タブレットを使った定期テストは誰トク?
さかのぼること数カ月。時は受験シーズン真っただ中。
いつも情報交換をしている他塾の先生からメッセージが飛んで来た。
「3学期の定期テスト、タブレットで回答させるらしいです」と。
私の塾生が通っている中学ではテストのときにタブレットを使って回答させるところまではまだ進んでいない。
タブレットを使っての定期テストはどんな問題で、どのように実施されるのか、非常に興味深かった。ICT教育については、まだまだ問題点はあるが、私は賛成である。
文部科学省も次のように言っている。
「もはや学校の ICT 環境は、その導入が学習に効果的であるかどうかを議論する段階ではなく、鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識する必要がある」
文部科学省 新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)
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そして、そのテストであるが、残念なことに一斉に問題用紙が配られ、生徒が解いた答えをタブレットに打ち込んでいくだけのものだった。しかも、数学の図形の証明問題でこの方法を取るとは…。残念。生徒の思考の過程が一番見える単元なのに・・・。
教育のICT化のメリットは時間や場所の制約がないことだ。そして、テストの結果がすぐにわかり、情報の共有が瞬時にできること。テスト結果がすぐにわかるのは日ごろの小テストでは非常に便利だ。
生徒と先生で瞬時に点数が共有できる。さらに先生は結果を踏まえたフィードバックをその場で生徒にできる。生徒の知識の漏れや抜けをその場で指導できるのは、生徒の学力を上げる面でも有効だ。
しかし、今回は定期テストである。一斉に生徒が教室に集い、問題を解く。時間も場所も制約される。その場でのフィードバックの必要もない。ICT機器を使うメリットがない。
しかも、タブレットが目の前にあるにも関わらず問題用紙は配布され、生徒は今まで通り鉛筆を持って問題を解く。答えの打ち込みのみ、タブレットを使う。生徒にとっては今までなかったタブレットへの打ち込みの労力が増えただけ。生徒側のメリットはない。
そして、先生にとっての最大のデメリットは「生徒の思考過程が見えなくなったこと」である。あえてメリットをあげるとすれば、先生の採点の効率が良くなって、点数管理がしやすくなったことだけだ。
特に数学の図形の証明問題では、その生徒が結論に至った過程や証明で使った言葉を見ることが大切だ。なぜなら、新指導要項では子どもたちに「数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力」を求めているからだ。
この力が育っているか確認するテストで、回答を穴埋めにしたり、選択式にしたりするのには疑問を感じる。
私の塾ではeラーニングを使って指導しているが、単元によっては超アナログ指導を行っている。数学の証明問題においては1問1問、1人ずつ、回答を確認する。
「なぜ、このように考えたのか」
「なぜ、この言葉を使おうと思ったのか。その根拠はなにか」
自分の言葉で説明させる。
相手が納得できるように伝えることができてこそ、証明ができたと言えるからだ。それは証明だけでなく、学習すべてにおいて言えることでもある。「相手に伝える力」は、子ども達に一番身に着けて欲しい力である。
コロナ禍で急速に進んだ教育のICT化において、試行錯誤は当たり前である。なので、今回の取り組みに関して、否定はしない。
ただ、使う単元の吟味はもう少し慎重にして欲しかった。ICT機器を「使うこと」にだけ気を取られると本来の目的を見失ってしまう。
ICT機器はあくまでツールであり、ICT機器を使うことがゴールではない。
子どもたちにとって最大限のメリットがあるようにICTを使う指導を考えていくことが大切だ。決して、大人ファーストにならないこと。これだけは肝に銘じて日々の指導に取り組んでいきたい。
この記事を書いたひと
松本 正美
(まつもと まさみ)
「学ぶ力は、夢を叶える力!」松島修楽館代表。中学3年生の時に「将来は塾の先生になる!」と決意し、大学1年生から大手個別指導塾で教務に就く。卒業後、そのまま室長として10年間勤務。その後、新興のインターネット予備校で生徒サポートの仕事に携わった後、2013年に松島修楽館を開業。単なるテストのための勉強だけではなく、「どんな夢でも、正しい努力によって叶えることができる」ということを子どもたちに伝えるため、根本的な「学ぶ力」を育むことを重視した指導を行っている。2人の高校生の母。趣味はサックス、タップダンス。