【授業のためのICT入門】子どもたちを「受け身」にしないICTの使い方

タブレットを使って学習をするというと、例えば「ドリル」など、学校側(教員側)が教材を準備するというイメージがあります。もちろん、それは大事。いまでも漢字ドリルや算数の計算ドリルなどは子どもたちの宿題の定番ですね。ですが、こうした既存の教材を使用するだけでなく、子どもたちに自分で「教材」を作らせてみる、という試みはいかがでしょうか。

九九のカードを作る

GoogleのスライドやPowerPointなどを使って、九九のカードを作りましょう。1枚のスライドに九九ひとつ(例:5×8= など)を入力します。たくさん作ってスライドショーで表示し、フラッシュカードのような形で使用します。

別に先生が作ってみんなで答えればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、

  1. 九九を覚える
  2. プレゼンテーション系のアプリの使い方を覚える
  3. 自分の勉強方法を自分で考える

という、3つのめあてを作ることができるのです。①の九九を覚えるは当然の目的ですから特に説明は要らないと思いますが、②のアプリの操作方法については低学年でも以下の機能を知ることができます。

・簡単なテキスト(数字や記号)の入力

ワープロ系のアプリと違って、「文字を入れる」という工程が必要になりますので、入力するということを意識することができます。

・文字の配置(見やすい大きさや場所、バランスなども含めて)

プレゼンテーション系のアプリは文字も図形と同じ扱いになりますから、場所の移動などを簡単にできます。1枚のスライドを1画面に映すことができる(スライドショーなど)ため、全体のバランスを見ることもできます。

・スライドの追加の仕方

追加の方法はいくつかありますが、どれかひとつだけでもよいでしょう。

・スライドショーの操作の仕方

マウスでクリックする、キーボードのEnterキーを押す他に、指でタップするなど、場面によって使い分けることもできます。

③の学習方法については、単に1×1からはじめるだけではなく、自分の苦手な段を集中的に作ったり、ランダムに作ったりと、自分で自分の勉強方法を工夫することができるのです。

作ったスライドを使ってお友達同士で出題しあったりするのも、クイズを出している気分になって楽しめるかもしれません。算数の九九なんてキライ!という子も、自分で作った教材なら試してみたくなるかもしれませんね。

プレゼンテーション系のアプリは使い道に幅があります。単純にプレゼンテーション(発表)をするだけでなく、例えば

  • 紙芝居をつくる
  • 自分だけの図鑑(身の回りの植物など)をつくる
  • 絵や図形を組み合わせてアニメーションをつくる

といったこともできます。作って、保存して、人に見せるということを繰り返していくうちに、「わかりやすく伝えるにはどうしたらよいか」という、自分以外の視点を考えられるようになりますし、他の人の作品や発表の仕方を見て、自分自身を振り返ることもできます。

話は変わるのですが、私はいまの日本におけるICTに対する意識についてとても残念に思っていることがあります(日本に限ったことではないのかもしれませんが)。それは、圧倒的多数の人がICTに対して「受け身」であるということ。

以前(IT機器の活用は「授業のめあて」から始めよう)にもお話ししましたが、目的をもってICTのツールを探すのではなく、特定のツールで提供されている機能の中から自分が使えそうなものを選ぶ傾向が強いということです。つまり、「こういう機能がほしい→作ろう」ではなく、「こういう機能のアプリはないかな?→探してみよう」なのです。

これは与えられたものを使いこなす能力としては大変有効だと思いますが、あくまで枠の中にとらわれて、そこにある課題を見つけたり、問題解決をしたりという方向に発展しづらくなっていると思います。消費者としての使い方であり、イノベーションに結び付けることが難しくなります。そしてこの感覚は、ICTだけでなく日常生活のいたるところで感じることでもあるのです。

私自身、こんな体験がありました。以前、子どもたちへの講座で、ダンジョンゲームを作ったことがありました。私たちが「ダンジョンゲームのもと」(ソフトウエアです)を作ります。子どもたちは、粘土で人形を作り、写真を撮ります。写真を加工して、一定の設定(名前を付けたり、強さや武器を選んだり)をしたあと、「ダンジョンゲームのもと」に画像を挿入すると……自分が作った人形が主人公となってモンスターを倒すゲームができ上がる♪というものでした。

ただ、イメージすることが難しいだろうから、サンプルゲームを渡して少し遊んでもらったのですが、そのとき受講した子どもたちから受けた言葉は衝撃的でした。彼らは口々に、「このゲーム面白いから、自分で作らなくてもこれをもらえればいいや、別に作らなくてもこれで遊んでいたい」と言い出したのです。

私は、自分が作ったもの(物理的に触れるもの)がゲームになる(パソコンをツールとして使う)ことで、子どもたちがICTを身近に感じ、創作意欲をわかせてくれるだろうと思っていましたから、そのショックはとても大きく、動揺を隠して講座を続けることに大変苦労しました。もちろん、黙々と人形を作った子どももいますから、全員ではありません。ですがそのとき、「受け身」「消費者的な感覚」という感覚を初めて実感し、講座の組み立てを再考しなければと思いました。

「教材を作る」という行為は、「ほしいものは自分で考えて自分で作る、そのためにICTをツールとして利用する」という体験に結び付きます。その繰り返しはいずれ、子どもたちの生き方にも少しは反映できるのではないかと期待しています。GIGAスクール構想の目指す「創造性をはぐくむ教育」は、そこにあると思います。

この記事を書いたひと

吉田 理子
(よしだ りこ)

1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。