読書好きの子どもに育てるヒント

2021年1月24日

 私の前職が高校の国語教諭だったため、それを知る人に「どうやったら子どもが本を読むようになる?」「どうやったら子どもの国語力が上がる?」と聞かれることがよくある。

 結論から言うとそんな魔法はないし、読書量が多い子の国語の成績が必ずしもいいとは限らない。しかし、国語の成績がいい子は読書量が多いという印象は持っている。

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 我が家は夫婦揃って読書が好きだ。よその家庭と比較して本が多いか少ないかはわからないが、結婚したときは夫婦で本棚二架分にぎっしり本が詰まっていた。しかし、自宅をリフォームすることになり、本棚は泣く泣く処分。それを機に作り付けの棚に入る分だけしか持たないようにした。

 それでも本を買うことをやめない夫と私。新しい本を買って読んだら処分するか、定期的に本棚を見直して整理するか、そうやって一定量の本を保っている。

 ところで、私には息子と同じ歳の子を持ついとこがいる。夫婦で高学歴、海外志向が強く新しいものを好む傾向にある。

 お互い第一子を生んでしばらく経ったころ、「自炊」と言って紙の書籍を裁断し、デジタル化する業者がたくさん出てきた。その流れに乗ったいとこ夫婦は、自宅の書籍を全部デジタル化してしまった。

 本好きの私としては、装丁や紙質、本独特の手触りが失われていくことが、ただただ残念だった。しかし、これが単なる感傷的な問題ではないと思い始めたのは、同じ時期に「東大合格者の家庭には数百冊もの本が並んでいる」というニュースを見かけてからだった。「本が並んでいる」という表現は、それらの本が決して電子書籍ではないという意味だ。

 みなさんも経験がないだろうか。本屋さんに出かけたときに、目的の本を買うだけでなく、ついつい横にある本にも手を伸ばし購入してしまったことが。

 紙の本の良さは、装丁や紙の美しさだけではなく、思わぬ出会いに満ちているという点だ。家庭にたくさんの本が並んでいるということは、子どもが書店や図書館に行かずとも常に本に接する機会があるということだ。それがどれほど子どもと本の出会いの場を作っていることだろう。

 電子書籍はいとも簡単に図書館並みの本を持ち運びできるというメリットがある。そしていつでもどこでも読みたい本を検索することもできる。これは、日々忙しく、荷物や移動が多い大人にとっては、この上ないメリットだ。現に私も、移動中などは電子書籍を読んでいる。

 また、物理的にまったく場所を取らないので、限られたスペースで生活している人にはこの上なく使い勝手の良いものだ。

 しかし、「子育て」という観点に限定するなら、私は全面的に紙の本を支持したい。

 前述したように自宅に紙の本が並んでいると、子どもは自然とその本の背表紙を目にすることになる。興味を持った瞬間に簡単に手に取ることができる。そして本を通じて親の思考をたどったり、趣味を知ったりすることもできる。

 このとき大切なのは、本棚に並んでいるジャンルが多種多様であることだ。我が家で言えば、私のビジネス書に始まり、明治・昭和の書籍、旅行のガイドブック、手芸・料理の本、そして夫の歴史本や新刊、漫画が多い。それはすなわち、子どもに多くの選択肢を提示していることになる。

 先日、小学生の息子が突然、本棚から一冊の本を抜き出してきた。それは私が読んだビジネス書だった。8割が漫画だったこともあり、息子は興味深く読んだだけではなく、その要点を覚え、その後の会話や生活に活かしている様子が見て取れた。まさか小学生がビジネス書に興味を持つとは思ってもみなかったが、まだ「本にはジャンルがある」という概念のない息子からすれば、本棚を開いたときに目に入ったタイトルに興味を持ったから読んだ――ただそれだけのことだったのだろう。

 これは電子書籍にはなかなか起こり得ないことだと思う。なぜなら電子書籍は子どもが親の読んだ本に触れることがないからだ。

 国語が苦手な子どもは多く、子どもに読書をしてほしいと願っている親も多いようだが、「どうやったら子どもが本を読むようになる?」「どうやったら子どもの国語力が上がる?」のヒントは、一番身近な『家庭の本棚』にあるように思う。

この記事を書いたひと

木下 真紀子
(きのした まきこ)

コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。