【教育×生成AI】生成AI利用のメリット&デメリット、諸外国における活用スタンスは?

「人工知能(AI)」という言葉が耳に馴染んで久しいですが、そもそも人工知能とはなんでしょうか。

人工知能とは、その言葉のとおり「言語理解、推論、問題解決などの人間の知能による活動を人工的に実現する技術」のことです。

人工知能の第1次ブームは意外と古くて1950年~1960年代。その後、衰退とブームを繰り返し、ChatGPTを始めとする「生成AI」が注目されている現在は、人工知能第4次ブームの到来か…と言われています。生成AIとは、与えられたデータから新たな画像・文章・音声などのデータを作り出せるAI技術のことです。

ChatGPTは、アメリカのAI研究所が開発した会話型のAIサービスですが、このChatGPTを始めとする生成AIの使い方が、いま、教育現場で大きな課題となっています。

文部科学省が示す生成AIの段階的な活用方法

文部科学省は、令和5年7月、生成AIに関する小中高等学校向けのガイドラインを公表しています。このガイドラインでは生成AIの活用例を挙げる一方で、リスクや留意点を指摘しています。そのうえで結論として「限定的な活用から始めることが適切である」としています。

文部科学省は教育現場で次のように段階的に生成AIを活かす力を高めていくことを考えています。

生成AIの段階的な活用方法とは

  • 生成AIの仕組み、利便性、リスク、留意点など生成AI自体を学ぶ段階
  • より良い回答を引き出すためのAIとの対話スキル、ファクトチェックの方法など「使い方を学ぶ」段階
  • 問題を発見し、課題を設定する場面、自分の考えを形成する場面、異なる考えを整理したり比較したり、深めたりする場面などでの生成AIを活用する「各教科等の学びにおいて積極的に用いる」段階
  • 生成AIを検索エンジンと同様に普段使いする「日常使いする」段階

生成AIを実際に使った児童生徒たちは…?

文部科学省が、生成AIの利用を実質的に認めたガイドラインを受け、小学校や中学校でも試行が始まっています。

すでに一部の学校からは不適切な利用が報告されており、専門家も「安易な利用は子どもの思考力に悪影響を与えかねない」と警鐘を鳴らしています。

その一方で、文部科学省が指定した「生成AI利用のパイロット校」の報告では、高齢者や妊婦など子どもの視点からは思い浮かばないようなことを生成AIが意見してくれるため、生徒の話し合いが深まったというような肯定的な意見も出ています。

実際に、英語の授業で試験的に生成AIを利用した生徒からは、

「普段は1時間かかる英作文が18秒で終わった」とし、

「答えはすぐに分かるが、頭にはなにも残らない」

讀賣新聞オンライン

というような声も聞こえてきています。

では、10代から20代の若者は、実際にはどれくらいの割合で生成AIを活用しているのでしょうか。

スマートフォンアプリ情報サイト「Appliv」が令和5年に10代から20代の男女533人に対し実施した「夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査」によると、夏休みの宿題に生成AIの利用した割合は34.1%と、約3人に1人が利用していたことが分かりました。

夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査(Applivより)
夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査/Appliv調べ(最終閲覧日:2024.5.9)

また、「生成AIを活用した」と回答した学生のうち85.7%が「宿題がはかどった」と回答しています。

夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査(Appliv調べ)
夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査/Appliv調べ(最終閲覧日:2024.5.9)

生成AIが宿題に役立たなかったと感じる理由としては、「生成AIの回答が不正確だった」がもっとも多く、「学習理解が浅くなった」「情報の信頼性に疑問を感じた」と続いています。生成AIに対して大人が感じていることを、10代から20代の若者も感じていることが分かります。

夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査/Appliv調べ
夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査/Appliv調べ(最終閲覧日:2024.5.9)

ところで、生成AIはどの宿題に活用したのでしょうか。
同調査によると、生成AIを活用した宿題の1位は「論文やレポートの執筆」で、2位が「数学の問題」、3位が「読書感想文」となっています。

夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査(Appliv調べ)
夏休みの宿題における生成AIの利用実態調査/Appliv調べ(最終閲覧日:2024.5.9)

教育における生成AI活用のメリットとデメリット

ChatGPTをはじめとした生成AIを教育で活用するメリット・デメリットはなんでしょうか。

Baidoo-Anu and Owusu Ansah(2023)では、生成AIを教育で活用するメリットとして、次のようなことを挙げています。

生成AI活用のメリット

  • 個人のニーズや進捗に基づいて指導やフィードバックができる
  • バーチャル上のチューターとなり、会話によって双方向の学習ができる
  • 個人の学習速度や成績に応じて、学習方法を調整できる

その一方で、デメリットとして、次のようなことを挙げています。

生成AI活用のデメリット

  • データのパターンに沿った回答をするため、創造性やオリジナリティに限界がある
  • 一般的な情報や支援は提供できるが、特定のニーズに合わせた指導には限界がある
  • プライバシーやデータセキュリティに懸念がある
生成AI活用のメリット&デメリット
最終閲覧日:2024.5.9

諸外国の生成AIの活用スタンス

日本では、「教育における生成AIの利用は限定的な活用から始める」と文部科学省が示しましたが、諸外国ではどのようなスタンスを示しているのでしょうか。

イギリス

イギリス教育省は、令和5年3月に「教育における生成AI」という声明を出しています。

この声明によると、イギリスでは日本と同じようにリスクを把握しつつ、適切に生成AIを利用していくスタンスを示しています。

イギリスが教育現場での生成AIの対応として発表した声明には、次のようなこが書かれていました。

  • AIテクノロジーは、電子メールのフィルタリングやチャットボットなど特別新しい技術ではないが、テクノロジーの進歩により教育に機会と課題をもたらす
  • 生成AIを適切に使用すれば教師の仕事量の削減が見込まれ、教師が優れた教育を提供することに集中できる
  • 生成AIは信頼性の低い情報を生成する可能性があるため、その適切性と正確性をチェックするための判断が必要
  • 教育現場では、生成AIの使用に関する不正行為を防止するために、合理的な措置を講じる必要がある
  • 教育現場で生成AIを活用するために、個人情報の保護の徹底、サイバーセキュリティの見直し・強化、オンライン上の不適切なコンテンツからの保護の継続が必要

アメリカ

アメリカ教育省は「人工知能と教育と学習の未来」のなかで、AIは生徒一人ひとりのスキルやニーズに合わせて効果的なサポートができ、フィードバックの質と量を増やすことができるとしています。

ただ、AIが教師にとって代わるという考えは否定しており、AIを利用するたびに教師が「ループの中」にいる必要があると考えています。

人工知能と教育と学習の未来
人工知能と教育と学習の未来/アメリカ教育省
(最終閲覧日:2024.5.9)

さいごに

日常の何気ない場面で、人工知能を利用する場面が増えてきています。
新しいものを試したいと考えるのは当たり前のことで、生成AIもただ「利用禁止」を掲げればいいというものではないという意見も多数存在しています。

文部科学省は、教育現場での生成AIの活用を「生成AIを知る」ことから始め、「使い方」を学んでから「各教科で積極的に使い」、「日常的に使いこなす」というように段階的に進めていくことを推奨しています。

koedoでは、教育現場でどのように生成AIが活用されていくのか、定点観測を続けていこうと考えています。

【参考】