“好き好き”で自己肯定感アップ
休日に息子が行きたいところがあるというので送迎をした。迎えに行った私は、息子が出先でどう過ごしていたかを尋ねたのだが、疲れた息子は不機嫌そうにしていてきちんと答えようとしない。息子が出かけている間もカフェで仕事をしながら待っていた私は、時間を工面してまで送迎をしたのにという憤りでいっぱいで、険悪な雰囲気のまま自宅に帰った。
自宅に帰った数分後。息子は謝ることもなく、「お母さん、“好き好き”」と近づいてきた。“好き好き”というのは、息子が小さいころから使っているハグという意味の言葉だ。
私は息子が赤ちゃんのときからベビーマッサージをするなど、スキンシップを大切にしていた。毎日のマッサージをしなくなってからも、息子をひざの上に乗せては「好き好き~!」と言いながら抱きしめて、息子の言葉に耳を傾けていた。息子はいろいろ話す日もあれば話さない日もある。でも、まるで充電をするかのように私のひざに座ってはじーっとしているのだ。
これは小学校5年生になったいまも変わることがなく、帰ってくるや否や私のところにやってきては「お母さん、“好き好き”」と言いながらひざに座ってくる。さすがに私と変わらない身長になってきてまで“好き好き”はないだろうと、「ねぇ、これいつまでするの?」と聞くと「100歳まで」と答える。
そんな私と息子の姿を見て、夫は私が息子に甘いと言う(ちなみに息子は夫が帰宅しても、すぐに「お父さん、“好き好き”」と言いながら抱きつきに行く)。けれども、私は息子を甘えさせられる間は、たっぷりと甘えさせてやりたいと思っている。
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息子が赤ちゃんのときに、ママ友が自分のバイブルだという育児書を貸してくれた。「甘やかすと甘えさせるは違う。子どもはしっかり甘えさせよう」と書いてあった。このフレーズは10年以上経ったいまでも、私の子育ての指針となっている。
子育てをしているといろいろなことがある。かわいい我が子が言うなら……と、易きに流れてしまいそうなこともある。先回りして「甘やかした」ほうが、親が楽なこともある。でも、私はそのたびに「いやいや、これは決してお互いのためにならない」と踏みこたえてきた。だから、どちらかというと私の子育ては厳しいと思う。でも、どこのご家庭にも負けないくらいスキンシップで「甘えさせてきた」自信はある。
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高校教諭時代、ちょっと違う方向に行ったあと戻ってくる子と戻ってこない子を見てきたことも、私の子育てに大きく影響している。前者は愛情をたっぷり受けた子、後者は甘やかされて育った子であることが多かった。そして、人に優しくできる子もまた、愛情をたっぷり受けた子だった。生徒たちを見ていると、親に十分に「受け入れてもらえた」という経験があれば、自分を信じて自立できるということがよくわかった。
思春期の入り口に差し掛かった我が家の息子は、生意気なことを言ったかと思えば、すぐ“好き好き”と寄ってくる。きっと少しずつ親の手を放し、外の世界に出ようとしているのだろう。これは裏を返せば、心の安全基地があるからこそ挑戦できることなのだと思う。
そして何より感心するのが、息子のメンタルの強さ。何があってもめげない様子には目を見張るばかりだ。きっと何があっても親に愛されているという自信があるからだろう。私自身は子ども時代にそう思えなかったので、たまに息子のことがうらやましくさえ思える。
だから、もうすでにひざに乗せるには重い息子だけれど、息子がこの安全基地を必要としている限り、私も重さに耐えながら“好き好き”しようと思う。そして、いまこれを読んでくださっている方にも、お子さんと“好き好き”することをお勧めしたい。どんなに科学が進もうとも、子育ては案外原始的なのだ。
この記事を書いたひと
木下 真紀子
(きのした まきこ)
コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。