子どもが意見を言わない!と気づいたら
チャイルドケアマイスター 磯部一恵氏(一男一女の母)に聞きました
こんな子見かけませんか?
学校の休み時間に何をしたらいいのかわからないという小学1年生。「休み時間だから好きなことをしていいんだよ」と言っても「わからない」と言う。「本は読んでもいいですか?」「トイレに行ってもいいですか?」と、いちいち確認をしてくる。
社会科の授業で内閣について学ぶ小学校高学年。既存の内閣の役職を挙げることはできる。でも、「自分たちの学校で内閣を発足させるとしたら、どんな内閣を作りますか?」と言われると、現状を考えたうえで「こういう仕事があるといいよね」と言って、まったく新しい内閣を作ることは難しい。
近年年齢に関係なく、日常生活において子ども自身が考えて決める能力が著しく乏しくなっています。指示を受けることに慣れているので、指示がないと動けない。自分で考えて必要なことを見つけて実行に移す、ということになるとお手上げという子が多いのは問題です。
先ほどのような話は、7、8年前だったら未就学児の保護者から聞いていたのが、いまは小学生の保護者から聞くことが増えてきました。
子どもたちを取り巻く環境
子どもと話すときに「これをしなさい」「これをしてはダメ」ということだけを口にする大人がとても多いですね。たとえ子どもが考えて行動したり発言したりしても、それが大人の意に沿わないものだと怒られる。子どもが、それなら指示を待ってその通りにした方が嫌な思いをしなくて済むと思うのは当然です。
また、世間が子どもに対して寛容ではなくなってきたというのも大きいと思います。公園でボール遊びをしてはダメだとか、遊ぶ子どもたちの声がうるさいと苦情が入るとか。だから、ある意味保護者は子どもを守るために制限をするしかないのかもしれません。
でも、それは子どもを苦しめることになっています。自分の人生であっても、いつも誰かの指示で動いているから、自分の人生という実感が持てない。それを子どもたちが自覚しているかどうかはわからないけれど、彼らの満たされない感じとか虚しさにつながっている気がします。この状況が進むと、社会は「自分で考えて動ける人」と「自分で考えたり動いたりすることができない人」に二極化します。そして、おそらく前者の方が少数になるでしょう。
自己決定力を身に付けるために親子でできること
まずは、指示とダメ出しを控えてみましょう。そして、選択肢を与えて子どもに選んでもらいます。子どもが選んだ結果は、よかろうが悪かろうが子ども自身が受け止めるように、親子で練習していくというのをお勧めしています。
親が選択肢を与える際は、Aを選んでもBを選んでもOKと思えるものを出してください。そうすれば、子どもがどちらを選んだとしても親自身も受け止められるはずだから。
子どもが自ら選んで動く様子を見守ることで、親子間の信頼も培われていきます。これを続けていくと、親子間での言い争いがなくなったり、会話が成立したりするようになります。
いまからでも遅くない!
本来は就学までに二つの選択肢から自分で選んで、実践することが当たり前になっている状態が望ましいです。すると、小学生になったときに、子どもも親もラクだから。
とはいえ、もうすでにその時期を過ぎてしまった、ということもあるでしょう。大丈夫。この取り組みはいくつになってもできます。ただ、子どもの年齢が上がっていくと、子どもの意志が出てくるし、中高生になると思春期に入ってコミュニケーションが難しくなるので、できれば小学生の段階で気づけるといいというだけの話です。
親が「うちの子は自己決定力に欠けるな」と気づいたときに、アイメッセージ(「私は」という主語で始める伝え方)で子どもに話したらいいですよ。「お母さんはあなたのこういうところが気になっていて、自己決定力が身に付いてないんじゃないかと思う。それは、あなたのこれからの人生にとても大事なものだから、一緒に身に付けていけるといいと思うので、こういうことをやっていこうと思うけれど、どう?」と。
具体的な例で伝えると、子どもも理解しやすいし、お母さんが自分の方を向いてくれているというのも伝わります。
アイメッセージを意識しよう
アイメッセージはいかなる場面でも大事です。「私の意見」として伝えることは、相手を非難したり、批判したりすることにはならないので、聞いている方も受け入れやすいからです。
頭ごなしに叱ると、子どもも否定されたと思って防御態勢に入るかもしれないけれど、アイメッセージで穏やかな口調で伝えれば、子どもも聞き入れやすいのです。
さらに親がアイメッセージで話せば、子どももアイメッセージで話せるようになります。そうすると、親子間の会話もしやすくなるし、子どもも他人とのコミュニケーションがとりやすくなります。
子どもは「小さい人」
人というのは年齢に関係なく、人としての尊厳があって、自分の意見を言う権利、自分の感情を表す権利、自分の世界を持つ権利を持っています。それは子ども大人も同じなので、子どもに対して「一人の小さな人間」として接するといいですね。
子どもと大人は役割の違いがあるだけです。子どもは学ぶ人。大人はそれをサポートする人。違いがあるから対等ではないけれど、人としては平等。モンテッソーリ(幼児教育者)が言うのは、「子どもはできないのではなくわからないだけだから、大人がサポートする」ということです。
子どもはやり方を教えたらできるようになります。料理にしても、自己決定にしても。自己決定力を高めれば、自己肯定感も育つので、子育て中の保護者には、ぜひこういったことを知ってほしいと思います。
■お話を聞いた人
チャイルドケアマイスター 磯部一恵(いそべ・ひとえ)
相談事業やアクティブペアレンティング講座(オンライン受講可)を通じて、親の子育てに関する学びをサポートしている。
この記事を書いたひと
木下 真紀子
(きのした まきこ)
コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。