親が子どもにスマホを持たせる責任
宮城県 丸森町立丸森中学校 PTA会長 菊地利行さん(三女の父)に聞きました

親は心配していないから、準備をしない

うちの地域では、基本的に学校へのスマートフォンの持ち込みは禁止なんですよ。けれども、学校が関わっていないところでLINEでの陰湿ないじめがあったり、言葉による攻撃があったりしている。

そもそもいまの世の中、スマホを持たないわけにはいかないじゃないですか。スマホ所有率は小学校で40%、中学校で80%。子どものほとんどがスマホを持っているという現状に対して、学校としてどういう方向に持っていったらいいのかという明確なビジョンがないですよね。

このことについて私が思ったのは、「優しさ」に欠けているよねということなんです。私の考える「優しさ」って漢字なんですよ。にんべんに憂うって書くじゃないですか。

「備えあれば憂いなし」って言いますよね。でも、私は逆だと思っていて、「憂いなければ備えなし」なんですよ。これはスマホだけの話ではなくて、おもちゃやゲームについても言えることで、各家庭で子どもに何かを与えることに対して、親が憂えてないんですよ。だから当然備えようともしない。

コロナにしても同じです。世の中に何か変動があるかもしれないということに対して、みんな事前に自分の物差しを決めていない。そもそもの憂いがないから、何か起きたときにみんな右往左往しちゃうわけじゃないですか。

何事も自分で探りに行って、自分なりに「こうなんだ」って納得をして、その上でそれを自分の子どもたちに、「お父さんはこう思うよ。だから、こうしていこうね」と伝えれば、世の中の変動もスマホもそんなに問題ないはずなんですよ。

問題を作り出しているのは親

心配をして準備をしていれば、問題は起きないんです。それなのに問題が起きるのは、根本的に親子の触れ合う時間が少ないからじゃないかと思うんですよね。ゲームを買い与えたあと、親は親で何かをしていて、子どもは子どもでゲームして、みたいな家庭ありますよね。

現に、PTAでお話しする親御さんの中で、いつも子どもと遊んでいると言う人には、「問題がある」という話はあまり聞きません。そして、「問題がある」と言う人に、「普段子どもさんと何を話していますか」と聞くと、「そういう時間をとってないです」と言う人がほとんどなんです。

子どもとの距離を縮めるためには、自分から頻繁にコミュニケーションをとっていく。あるいは子どもの言動をしっかり見ていて、その言動に対して、よければ褒める。多少の修正が必要なら「こうじゃない?」というふうに声掛けをする。そうやって接していれば、親子の距離って絶対に離れることはないんじゃないのかな。

子どもは親次第で変わる

子どもの意見、考え、要望に対して、親が一つひとつ答えることも大事ですね。うちは娘が3人いるので、学校への提出物だけでもいろんなものがあるんですが、それに対してすべて「わかった。じゃあやるね」とか「いまはできないから、後でやってすぐ渡すね」と声掛けをして、それを一つひとつ必ずやるようにしているんですよ。そうすると子どもは、「お父さんは、言ったらやってくれるんだな」という安心感を得るわけじゃないですか。

子どもの要望に応えていれば、こちらのお願いもすんなり聞いてもらえるんですよね。言ってやってくれる子どもってあんまりいなくて、親がやったことを見てそれをやるのが子どもなんです。

だから、いま悩んでいる親御さんも、子どもにしてほしいことをまず自分がやれば、子どもさんは見ているはずなんですよ。それをどこかで手を抜いたり、普段言っていることと違うことを言ったり、親の物差しがブレていると、子どもは親に対して疑問視するところが出てくるのかなって思います。ブレずに子どもと接することが大事ですね。

とことん話し合おう

例えば宿題一つとってもそうなんですけど、確かに宿題はやらなくてはいけない。でも、それをきっかけに親子喧嘩をするのであれば、本末転倒だなって。子どもが宿題をやらないなら、なんでやらないのかということを、とことん話し合ったほうがいいと思うんです。あるいは、先生の考えに対してああだこうだ言う前に、先生ととことん話をしているのかなとか。

学校の先生や保護者の方と接してすごく感じるのは、何かこうみなさん、窮屈さを感じながら学校生活を送っていたり、PTA活動をしたりしているんですよね。確かに「こうしなければならない」っていう決まりや枠はあるんですけど、あまりにもそれに縛られすぎているっていうのを感じます。

みなさん時間がない、忙しいとかで、相手に耳を傾ける時間が絶対的に足りていない。そしてそれが窮屈さに繋がっているんじゃないかなって思います。互いに耳を貸しあっていれば、窮屈な人間関係にはならないはずなんですよ。家庭でも、学校でも。

だから、スマホの問題を論じる前に、まずは憂えて親子で話す、学校で話す。そして価値観を共有して、正しい使い方を身に付ければ、スマホは何の問題にもならないと思います。

スマホは素晴らしいツール

「スマホを使うこと=悪」という人いますよね。でも、実は私は子どものときからスマホやタブレットやパソコンは使ったほうがいいと思っています。だって、世の中がそういう時代なんだから、それらを使いこなせなければ世の中についていけないし、仕事もできない人になってしまうでしょう?

さらにいまの世の中、スマホを使いこなせれば子どもでもお金を稼ぐことができる。そういうスキルを身に付けておけば、大人になってからも困らないじゃないですか。

私は基本的にインターネットにフィルターもかけなくていいと思っています。なぜかと言うと、そのほうが子どもがインターネットを通して、「世界とつながっている」という実感を持ちやすいと思うから。

もちろん、検索する言葉によっては、子どもが意図しないところに行ってしまったり、変な画面が出てきたりとか、いろいろあると思うんですけど、でもそれを知ることって大事だと思っていて。「だめだよ」って言われてやらなかったら、何も経験できないですよね。

親子でネットに触れてみよう

ただし、子どもが家でパソコンやスマホを使うときは、親と一緒に使うべきだと思っています。じゃあその時間ってどれぐらい取れるかって言うと、やっぱり1日30分ぐらいしか取れないですよね。でも、たった30分でも、毎日触れることで子どもの能力は上がるんですよ。

子どもが、親が検索しているのを見て、「そういう言葉を入れると、そういうふうに出てくるんだな」と学ぶのもいい。子どもから「こんなことを調べたい」と言われたときに、「じゃあどういう検索ワードを入れればいいと思う?」と一緒に考えるのもいいですね。

これって、一緒に宿題をやる感覚と同じような気がするんですよ。子どもが小さいときって一緒に宿題やったじゃないですか。それを今度はネットでやる。そうすれば、親子のコミュニケーションにもなりますよね。

この記事を書いたひと
(インタビュアー)

木下 真紀子
(きのした まきこ)

コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。