【授業のためのICT入門】セキュリティの重要性を理解する

先日、講演の後に「学校のタブレットは使用するたびにログインをするのだけれど、小学校1年生の子どもはパスワードを覚えられない(担任が暗記するように徹底している)から、ふでばこの裏にシールで貼っても良いようにするにはどうしたらよいですか?」という質問をいただきました。

子どもがかわいそう、ということと、全員ログインするまで授業が始まらないから、効率的ではないというご意見です。みなさん、この質問にどう答えますか?

小学1年生のパスワード管理

  1. 1年生の子どもには暗記は無理なので、シールを貼っても良いことにする
  2. 授業が遅れるのは困るので、担任がパスワードを管理して毎回教えるようにする
  3. 全員同じパスワードにする
  4. 絶対に暗記させることを徹底する

これは、どの観点からパスワードを考えるかによってその答えが変わってくるのです。まず、1年生の心理的な負担を考えるなら1でしょう。授業の遅れを心配するならば、2か3です。そして、ICTのセキュリティという概念を子どもに理解させるには、4を選ぶことになるでしょう。

いつもお伝えしているように、ここでも「なぜ」「何のために」が重要になります。つまりGIGAスクール構想をもとにした一人一台タブレット、ということを考えれば、おのずと4が選択されることになるのです。

そもそも、パスワードはなんで大切で、他人に教えてはいけないものなのでしょうか。

笑い話ですが、もう10年前くらいに、大学生の男の子が私に「サークルのホームページを管理することになったのだけれど、やり方が分からない」と質問してきたことがありました。

中身を見るためにはIDとパスワードが必要だけれど、それは受け取っていますかと聞いたところ、受け取っていないと。先輩に聞いてくださいとその場でSNSを使ってやり取りをしてもらったら、すごい答えが返ってきました。

「先輩、ホームページのパスワードを教えてください」
「え? おれ知らないよ。Yahoo知恵袋とかで聞いてくれよ」

大学生の彼は私を振り返って「わかんないそうです。ネットで調べろと言われました」とケロっとした顔で言いました。まあ、私の驚きがどれくらいであったか想像をしてください。

これは大変なことになった、この子たちにどうセキュリティを説明したらいいのだろうと頭を抱えながらなんとか理解してもらいました。苦い思い出ですが、セキュリティの概念がない状態で大人になるということの怖さを実感したできごとでもあります。

パスワードは個人のセキュリティを守る大変重要な役目を持っています。一般的なネットワークやデータベースでは、そのセキュリティを確保するために、使用する人ごとにどんな操作をしてよいか(「読み取り」や「書き込み」など)の権限を変えています。

いわゆるアドミニストレーターは読み取りも書き込みも削除もできるけれど、一般のユーザーは読むだけとか、自分に関係あるところだけ編集ができる、といった具合です。

このような使用権限の違いをつくるためには、それぞれのユーザーを判別できなければなりません。そのため、そのネットワークの管理者は、利用者ごとに一人ひとり別のアカウントを設定するのです。

そしてそのユーザーアカウントを使用するためには、与えられたユーザー名を使用して、正しく本人かどうかの認証を受けなければなりません。その認証の際に、自分がそのユーザー名の正式な所有者であることを証明するためにパスワードを入力するのです。

ほかの人に自分のユーザーアカウントを使用されてしまうと、使用権限を持っていないユーザーがネットワークに接続できるようになったり、データベースを編集したりできてしまします。

このようななりすましはハッキングの被害や詐欺、またはいじめを発症させてしまいますから、防止するためには一人ひとりのユーザーがパスワードを厳重に管理しなければならないのです。

パスワードはなぜ大切か。これを、小学校1年生が100%理解することは大変難しいです。ですが、小学校に上がる前からインターネットを日常的に使用している子どもたちにとって、学校のタブレットに自分でログインするということは、初めて「セキュリティ」というものを意識する瞬間なのです。

セキュリティは自分を守るだけでなく、仲間、組織といった自分の周りの人をも守ることにつながります。

ですから、「かわいそう」や「効率が悪い」といった、大人の理由で子どもたちの大切なチャンスを奪わないでいただきたいと思います。

この質問に関して私も少々気になっておりましたので、ある公立小学校の1年生の担任の先生に、ログインについての現状を伺ってみました。

すると、その先生はやはり全員に暗記をさせて(もちろん学校側が作ったパスワードなので先生は管理用に一覧を持っています)、どんなに時間がかかっても全員自分でログインするように徹底したそうです。

最初は確かに授業の半分以上をこの時間に費やしたということですが、1週間もすれば子どもは自分のパスワードを覚えて、支障なく授業を始めることができるようになったと。この1週間を無駄と思うかどうかがカギなのだなあと思いました。

情報セキュリティは下手をすると私たち大人も気を抜いてしまうことがあります。同じパスワードを使いまわす、どこかにメモをしておく。ひと昔前は、会社のデスクトップに付箋でパスワードを貼っている人がいたりしましたが、今でもその感覚は変わらないのかもしれません。

たくさんの情報がデジタル化していく時代。便利になった反面、せっかくのGIGAスクール構想ですから、私たち大人ももう一度情報セキュリティの重要性について認識し直す必要がありますし、そのために子ども達と考えていくことが大事かもしれません。

この記事を書いたひと

ライター:吉田理子様

吉田 理子
(よしだ りこ)

1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。