令和の時代も常識は要りますよ

2022年7月11日

「2011年に小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今ない職業に就く」

キャシー・デビットソン(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)

今年は2021年なので、2011年に小学校に入学した子どもたちはまだ高校生で、この検証はなされてないだろうが、それにしてもこの10年だけでも様々な職業が出てきたと思う。

ここ10年で新しくできた職業

  • ユーチューバー
  • インスタグラマー
  • アフィリエイター
  • マーケター

などなど枚挙にいとまがない。

アニメのサザエさんやちびまる子ちゃんの世界をイメージしてもらえばわかりやすいが、私が子どものころはカタカナの職業はほとんど存在しなかった(そもそもネットがなかったわけだから、YouTubeもInstagramも存在しないわけだが……)。

また、「フレックスタイム制」「パラレルキャリア」「ノマドワーカー」といった働き方も存在しなかった。どこの家の親も平日の朝から夕方(もしくは夜)まで働いていて、たまに平日が休みだという親戚のおじさんは自衛隊だった。

しかし今は違う。グローバリズムの波と長く続く不景気で、終身雇用制は先行き不透明。また、価値観が大きく変化したことで、新しい職業、新しい働き方が市民権を得て、自分で働き方を選べる時代になってきた。

私自身も公務員を辞めてフリーランスの道を進んでいる。安定した公務員の職を辞すことに反対する人もいたが、自分で仕事と家庭のバランスをとれる今の働き方に私は満足している。まわりにも自分が望む働き方をしている人が多い。こういった流れはもう止まることはないだろう。

しかし、これには大きな落とし穴があるのだ。

先日、とある企業の求人ライティングのために、社長にヒアリングしていたときのこと。

「この業界って、売れるものさえ作ればいいと思っている人が多いんですよ。だから、時間も約束も守らない。でも、そういう人はやはり淘汰されていく。うちが欲しいのは、社会的な常識を兼ね備えた人です」

私はこの話にいたく得心した。新しい時代に旧弊なものはいらないように思われるかもしれないが、社会人として必要とされているものはそう変わらない。例えフリーランスになったり、自分で会社を興したりしたとしても、人として最低限の常識を兼ね備えていなければやっていけないと肝に銘じるべきだ。好きなことだけをして収入が得られるほど世の中は甘くない。

くだんの社長は「大手企業の出身者できちんとしつけられている人」を採用したいと話していた。

* * *

子どもの職業観は未熟で短絡的だ。この潮流の上辺だけを見て、例えばeスポーツだけをしようとしたり、リアルな人間関係を避けてひたすら自分のやりたいことを追求したりする子が出てくる可能性は大いにある。

私が高校教諭だったときも、「漫画家になりたいので専門学校に行く」と言って聞かない生徒がいた。そこで、現役の漫画家の知り合いに話を聞くと、「漫画はいろいろな人生経験をしていないと描けないので、大学に行って経験を積んだほうがいい。絵はあとから練習すればいくらでもうまくなる」と言われた。ごもっともだと思う。

「職業に就く」ということは対価を得て社会と関わることだ。「好きなこと」「やりたいこと」を追求するのと並行して、社会と関わるための準備もしておかなくてはいけない。

中学や高校によってはキャリア教育に力を入れているところもあるが、子どもの将来については、親が子どもの小さいうちから積極的に関わったほうがいい。子どもに基本的生活習慣や常識(この常識についてもいろいろな議論があるのは承知だが、嘘をつかない、借りたものは返す、のレベル)を身に付けさせながら、子どもの話をよく聞いて視野が広がるようなアドバイスをしてほしい。そんな親子が増えれば、令和の子どもたちは自分らしく健全な働き方ができるようになるだろう。

この記事を書いたひと

木下 真紀子
(きのした まきこ)

コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。