【学校3.0】序論:⑤オンライン授業の課題――変わらない教育の要とは

2021年1月24日

 前回まで、【学校3.0】というテーマで、オンライン授業が学校をどう変えていくかについて書いてきました。

 今回は、現実問題としてオンライン授業の課題について考えてみたいと思います。

 大人の仕事もテレワークになり、移動が少なくなるメリットを感じている方も多いと思います。このままテレワークに移行してしまう会社もあるとニュースでも報道されていました。

 しかし、教育現場はオンラインが定着することはなさそうです。実態として塾なども対面に戻っていることが多いようです。

 なぜ、教育現場はオンラインが定着せず対面に戻ってしまうのでしょうか?

 それには、根本的な問題があります。実はオンラインで成績が上げられるのは高校生以上と言われており、小中学生は優秀な生徒でないと効果が薄いと言われているんです。

 現実を見てみると、映像授業の塾は「東進衛星ハイスクール」や「河合塾マナビス」など、大学受験向けのものは拡がっていますが、小中学生向けのもので成功しているところはほとんどありません。

 これには1つには動機付け、もう1つにはメタ認知能力が関係しています。

 子どもの動機付けには年齢の段階があります。

 0~10才ぐらいまでは、親や先生に褒められたいというのが、強い動機で出てきます。「お母さんがダメって言ってたよ」とか「先生に言いつけるから」という言葉をよく使うのは、10才・小4ぐらいまでなんですね。

 次が、11~16才ぐらいになります。小5~高2ぐらいでしょうか。このころは友達の評価が一番気になる時期を迎える年齢です。「○○ちゃんの家はこうなんだって」「○○君はこうしてるよ」という言葉をよく発する時期になります。

 そして最後に17才ぐらいからです。高3生ぐらいになると、大人でもなく、友達でもなく、「自分はどうしたいか」ということを真剣に考えるようになります。この「自分はどうしたいか」が内発的動機付けと言われるものなんですね。

 これをオンライン授業で見ると次のようになります。

 0~10才:親や先生に褒められたい →さぼってもバレないものはやらない

 10~16才:友達の影響が強い →友達が隣に座ってないとやる気がでない

 17才~:自分の中からの動機付け →続けることができる

 年齢によって動機付けの種類が違うので、小中学生にはオンラインで成績を上げることが難しいのです。

 次に、メタ認知能力について考えてみます。メタ認知能力とは自己客観視能力とも言われます。自分が今何を考え何をしているかを客観的に知る能力です。

 メタ認知能力は精神年齢とともに向上していくものです。

 このメタ認知能力が発達していないと、生徒は「自分が集中して話を聞いていない」ということすら理解することができないのです。授業を聞いていないことを理解できない子どもは、授業に集中することが自発的にできないので、成績を上げることが難しいんですね。

 オンライン授業は、地理的な制約なく優秀な先生の授業を受けられるというメリットはあるものの、上記の2点の理由で現実的には2割程度の生徒にしか効果がないのではないかと言われています。

 また、オンライン授業の普及により先生選択の自由が可能になるとも書きましたが、果たして子どもに合った先生から教わることだけが良いのでしょうか?

 選択の自由は子どもにピッタリの先生とカリキュラムを提供することになります。それは勢い、友達が自分と同質な子どもたちばかりになるということを意味しているのです。

 インターネットの普及で多様性が認められ、マイノリティのコミュニティをつくりやすくなったからこそ、逆説的ですが多様な人と接する機会をなくすことも可能になっているのです。

 公立の小中学校は、地理的条件のみで生徒が集まっています。お金持ちもいればそうでない人もいます。高学歴な親もいれば、中卒の親もいます。僕たちの人生経験の中でいえば公立の小中学校こそが、多様性を学ぶ最大の機会と言えるかもしれないのです。

 選択の自由が拡がれば拡がるほど、接する人の多様性は少なくなり、多様性について学ぶことがなくなっていくという逆説が起こるんですね。

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 5回にわたって【学校3.0】というテーマを軸に、様々なことを書いてきました。

 私自身書きながら学ぶこともたくさんありました。この記事を書いてみて「大切なことは子どもに最高の教育を与えることではなく、親が教育について真剣に考え続けること」なのではないかとの結論に達しました。

 教育は制度やシステムによってできるものではありません。最終的には人対人に還ってくるものです。

 そこで重要なのは、情熱ある教師、真剣に考え続ける親、そして自分の可能性を最大限に引き出したいと願っている子どもなのだと思います。


この記事を書いたひと

牧 静
(まき しず)

プロ家庭教師・母親コーチ。法政大学文学部教育学科卒。専攻は教育行財政学。大学卒業後も教育心理学、発達心理学、認知心理学等を学び、子どもの成長についての高い見識を持つ。大学卒業後15年間塾講師を勤め、教えた生徒は3,000名にのぼる。開成高校、慶應女子高校、早稲田実業高校など、名立たるトップ校の合格実績を有する一方で、不登校や学習に課題のある生徒へのサポート活動も行う。近年は「子どもの教育は親の教育から」と考え、母親向けのセミナーなども行っている。