今後の学びの在り方と「STEAM教育」について考える

「STEAM教育と宝石」を5回にわたり取り上げてきましたが、「STEAM教育」についてどのようにお感じになりましたか?

これまでの教育は、たとえば「1+1=2」のように、やり方や理論さえを覚えてしまえば、だれもが同じ答えにたどり着きました。

ところが、STEAM教育に明確な「答え」はありません。
答えのあることを学ぶ教育ではなく、スキルとして身に付ける行動様式と言えます。

疑問に感じたことを、「Science」「Technology」「Engineering」「Art」「Mathematics」と、さまざまな面から掘り下げ、自分の考えをまとめ、行動に落とし込んでいく…リトライを繰り返していくということは、覚えていくだけの勉強よりも大変かもしれません。

しかし、ただ暗記するだけよりも、その過程を楽しめる勉強法だという印象を持ちました。

未来の教育のために政府が焦点を当てていることは?

2022年5月、政府は【教育未来創造会議「第一次提言」】を取りまとめています。

それによると、現状や人材育成を取り巻く課題を踏まえて、政府は次の3点に焦点を当てています。

  • 未来を支える人材を育む大学等の機能強化
  • 新たな時代に対応する学びの支援の充実
  • 学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備

いまの日本の現状―女子生徒の理系離れー

OECDは、加盟国の15歳の子どもを対象に「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の三分野について、2000年から3年ごとに「学習到達度調査」を実施しています。

コロナ禍の影響で、2021年度は実施されなかったため、最も新しいデータは2018年に実施したときのものです。このとき日本の義務教育終了段階の子どもたちの「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」は、世界でもトップレベルです。

しかし、「数学や理科を使うことが含まれる職業につきたい生徒」の割合は2割から3割と、国際平均と比べても低いことが分かります。

PISA 結果(2018年)
PISA 数学的・科学的リテラシーランキング(2018年)

高校入学時には、約4割の生徒が科学的リテラシー能力や数学的リテラシー能力を有していながら、高校において理系を選択する生徒は約2割にまで減っています。

この調査において特に注目すべき点は女子の理数離れです。

OECDの調査対象である15歳の段階では理数リテラシーを持つ女子生徒は37%(約20万人)を占めているにも関わらず、高校において理系を選択する男子が27%に対して女子は16%(8万人)、大学で理工農系を専攻する女子学生は5%(2.7万人)にまで減っています。

つまり、理数の素養があっても、大学進学時に理工系学部を選択する女子生徒が少ないということです。

理系離れ 推移
日本の理系離れの推移

国際平均と比べてみても、大学進学の時点で理工系学部への進学割合はOECDの平均が27%に対し、日本は17%。このうち女子生徒の理工系学部への進学割合は、OECDの平均が15%に対し、日本は7%と半分にも満たないことが分かっています。

理工学分野の女子生徒の割合(OECD調査)
理工系分野の女子入学者の割合(OECD調査)

つまり、初等中等教育においては、高い水準の理数リテラシーを持っているにも関わらず、その資質や能力を伸ばすための環境が整っていないのではないでしょうか。

政府はこれらの点を踏まえ、大学を起点とした構造改革を図ることを考えています。

理系離れを食い止めるために政府が考えていることは?

政府が理数離れを食い止めるべく考えているのは次の2点です。

  • 現状で大きく不足している理系の学修を行うための大学の受け皿を抜本的に拡充すること。
  • とりわけ女性の理系分野で大きく活躍できる社会を構築すること。

そのために、まずは現在35%にとどまっている理学関係、薬学関係、工学関係などの自然科学分野を専攻する学生の割合を、5年後を目途に5割程度まで引き上げることを目指すこととしています。

ある物理学者のはなし

koedoにご寄稿いただいたことのある、理論物理学が専門の大学教授「カラフルな一歩」さんに、「子どもの理系離れ」について話をお聞きました。

カラフルな一歩

欧米では理系・文系ではなくて「Science」と「Art」に分けられています。 Artに関わらないものが、すべて「Science」。だから、歴史や英語もぜんぶ「Science」にあたります。

日本では文学部に哲学科があることが多いですが、欧米では哲学も「Science」です。

理系は、大きく「理学」と「工学」に分けることができます。
物理、化学、数学などが理学。
電気工学、建築学などが工学に当たります。

理学は突き詰めると哲学になる。
ガリレオやニュートンは自然哲学という分野の先駆者です。

工学はものを作るから、突き詰めるとArtにあたる。
実際、日本でも建築学科のある美術大学がいくつも存在しています。

つまり、「理系」「文系」と分けるのも「Science」「Art」に分けるのもあまり意味がないと感じます。

カラフルな一歩さんの記事

プログラミング教育とSTEAM教育

子どもの理系離れが進む一方で、いま、日本はITエンジニアの確保が課題となっています。

経済産業省によると、2030年には最大で79万人ものITエンジニアが不足すると言われているからです。

その背景には、テクノロジーの急速な発展が挙げられます。しかし、身の回りでAI化やIoT化が進むなか、それを扱う人材が育っていません。

ITエンジニアを育てるために、2020年、小学校にプログラミング教育が導入されました。

小学校で行われるプログラミング教育とは、特定のプログラミング言語を習得したり、将来エンジニアとして働くためのスキルを身につけたりすることではありません。

プログラミング教育を行うことで、身の回りの家電製品はプログラムで動いており、そのプログラムは人が作成していることに気づくことを目指しています。その先には、子どもたちにプログラミング的思考を身に付けさせるという狙いもあります。

プログラミングは、その基本的な構造部分にSTEAMの枠組みを持っています。

プログラミングを行う際、まず課題があるから、その課題に対して解決策を考えます。
課題を感じる部分に感性があり、課題解決の方向性に哲学があります。これらが「Art」に位置付けられます。

そして、プログラミングを始める際には、必ず要件の定義が必要です。
一つひとつの言葉の意味や、それぞれの役割の構造を考えるのが「Mathematics」に該当します。

さまざまな「Technology」を理解し、その組み合わせを考えるのは「Engineering」に当たります。

組みあがったシステムから、ときにはまた新しく「Technology」が生まれてきます。
さまざまなTechnologyを理解し、その組み合わせを考えるのもEngineeringにあたります。システムエンジニアは、まさに多種多様な技術を理解しながらシステムの構成を考えていくポジションにある人を指します。

さらに、プログラミングを行うとき、「こういう結果を得るためには、こういうプログラミングを組めばいいだろう」という仮説を立てます。

その仮説を立証するために実際にプログラミングを組み、その結果を確認。
想定していた結果が得られるまで、プログラミングを組みなおします。

仮説と検証を繰り返す「Science」の工程が、まさにここにあります。

さいごに

子どもたちの理系離れを食い止めるために、いま、大学でも少しずつ変化がみられています。

奈良女子大学には、女子大学として初めて理学部・工学部が創設されました。
ほかにも、理系学生のための奨学金を用意している大学もあります。

子どもたちが進路で悩んだとき、文系か理系かの二者択一に陥らないように、さまざまな学習ができる機会が少しずつ増え始めています。

koedoでは、今後もSTEAM教育の在り方を観測していこうと考えています。

【参考】

【koedo事業部】