【授業のためのICT入門】例えば「使えなくなったパソコン」を教材にする方法
みなさんは使えなくなったパソコンの処理をどうされていますか? 基本的には各自治体の処分方法に従って廃棄をすることになると思いますが、実は面白い活用方法があります。それは、「子どもにパソコンを解体させる」というものです。方法は簡単。大きさの違う何種類かのドライバーを用意し、子どもに渡す。そして、好きなように分解させるのです。
約束事はたった2つだけ。
- パソコンを引きちぎったり、落としたりして壊す(破壊)ではなく、どうなっているか調べて「分解」すること
- ドライバーを振り回さないこと
これを、小学校のパソコンクラブで実施したことがあります。ノートパソコンを10台と、デスクトップパソコンを1台。1人1台ではなく、4人くらいのグループで協力し合いながら、さらに45分の授業時間1回では終わらないので、3回に分けて行いました。
軍手をはめ、最初はノートパソコンをひっくり返してみたり、キーボードを外そうと引っ張ってみたりしていた子どもたちは、とりあえずはネジを見つけて回せばよい、ということを発見し、一気に作業をすすめます。
最初はバッテリー。後ろ側を空けてメモリやHDD(ハードディスクドライブ)、DVDドライブなど、簡単なところから始めるのですが、分解するノートパソコンは知り合いからかき集めたものなので、統一されていません。大きさもメーカーもみな違いますので、当然組み立て方も違います。簡単に外れるグループ、表面のキーボードを外さないとHDDにまで到達できないグループなど、それぞれの違いをお互いに見せ合いながら作業をするのですが、すべて分解してよいと言ったら液晶モニターまで分解をしてしまったところもありました。
この体験の「めあて」はいくつか想定することができ、その「めあて」によって分解作業後の流れが変わります。2つほど例を挙げてみましょう。
めあて1:パソコンの仕組みを理解する
普段使っているパソコンの中身がどうなっているのかを知るということが目的です。この場合は分解をする前に「どうなっていると思うか」を想像したり、事前に図書室などで調べたりして準備をした後、「分解して確かめる」という作業をメインとします。最後に調べたこと(または想像したこと)と比較したまとめを行います。その際、分解作業の様子や分解した部品を写真に撮っておくとよいでしょう。また、パソコンの処分方法や、家電リサイクル法などについてネットで調べ、Reduce、Reuse、Recycleや、パソコンに使用されているレアメタルの話題から資源や環境について、話題を膨らませることも面白いです。
めあて2:知らないものについてインターネット検索をする
子どもたちは普段、「自分たちの住む地域の特産物」や、「歴史上の人物」についてインターネットで調べ、学習を行っています。この場合はあくまでテーマが決まっていて、図書室の本から必要事項を探すように、ネット検索をしていきます。ですが、「知らないもの」を調べるときはどうすれば良いのでしょう。そこで、パソコンを分解したときに出てきた様々な部品を使います。当然、この場合は事前に調べたりしてはいけません。いきなり「分解」作業に入り、分解が終わってからがメインとなります。
分解した部品の中から自分が気になったものを一つ選び、それが「何」で、パソコンの中では「どんな働き」をしているのかを調べていきます。ここで大切なのは、「どういうキーワードを使うか」ということです。ですから、分解後には「インターネット検索のしくみ」について説明をする必要があります。
例えば「メモリ」を調べたい場合、どうしたらよいでしょうか(みなさんも考えてみてください)。
実は、ノートパソコン・部品・緑・細長い等の単語を組み合わせると、見つけることができるのです。ただし、いわゆる「テキスト検索」ですとブログや解説などの文章を読まなければならず、子どもには難しい場合があります。
ですが、「画像検索」にすれば写真やイラストが表示されるため、子どもたちは自分が手にしている部品と見比べながら探すことができるのです。また、タブレットを使って部品の写真を撮り、その写真をもとに画像検索を行うということもできます。「見たことがあるけれどそれがなんだかわからない」ものも、インターネットで調べることができるという経験はなかなか興味深く、子どもたちの探求心を高めることができます。
さらに、中には各部品についている「シリアルナンバー」をキーワードとして入れたりする子どももいます。その場合は当然ですが、検索結果にヒットすることはほぼありません。でも、子どもが何らかの「番号」がカギになるのではないかと思って調べたことです。「違うよ」と指摘して終わるのではなく、「シリアル番号とは何なのか」「なぜそうした番号が必要なのか(工業の話になりますね)」と、話を膨らませることができます。
この体験は上記の例だけでなく、別の発見もあります。例えば、「ドライバーを使う経験をしたことがない子どもがいる」「ネジをまわす腕の力がない子どもがいる」ということを知ったのはこの講座を行ったときでした。このような、テストではなかなか見えてこない状況をどう解決していくか、という課題にもなります。
使わなくなったパソコンを捨てようかな?と思われたら、そのときどきに感じている様々な社会の課題や学習の目的に結び付けることができる“教材”として利用する、ということも少しご検討ください。
この記事を書いたひと
吉田 理子
(よしだ りこ)
1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。