小学校におけるプログラミング教育の実態調査―2021年7月現在

2017年、政府は新学習指導要領において、小学校で2020年度、中学校で2021年度からプログラミング教育を必修化とする旨を告示しています。また、2025年度の入試からは大学入学共通テストの科目に「情報」として「プログラミング」が導入される方針が示されています。

必修化されたとは言っても、小学校・中学校いずれにおいても「プログラミング」という科目が新設されたわけではありません。また、特定のプログラミング言語を習得したり、将来エンジニアとして働くためのスキルを身に付けたりする授業でもありません。

現在、小学校・中学校で行われている「プログラミング教育」の目的は主に次の3つです。

プログラミング教育の目的

  • プログラミング的思考を学ぶこと
  • コンピューターに支えられている社会であることに気づくこと
  • 各教科等での学びをより確実なものにすること

プログラミング教育は現在、どのような状況なのでしょうか。

2021年7月、特定非営利活動法人みんなのコードが小・中学校教員2,400名、子ども・保護者3,000組を対象に「プログラミング教育実態調査」を実施しています。

なお、今回はそのうちの小学校のプログラミング教育のみをまとめています。

小学校教員に対するプログラミング教育研修について

プログラミング教育に関する研修は、主に次の3つの方法で行われていました。

実施されたプログラミング教育研修

  • 各市町村の教育委員会が実施
  • 各小中学校が独自に実施
  • 大学や企業等の外部団体に依頼して実施

研修の参加状況

実施された研修に参加したかどうかを質問したところ、アンケートに協力してくれた教員のうち約8割が受講したことが分かりました。また、この調査では研修時間については「7時間以上」と回答した教員が9.6%いる一方で、「1時間未満」と回答した教員が11.2%となっており、受講時間に大きな差があったことが分かります。

ただし、この調査が行われた2021年は、コロナ禍の影響でさまざまな制限あったため研修等の実施を見送ったり、時間を短縮したりした自治体や学校が多数あった可能性があります。

プログラミング研修実態調査「研修に参加した時間」
プログラミング教育に関する研修に参加した時間/みらいコード(2023.5.16閲覧)

教員研修の効果

今回の調査で、複数回答可能な「実際に授業で使用する(した)教材」について質問したところ、受講した研修時間数によって明らかに大きな差が出ていることが分かりました。

たとえば、「4時間以上7時間未満」もしくは「7時間以上」の研修を受けた教員は、さまざまな教材を使用している一方で、「1時間未満」と回答した教員の約23%、「受講していない」と回答した教員の約40%は「わからない・未定」と回答しています。

プログラミング研修実態調査「使用する(した)教材」
プログラミング教育に使用する(した)教材/みらいコード(2023.5.16閲覧)

プログラミング教育に対する子どもの反応

では、小学校でプログラミング教育は、どの程度実地されているのでしょうか。

今回の調査によると小学校では、1年生の約8割、2年生の約7割がプログラミング教育を「受けていない」と回答しています。小学3年生からプログラミング教育を経験している児童の数が少しずつ増え始め、小学6年生になると約6割の児童が1時間以上経験しています。

プログラミング教育実態調査「学年別学校でのプログラミング教育」
学年別学校でのプログラミング教育/みらいコード(2023.5.16閲覧)

また、プログラミング教育を経験した児童を対象に、「プログラミング教育は楽しかったか」という質問をしたところ、7割を超える児童が「楽しかった」と回答しています。一方で「あまりそうは思わない」が6.5%、「まったくそう思わない」が1.2%とプログラミング教育をネガティブに捉えた児童の数は多くないことが分かりました。

プログラミング教育実態調査「経験後の児童の感想」
プログラミング教育経験後の児童の感想/みらいコード(2023.5.16閲覧)

さらに、プログラミング教育を経験した児童のうち約40%が「中学校や高校でやりたい」「趣味で継続したい」と回答しており、プログラミング教育を受けていない児童と比較するといずれも多い値になっています。一方でプログラミング教育を「学びたいとは思わない」と回答している割合は経験していない児童が約30%となっており、経験した児童と比較すると倍の値となっています。

プログラミング教育実態調査「プログラミング教育の学習意欲」
プログラミング教育の学習意欲/みらいコード(2023.5.16閲覧)

プログラミング教育の課題

小学校教員は、プログラミング教育に対して、どのような課題があると考えているのでしょうか。

今回の調査で、複数回答可能な「プログラミング教育実施時の課題は?」という質問に対し、もっとも多かったのが「教員の専門性が不足している」で61.6%、次いで「指導・授業展開の難しさ」が53.6%と続いています。

プログラミング教育実態調査「課題」
プログラミング教育実施時の課題/みらいコード(2023.5.16閲覧)

また、プログラミングを扱う授業としては「総合的な学習の時間」と「算数」が突出しています。これはこの2つの授業が新学習指導要領や事例として、数多く扱われていることと関係していると考えられます。

しかし、プログラミング教育の目的の1つが「各教科等での学びをより確実なものにすること」となっている以上、ほかの授業でもプログラミング教育を行えるような体制が必要です。

教員の知識を深める機会や、たくさんの教材を体験できる機会など、さまざまな研修を設けることが今後の課題として挙げられるかもしれません。

プログラミング教育実態調査「教科」
プログラミングを扱う教科等/みらいコード(2023.5.16閲覧)

さいごに

小学校でプログラミング教育が必修化されてから丸2年が経過しました。
1・2年生の多くは、プログラミング教育を経験していないものの、3年生くらいから少しずつプログラミング教育に関する授業が増え、6年生の約6割は多少なりともプログラミング教育の経験があることが分かりました。

一方で、教員に対する調査で課題について質問したところ「専門性が不足している」「指導・授業展開の難しさ」など、教員自身もまだまだ課題があることを認識しています。

koedoでは、今後も「プログラミング教育」がどのように行われているのか定点観測を続けていきたいと考えています。

【参考】

全国の学校教育における「プログラミング教育実態調査」/みんなのコード