【未来人材ビジョン③】これまでの教育とこれからの教育

2023年11月16日

経済産業省が今後の人材政策などを検討するために設置した「未来人材会議」が、未来を支える人材の育成・確保に向けた方向性を取りまとめ、2022年5月31日、「未来人材ビジョン」として公表しました。

この「未来人材ビジョン」では、社会システム全体を見直す大きな方向性として、次の2つを示しています。

これから向かうべき社会システムの方向性

  • 旧来の日本型雇用システムからの転換
  • 好きなことに夢中になれる教育への転換

この記事では「好きなことに夢中になれる教育への転換」を取り上げていきます。

現在の日本の教育レベルは…?

OECD(経済協力開発機構・加盟国38カ国)が、各国の教育を比較するめにPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査を3年ごとに行っています。前回の調査は2018年。本来であれば2021年に行われるはずだった調査は、新型コロナウィルス感染症の影響で2022年に実施されていて、2023年中に報告書が作成される予定です。

PISAの対象となっているのは調査時に15歳3か月以上16歳2か月以下の学校に通う生徒。つまり、日本では高校1年生が該当します。

調査内容は次の3つ。

PISA調査内容

  • 数学的リテラシー
  • 科学的リテラシー
  • 読解リテラシー

2018年に実施されたPISAの報告書によると、日本の平均得点はOECDの平均得点を大きく上回っていて、数学的リテラシーが1位、科学的リテラシーが2位と世界でもトップレベルに位置しています。

OECD調査結果
2018年OECD調査結果/未来人材ビジョン(2023.5.25閲覧)

しかし、中学生に対して「数学や理科を使うことが含まれる職業に就きたい」かどうかという質問をしたところ、「就きたい」と回答した生徒は全体の2割から3割と、国際平均の約半分に留まっています。

2018年OECD調査結果
2018年OECD調査結果/未来人材ビジョン(2023.5.25閲覧)

PISAによる調査を開始したことで国際比較が可能になり、日本を含む先進国では「理科離れ」が浮き彫りになりました。

未来人材ビジョンでは、観察や実験が軽視されがちだったり、教師に言われたとおりに実験をすることが精一杯で、生徒自らが解決に向けて情報収集、整理、分析などを行う探究学習が少なかったりすることが原因だと考えています。

つまり、子どもたちが「科学の楽しさを感じる」機会が少ないことが、理科離れにつながっていると考えているということです。

「これまでの教育」と「これからの教育」

未来人材ビジョンは、これまでの日本の教育を次のように捉えています。

これまでの教育

  • 決められた教室、学年の中で授業を受けている
  • 一律の目標のもとで、一律の内容を、一律のペースで一斉に受動的に学んでいる

つまり、たとえば生徒がある事柄に対して興味を持ったとしても、より掘り下げて学ぶ時間が確保されていないということです。

それでは、これからの教育の姿はどうあるべきなのでしょうか。
未来人材ビジョンでは、これからの教育を次のように考えています。

これからの教育

  • 居場所や学年、時間の制約を設けない
  • 一人ひとりが異なる目標を掲げ、その目標に適した教材を使用する
  • 多様な内容を、それぞれの子どもにあったペースで個別協働的・主体的に学ぶ

一人ひとりの学習進捗や学習スタイルが異なっても、学習指導要領などで各学年の学習内容や標準的な授業の時間数は規定されています。

つまり、探求的な時間を確保するためにはなんらかの工夫が必要です。

たとえば東京都内にある麹町中学校では、探究学習の時間を捻出するためにAI教材を活用して知識の習得や反復的な演習を効率化しています。

麹町中学校におけるAI教材を導入した事例
麹町中学校におけるAI教材を導入した事例/未来人材ビジョン(2023.5.25閲覧)

また、未来人材ビジョンでは、小中学校の教員の負担が国際的にも高い水準であることを鑑み、サードプレイスを広げるべきだと考えています。

サードプレイスとは家庭(ファーストプレイス)、学校・職場など自宅以外で長い時間を過ごす場所(セカンドプレイス)以外の居心地のいい場所のことです。

一般的に自宅に帰る前に息抜きができたり、新たな交流が生まれたりする場所のことを指します。

未来人材ビジョンでは、学校では教えきれないさまざまなことをサードプレイスで経験させ、子どもたちが持っている才能を伸ばすべきだと考えています。

デジタル時代の教育、目指すべき姿は?

これまで日本の教育は「知識習得」に力を注いできました。

しかし未来人材ビジョンは、デジタル時代となったいま、「知識を習得の場」のほかに、「探究(知恵)力の鍛錬の場」を用意するべきだと考えています。

そのためにまず、「知識習得の場」として年齢や場所を問わずにアクセスできる「共通の地」として企業や大学等の教育プログラムを整備し、個別最適な学びを実現させるべきだと考えています。

そして、「探求力を鍛錬する場」で、自分の足りない知恵を集め、他者との対話を通じて協働的な学びが行われるべきではないかと提案しています。

目指すべき教育の姿
現在の教育の姿と目指すべき教育の姿/未来人材ビジョン(2023.5.25閲覧)

また、現在は博士号を取得している人材が埋没している可能性があります。

未来人材ビジョンでは、この現在は埋もれている博士号を取得した人材を拾い上げて企業に貢献することを促したり、高校卒業後に就職した人をはじめ、年齢を問わず希望者に勉強し直す機会を設けたりすることで、大学と企業の双方にキャリアパスを実現させることを提案しています。

さいごに

一時期、日本の子どもの学力が落ちたと騒がれていましたが、それでも2018年現在、PISAによる調査で数学的リテラシー・科学的リテラシーは世界でもトップレベルにあることがわかりました。

ところが、理科や数学を扱うような仕事に就きたいと考えている子どもはあまり多くありません。理系離れを阻止するために、現在、政府がさまざまな対策を考えていますが、未来人材ビジョンでは、探求力を鍛錬する場を増やすべきだと考えていることがわかりました。

koedoでは、今後も日本の教育について定点観測を続けていきたいと考えています。

(koedo事業部)

【参考】