【未来人材ビジョン①】「未来人材ビジョン」とは? ―必要とされる背景、指し示す方向性―
日本では1995年ごろにインターネットが一般的に普及し始め、2001年ごろからICTインフラが整備されはじめました。さらに、2010年代半ばになるとデジタルデータの利活用が活発化し、2018年ごろからデジタル社会が構築され現在に至っています。
日本におけるデジタル化の流れを振り返ってみると、20年ほどの間にあっという間にデジタル化が進んでいることが分かります。今後さらにデジタル化が進み、事務職など日本の労働人口の約半分が将来自動化されるという予測もあります。
急速にデジタル化が進むなか、民間の調査会社が「デジタル化のスピードに対応できているか」という調査を行っています。それによると、世界平均では7割以上が「対応できている」と回答しているのに対し、日本の経営者層のうち「対応できている」と回答したのは約4割に留まっていることが分かりました。
さらに、現在、約7,400万人いる日本の労働者人口は、2050年には3分の2まで減少し、約5,300万人になるという予想が出ています。
こうした状況のなか、経済産業省は2030年、2050年の産業構造の転換を見据え、今後の人材政策について検討するために「未来人材会議」を設置。その中間報告として2022年5月末、「未来人材ビジョン」を公表しました。
「未来人材ビジョン」とは…
未来人材ビジョンとは、未来を支える人材育成・確保のための大きな方向性と、今後の取り組むべき具体策を示すものとして、未来人材会議において議論されてきた政策課題をまとめたレポートのことです。
未来人材会議では、たとえば今後自動化されるリスクが高い職種として総合事務員や会計事務従事者などの事務職を挙げています。
また、現在は「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」が重視されていますが、2050年には「問題発見力」「的確な予測」「革新性」がよりいっそう求められる社会になると考えています。
さまざまな議論を重ねた結果、未来人材ビジョンでは未来を支える人材を育成・確保するために、今の日本に必要なのは雇用・労働から教育に至るまで社会システム全体の見直しをすることだと訴えています。
未来人材ビジョンが示すこれから向かうべき社会システムの方向性は主に次の2つです。
- 旧来の日本型雇用システムからの転換
- 好きなことに夢中になれる教育への転換
この2つについては、次回以降に詳述していきます。
「未来人材ビジョン」が必要とされる背景
未来人材ビジョンが必要とされる背景には、いまの日本の状況が関係していると考えられます。
いまの日本の状況は次のとおり。
- 生産年齢人口が減少し始めている
- 日本型雇用システムの限界を迎えている
- デジタル化・脱炭素化が急速に進んでいる
未来人材ビジョンでは、これまで日本企業の競争力を支えてきたと信じられ、現場でも教え込まれてきた人的な能力・特性とは根本的に異なるものが、求められ始めていると考えています。
では、いま、企業が求めている能力や特性とは、どのようなものなのでしょうか。
未来人材会議では、グローバル競争を戦う企業の社長や役員に対し「これから求められる人材像」について質問しています。
その結果、これからの時代に求められる能力やスキルは、基礎能力や専門知識ではないことが分かりました。
企業が求めている人材像は次の4つ。
- 常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力
- 夢中を手放さず、ひとつのことを掘り下げていく姿勢
- グローバルな社会課題を解決する意欲
- 多様性を受容し、他者と協同する能力
未来人材会議では、こういった状況を踏まえて2030年・2050年における日本の労働需要を推計しています。
それによると、デジタル化と脱炭素化が進展し、高い成長率を実現できると仮定した場合、2050年において、次のようなはっきりとした変化が確認されます。
- 事務従事者 → 42%減少
- 販売従事者 → 26%減少
- 情報処理・通信技術者 → 20%増加
- 開発・製造技術者 → 11%増加
未来人材会議では、こうした変化に対応するために産業界と教育機関が一体となって、今後求められる人材を育成する必要があると考えています。
まとめ
経済産業省が2022年5月末に「未来人材ビジョン」を公表しました。このレポートによると、いま、日本は大きな転換期を迎えていることが分かります。少子高齢化が進み、労働人口が減少するなか、教育機関だけではなく産業界にも変化が求められています。
今回は、公表された「未来人材ビジョン」をもとに、未来人材ビジョンが示す方向性とその背景についてまとめました。今後は「雇用・人材育成」「教育」などについてもまとめていきたいと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- 未来人材ビジョン/経済産業省