【学校3.0】序論:③「先生の選択の自由」という可能性

2021年1月18日

 前回のコラムではインターネットの発達による影響を考えてみました。その影響は大きく分けると2つになります。

 1つは、生徒と先生のマッチングに地理的制約がなくなることです。東京に住みながら、英語の授業をアメリカに住むネイティブに受けることも、国語の授業を沖縄の先生から受けることも可能になりました。

 2つめは、先生の個性化が可能だということです。地理的制約の中の学校は、選択権が少ないので「標準的な」教育をせざるを得ません。しかし、地理的制約がなく親の教育選択権が保証されるなら、少数のニーズに合わせた教育も可能だということです。極端な例になるかもしれませんが、LGBTの先生のみを選択して授業を受けさせることも可能になります。

 今回は「先生の選択の自由」の可能性について考えてみたいと思います。

 今までの学校では、どの学校に通わせるかを選ぶことはできても、先生一人ひとりまでは選ぶことができませんでした。オンライン授業によって先生を選ぶことが可能になるのならば、どのような点から選ぶことができるのでしょうか。

 まっさきに思いつくのが、合格実績かもしれません。多くの生徒をレベルの高い学校に入れてきた先生なら、成績アップも期待できるかもしれません。実際に教育現場で授業をしていた身からすると、実は教育手法というのはいろいろあるんですね。

 頭のいい子に思考力をつける方法と、基礎ができていない子に基礎を定着させる方法は違います。また、先生によって得意不得意があります。頭がいい子が得意な先生もいれば、苦手を克服させることに情熱を感じる先生もいます。

 成績向上の一番簡単な近道は、「その子の成績が最も上がるふさわしい授業を受けさせること」ですから、先生の選択の自由は成績向上の近道と言えるかもしれません。

 また、先生の選択の基準としては先生の教育思想なども影響するかもしれません。厳しくビシビシ鍛えるのが好きな先生もいれば、優しくのびのびと育てる先生もいます。先生と生徒の相性というのはありますので、9割の子に「いい先生」と言われている人が、自分の子どもにとっての「いい先生」とは限りません。

 さらに、先生の学歴や趣味、学生時代の部活など共通点が多い先生を探すこともできるかもしれません。

 先生の選択の自由が実現すると、数学の先生を選ぶのに「北海道出身。東京の大学を卒業。学生時代の部活はバスケ部。厳しく指導してくれる。競争肯定派の先生」という細かい検索まで可能になるかもしれません。

 少数派では「LGBTの先生」「子どものころに長期入院をしていた先生」「母子家庭だった先生」など、子どもの現状を理解してくれる先生をピンポイントに探すことさえ可能になるかもしれないのです。

 先生の選択の自由は、これだけでなく、さらなる可能性を広げていきます。それはカリキュラムの選択の自由です。

 今の日本の学校は学習指導要領により、どんな科目の授業を受けさせるかが明確に決まっています。新しい時代の学校は、その枠組みさえも外していいと思えるのです。

 従来の学校であれば、国語、数学、英語、理科、社会、芸術科目、体育などと範囲が決まっていました。

 新しい時代の学校は、より実践的で生徒が直接的に興味を持つような授業が存在してもいいと思います。

 例を挙げれば、YouTubeの授業、資産運用の授業、裁縫の授業、小説の書き方の授業、写真の撮り方の授業、音楽編集の授業などなど、数え上げればきりがありません。

 従来の学校では、新しい科目を教えようとしても、地理的条件から先生の確保が難しいというような現状もありましたが、授業のオンライン化は先生の確保という課題を一気に解決してくれるものでもあります。

 教育というのが親の固有の権利であるならば、どのようなカリキュラムで子どもに教育を受けさせるかは親が自由に決めていいのではないでしょうか。

 従来のオーソドックスな授業が大切と思う人は、そういう授業を子どもに受けさせればいいですし、将来自分の会社を継いで欲しい人であれば、社長としてのより実践的な授業を受けさせたいと思うかもしれません。

 未来の社会の学校は、ダイバーシティ、多様性をより加速させるものであるべきだと思うのです。

この記事を書いたひと

牧 静
(まき しず)

プロ家庭教師・母親コーチ。法政大学文学部教育学科卒。専攻は教育行財政学。大学卒業後も教育心理学、発達心理学、認知心理学等を学び、子どもの成長についての高い見識を持つ。大学卒業後15年間塾講師を勤め、教えた生徒は3,000名にのぼる。開成高校、慶應女子高校、早稲田実業高校など、名立たるトップ校の合格実績を有する一方で、不登校や学習に課題のある生徒へのサポート活動も行う。近年は「子どもの教育は親の教育から」と考え、母親向けのセミナーなども行っている。