが、講義動画は自分のペースで学習できること。
  • わからない場合は、その場でネット検索したり、辞書を引いたりできるので、学習効率が良いこと。
  • 対面での講義で発言するのは躊躇してしまうこともあるが、チャット機能を利用しているため、対面講義よりも活発に発言や質問ができること。

このほかにも大学生の間では、通学する必要がなくなったことで、その時間を課題にあてられるといった意見がみられました。

オンライン授業のデメリットとは

一方で、オンライン授業のデメリットには、次のようなものが挙げられます。

デメリット

  • 自分のペースで授業を進められる反面、動画や課題をためてしまうことがあること。
  • 生活習慣が昼夜逆転してしまう傾向にあること。
  • 集中力を維持できないことがあること。
  • 通信環境に左右されやすいこと。
  • 同じ姿勢で画面に向かって座りっぱなしのため、目の疲れや肩こりなど健康を害する心配があること。

人が集中できる時間は、大人でも平均50分程度で、15分ごとに集中力の高い波が訪れると言われています。成長するにつれて集中力を維持できる時間は伸びていきますが、小学校低学年の子どもの集中力はせいぜい15分程度です。小学校・中学校でオンライン授業を実施しにくい理由は、このあたりにもあると考えられます。

また、オンライン授業を受けるにあたり使用する端末は、大学生で67.3%が「パソコン」と回答しています。一方、小学生の38.3%、中学生の39.3%、高校生の31.3%は「家族のパソコンを使用した」と回答しています。さらに、「スマートフォンを使用した」と回答した生徒もいました。実際、大学生の中にはパソコンを持っていないため、スマートフォンで動画を視聴し、レポートなどは手書きしたものを写真に撮って提出したという例もあるようです。

オンライン授業における教師側の取り組み

教師はオンライン授業を作成するために、どのような取り組みをしているのでしょうか。実際に教師に話を聞いてみると、いろいろな手間や苦労があったことがわかりました。たとえば資料を作成するためのソフトや動画を編集するためのソフトが必要です。場合によってはマイクやライト、三脚も必要になります。

また、「著作権」の問題に苦労していると言います。教科書に使われている図の使用は著作権侵害に当たらないのかなど、資料作成するために著作権について1つ1つ確認する必要があるのです。たとえば、意外と知られていませんがフォントにも著作権があります。そのため、動画編集や資料作成を行う場合には、使用するフォントにも気を配る必要があります。

さらに、子どもの集中力を考えて20分程度の動画にまとめるために、ポイントを整理して、台本のようなものを用意する教師もいます。 日本の一般的な公立学校では、これまでほとんどオンライン授業が行われてきませんでした。つまり、どのようなオンライン授業が児童生徒にとって一番いいのか、教師側もまだ試行錯誤しているのかもしれません。

オンライン授業の今後の課題

オンライン授業を今後も行うにあたり、どのような課題があるのでしょうか? たとえば、オンライン授業を受講した大学生の中には、「ライブ授業配信の場合、その場の空気感がわからないため、発言しにくい場面があった」とする学生もいました。

教師側も、「普段の授業では、学生の態度や表情を見て説明の仕方を変えられる。しかし、ライブ配信授業の場合は、視線によるコミュニケーションが取れないため雰囲気が伝わりにくい」と感じているようです。教師と生徒、生徒同士のコミュニケーションを円滑にするための工夫が課題として挙げられます。

また、特にライブ授業配信の場合には、通信環境が大きく影響してきます。通信環境が良くなかった場合には、教師の説明が途切れ途切れになってしまったり、途中で静止画になったりしてしまう可能性があるからです。

そのほかにも、オンライン授業を受けるために児童生徒が使用する端末の問題や、長時間パソコンを使うことによる視力低下や肩こりなどの健康問題などが課題として挙げられます。

さいごに

新型コロナウィルス感染症の収束が見えないなか、いつ、どのタイミングでオンライン授業が行われるかわかりません。オンライン授業には、まだまだ課題が多く残っており、授業を受けた児童生徒も授業を行った教師も満足できていない部分があるように思います。

しかしオンライン授業ならではのメリットがあるのも事実です。実際、不登校中の児童生徒が授業に参加しているという話もあります。『koedo』では今後も、オンライン授業がどのように行われ、問題点がどのように改善されていくのかを観測していきたいと考えています。

■参考

koedo事業部