【校務DX】令和5年 全国の校務DXの取組状況 ー校務DXが進まぬ背景にあるものとは
政府主導の「GIGAスクール構想」により、教育現場でもICT化・DX化が進んでいます。
小学校・中学校の教員の業務の多さが問題となっていますが、教育現場でDX化が進めば、教員が仕事にかける時間に変化が出てもおかしくありません。
実際、DX化が進んだことで一定の効果が出始めている学校もあります。しかし、その進展には大きな差が出ているのが現状です。
教員と保護者間の校務DXの進捗状況
文部科学省は令和5年9月、全国の小学校・中学校を対象に「校務DX化チェックリストに基づく自己点検」を行っています。この調査において文部科学省は精度を確認する等のデータクリーニングを行っていないため、結果を単純に比較できませんが、教員と保護者間の連絡においてデジタル化が進んでいる自治体と進んでいない自治体に大きな差が生じていることが分かります。
欠席・遅刻・早退の連絡
「教員と保護者間における欠席・遅刻・早退連絡についてパソコンやモバイル端末等から受付、学校内で集計していますか」という質問に対し、「完全にデジタル化されている」と回答した学校が約30%、これに「一部している(半分以上)」と回答した学校を合わせると約6割がデジタル化していると回答しています。
学校に対してヒアリングを行ったところ、児童生徒の欠席はアプリで受け付けているものの、当該アプリが導入されているのは職員室で利用している校務用のパソコンのため、放課後、改めて校務支援システムへ転記しているなど、表面的にしかでデジタル化していない学校もあるようです。
保護者とのやりとり
「学校から保護者へ発信するお便り・配布物等をクラウドサービスを用いて一斉配信していますか」という質問に対しては、「完全にデジタル化」していると回答した学校は約6%に留まっていて、もっともデジタル化が進んでいる自治体でも2割程度しかデジタル化が進んでいません。
つまり、ほとんどの学校では、「学校だより」など保護者への配布物等はパソコンを利用して作成しているにも関わらず、児童生徒を通じて紙で配布しているということです。 また、保護者に対するアンケートを用いた調査のデジタル化も進んでいません。
「保護者への調査・アンケート等をクラウドサービスを用いて実施・集計していますか」という質問に対し、「完全にデジタル化している」と回答した学校は約2割に留まっています。
Googleなどが提供しているオンラインのアンケートフォームは、無料で簡単に作れるうえに結果も集計してくれます。
しかし、多くの学校では紙で配布し、回収後に表計算ソフトに入力して集計しています。
保護者に対するアンケート調査のデジタル化が進んでいない理由として、個人情報保護の観点から自治体のセキュリティポリシーに抵触してしまっている可能性も考えられます。
保護者とのやり取りにおける署名・押印
「保護者や外部とのやり取りで押印・署名」が必要な書類はありますか」という質問に対し、「原則廃止している」と回答した学校は全体の13%でした。
ここでいう「押印・署名」が必要な書類には、通知表のほか、修学旅行や部活動大会の参加など「各種参加・同意・承諾に関する書類」や、進路希望調査や健康調査など「各種調査に関する書類」が含まれています。
大学生がパソコン得意とは限らない?
文部科学省の発表によると、令和3年3月までにほとんどの自治体で児童生徒に1人1台の端末の配備が完了しています。それとともに教職員へのパソコン配備も進んでいます。しかし、教育現場ではいまでもICT機器に対してアレルギーを持っているベテラン教員が一定数いるとも言われています。
その一方で、実は若手職員もパソコンスキルが十分にあるとは言えない可能性があります。
WHITHE株式会社が令和5年11月、大学生519名を対象に調査を行っています。
この調査において、社会人になってから使う頻度が高いであろうWordやExcel、PowerPointの習熟度について質問したところ、約4割の学生が「あまりできない」もしくは「全くできない」と回答しています。
一方、コロナ禍において大学生活でも使用頻度が多かったであろうZoomなどのweb会議システムの習熟度については、約7割の学生が「できる」もしくは「まぁまぁできる」と回答しています。
しかし、パソコン上のフォルダや階層構造についてどこまで理解していたかの質問に対しては、約13%が「質問の意味が分からない」、約35%が「理解していない」と回答しています。
さらに、約2割の学生がコピー(Ctrl+C)や貼り付け(Ctrl+V)と言った主要なショートカットキーを知りませんでした。
調査対象者数が多くないため、一概に決めつけることはできませんが、いまの大学生はスマートフォンやタブレットを使いなれている一方で、パソコンに不慣れであることはたしかなようです。
校務のDX化により期待できることとは
今回の調査によると、教育現場では業務にFAXを利用していたり、帳票類は校務支援システムで作成しているものの、学校印を押印する必要があることから印刷していたりなど、業務の主流が紙ベースで、DX化どころかデジタル化も進んでいません。しかし、一般企業でもパソコンを1人1台配備したあと一足飛びにデジタル化が進んだわけではありません。
やはりIT機器を使うことに疑問を持つ者が一定数おり、少しずつ帳票類等のデジタル化を進めていったという背景があります。
GIGAスクール構想のもと、学校にはクラウドサービスが導入されています。つまり、デジタル化・DX化を進めるチャンスだと言えます。
文部科学省は、たとえば次のような部分を改善することでDX化が進むことを期待しています。
- 教員と保護者間の連絡、保護者から学校への提出書類のデジタル化
- 家庭学習・宿題、課題の作成・採点のデジタル化
- クラウドサービス等の活用による小テストや定期テストのCBT利用
- 職員会議資料のクラウド資料共有によるペーパーレス化
- 休暇申請、出張申請など事務手続きのデジタル化、押印・署名の廃止
- クラウドの活用で在宅勤務による業務の実現
- オンラインやハイブリッドによる職員会議の実現
- 校内研修などのオンデマンド配信の実現
- クラウドサービス等を利用した遅刻・欠席等の連絡
- 各種申請書や調査票のデジタル化
- 自治体のセキュリティポリシーとは別に教育情報セキュリティポリシーの策定
- 自治体の文書管理規定等で、教育に関わる公文書のデジタル化に関する規定の策定
さいごに
政府主導によるGIGAスクール構想のもと、全国の小学校・中学校においてもクラウドサービスを利用したシステム構築が進んでいます。
しかし、文部科学省が令和5年9月に行った調査の結果をみると、せっかくのシステムを十分に利活用できていない学校が多く存在していることが推測できます。
教育業界にはデジタル化・DX化に慎重にならざるを得ない理由もあります。たとえば、保護者と教員の間でメールやLINE等での個人的なやり取りを禁止している学校が存在するのは、デジタル化することで、ネット上にさらされる危険が否定できないからです。また、学校という職場の特性上、個人情報が多いこともデジタル化・DX化を阻む要因となっています。
しかし、デジタル化・DX化が遅れていることで、教員の仕事が非効率になっているのも事実です。
koedoでは、今後も、教育現場での校務のDX化について定点観測しようと考えています。
(koedo事業部)
【参考】