【授業のためのICT入門】
IT機器の活用は「授業のめあて」から始めよう

2021年3月24日

 もう10年以上前の話です。夏休み、都内の教育委員会からの依頼で、小中学校の教員向けに「電子黒板活用講座」の講師を務めたことがありました。当時、学校への電子黒板の導入が始まったころです。先生方は授業に電子黒板を活用しようと、熱心に参加されていました。電子黒板は、コンピュータや実物投影機(書画カメラ)等をつないで、その映像を大きく映すことができる機材です。

 そのときに例として挙げたのが、社会科、算数科、家庭科、国語科でした。社会科では地図を投影して拡大し、大きく見せ、説明をしながらペンの機能を使って、マル印や矢印を書き込んでいくという方法。算数科は教材(ソフトウエア)を使用して、平行四辺形の性質について、マウスで図形を変形させながらわかりやすく説明をしましたし、家庭科は「玉結び」の方法を、カメラで手元を大きく映すことでわかりやすく手順を説明できること、また国語科は当時まだ作られ始めたばかりのデジタル教科書を映し、教科書の文字を大きく表示しながら音読をしてみる、という内容をお伝えしました。

 先生方は最初とても緊張されていました。「電子黒板」なんていう新しい機材が出てきて、自分は使いこなせるのだろうか、ビデオの再生だって難しいのに……と事前に話されているのも耳にしました。

 でも実際に、ワークショップとして先生方に簡単な「授業」を実施していただいたとたん、みなさん生き生きと楽しそうに、そしてずっと前から使っていたかのように電子黒板を使いこなされたのです。

 学校の先生方はご存じの通り、授業の組み立てには必ず「めあて」を決めていきます。上記の例で言えば、社会科では「地図の見方や地図記号を覚える」。算数ならば「平行四辺形の性質を理解する」。家庭科は「玉結びのやり方を理解して、自分でできるようになる」。国語は「声を出して文章を読む」などです。

 先生方はこの「めあて」を理解されているので、その目的を達成するための手法として、「電子黒板をどんなふうに使ったら子どもたちがよりわかりやすいだろう?」と考えることができた、他の方が行った模擬授業を参考に「自分だったらどのように使うか」を考えることができたのだと思います。

 パソコンやスマホなど、IT機器を様々な用途に使う大人が増えてだいぶ経ちますが、私が最近課題だと思うことはまさにこの部分。目的がはっきりしないままITの技術を使おうとする人が多い、ということなのです。

 どういうことかもう少し詳しくお話をしましょう。

 電子黒板の研修を受けるという課題があった場合、「電子黒板を使って授業をすること」自体が目的になってしまうと、自分が持っていない知識・技術について不安になり、拒絶してしまいがちです。しかし「〇〇という目的(授業のめあて)を達成するために電子黒板を活用する」と考えれば、「では電子黒板ではどんな機能が使えるのかな?」という気持ちになります。授業に入ってしまえば、様々なアイデアがわいてくる、ということです。

 ほかにも例えば、私のように大人になってからIT機器を使うようになった場合、「こんなことがしたい」と思ったら、その「したいこと」を実装しているソフト(アプリ)はないかな、という視点で検索をします(私の場合、それでもなかったら作ろう、という発想になってしまいますが……)。

 一方で、子どもたちや若い世代の方々は、漠然とソフトを検索して、機能を理解すると、その範囲内で自分ができることを決める傾向にあるようなのです。これでは機材に「使われている」状態です。なぜこのような思考になってしまったのでしょうか。

 これはあくまで私の考えですが、スマホが私たちの手元にやってきたとき、それまでのガラケーにあった「インターネットが使える電話」という概念から、「電話も使える電子機器」に変わり、その使用方法として「便利」「楽しい」といった消費活動の方向に、ユーザーの嗜好が働く広まり方をしてしまったことが原因のひとつではないかと思っています。

 GIGAスクール構想が求める「創造性を育む」ための使い方をするには、まず「今日の授業ではなぜタブレットを使うのか」という自分なりの理由を、一人ひとりが持つべきではないでしょうか。本来の授業のめあては何か、なぜIT機器を使う必要があるのか。まずはこの部分をしっかりと把握してから、あらためてIT機器(実際にはタブレットPC等)に向き合うと、少し余裕をもって接することができると思います。

 脳科学者の茂木健一郎氏の言葉に、「創造性の程度は側頭葉に蓄えられた『経験』と、前頭葉によって創られる『意欲』の掛け算で決まる。経験なしに創造性は生まれない」というものがあります。IT機器はご自分の「経験を編集する」ためのツールであって、目的ではありません。まずは「使わなければいけない」という概念を取り払い、ご自分の経験を大切にしましょう。

この記事を書いたひと

吉田 理子
(よしだ りこ)

1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。