【親になるということ】「モノ」と「コト」から考える子育てのしやすさ
あなたは「子育てしやすいまち」と聞かれて何をイメージしますか?
「ベビーカーを押してもガタガタしない道」「教育制度が充実している」「病院が近くにある」「スーパーや薬局などが夜遅くまでやっている」「交通が便利」「大型ショッピングモールが近くにある」など、少し考えただけでもたくさん出てきますね。
近年、私たちの消費傾向が「モノ」から「コト」へ移行してきているという話を耳にします。一般的にモノ消費とは、消費者が商品を所有することに価値があると考えることで、コト消費とは自分を磨くイベントやランクの高いホテルでゆったりとした時間を過ごすなど、諸体験や経験に価値を見出すことです。
では、消費とは違いますが、この「モノ」と「コト」を子育てに当てはめるとどうでしょうか。
「子育てしやすい」ということをモノでとらえた場合、前に挙げたような道路や交通事情、店舗、行政サービスなどが考えられます。あったら便利、あったら楽と考えるので、自分が欲しいサービスがないと、「子育てしにくい」と考えてしまいがちなのです。そしてこの場合の「(子育て)しやすさ」は、その多くが毎日の生活に必要で、さらに育児をする側の負担が減る、精神的・肉体的に楽になることが望まれるのだなと思います。
では、子育てをコトでとらえるとどうでしょう。この場合、子育てしやすいまちとは、公園(自然)が多い、美術館や博物館などが近くにある、地域の交流が盛ん、治安が良いなどが挙げられます。これらはみな、なくても子どもを育てることができるものです。でも、あったらもっと良い。もっと様々な体験ができる「環境」であるといえます。
このときの「(子育て)しやすさ」は、育児をされる側、つまり子どもたち自身にとって精神的・肉体的に影響が大きいことなのではないでしょうか。そして、子どもたちに何を体験させるかは、親が「どんな人に育ってほしいか」で変わってくるので、何をもって「子育てしにくい」となるかは人によってだいぶ違うのかなと思います。
子育ての「モノ」と「コト」は家の中にもあふれています。例えば「スマホ育児」。朝や夕方の忙しい時間、子どもの相手をしながら家事をするのはとても大変ですよね。そんなとき、子どもにスマホのゲームをさせたり、動画を観させたりしておけば静かになります。スマホという「モノ」を使うことで、親の負担が減る。子どもが喜ぶようなアプリは「子育てしやすい」サービスです。上手に活用することでイライラが減り、子どもに対しても優しく接することができるようになるかと思います。
しかし、世界保健機関(WHO)が2018年に、インターネットゲームなどのやり過ぎで日常生活に支障をきたす症状、つまり“ゲーム依存”について、治療が必要な疾患であると認定したように、低年齢からスマホを長時間触らせることは、健康面でも精神面でもかなりの悪影響を子どもに及ぼすことがわかっています。
反対にスマホを触らせないで子どもを静かにさせておくにはどうしたら良いか考え、例えば居間に子ども専用の本棚を置いておく、親の目に見えるところで子どもが勉強できるスペースをつくっておくなど、子どもたちが自然に一人で過ごすことができるようになる環境を整える「コト」で、すぐに求める状態(子どもに邪魔されないで家事をする)にはなりませんが、長いスパンで考えたときには自立した子どもに育てるということができると考えられます。
こんなふうに話すと、まるで「モノ」を求めるのが悪いことで「コト」を大事にしなくてはと言われている気がするかもしれませんが、そうではありません。私はもちろん、小さい子どもがスマホを触り続けることが良いことだとは思いませんが、「ちょっと静かにしていて!」と思ってしまう親の気持ちも否定できないのです。誰だって助けがほしいときはあります。そんなときにスマホのアプリという「モノ」に助けを求めてしまっても良いではないですか。
子育てをしているときに「絶対ダメ」を増やしてしまうと、自分を縛り付けることになってしまいます。ただし、モノとコト、どちらもメリットとデメリットがありますから、そのバランスをとっていくことが重要です。選択肢をたくさん持って、上手くやりくりをするだけの余裕があると、気分が楽になると思います。
私たちの生活は「消費する」ことにあふれていますが、子育ては消費だけではすすめられません。親にとって助かる「モノ」と、子どもの成長に良い影響を与える「コト」の両方が必要です。そのためには子どもが話したいと思うときに、家事の手を止めてゆっくり耳を傾けても文句を言われない家族関係の構築、つまり家族の在り方を普段から考えて話し合っていくことが大事なのかなと思います。
この記事を書いたひと
吉田 理子
(よしだ りこ)
1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。