山崎まさよしから考える音読
「One more time 季節よ うつろわないで」
小学生の息子の音読が始まった瞬間、私は一瞬手を止めた。これって山崎まさよしの歌じゃない???
息子の担任の先生は面白い。息子の話や学級だよりから、常にいろいろなアイデアでクラスをまとめている様子がよく伝わる。そう言えば、先日の懇談会で先生はこんなことをおっしゃっていた。
「私の子どもがようやく小学生になって音読の宿題が始まったんですが、あれって読む側も聞く側も面白くないですね~。親になって初めて知りました。なので、僕はときどきお母さんたち世代に引っかかるような歌詞を音読の宿題に出しています。お母さんたちが気づいて、ニヤリと笑っていただければ僕はそれで嬉しいです」
なるほど。確かに懐かしくて、私もニヤリとしましたわ。でも、そもそも音読の宿題の意図って何だったっけ? 声に出して読むことが目的で、内容は何でもいいんだっけ?
そんな疑問がわいて学習指導要領(文部科学省が定めた、各学校で教育課程を編成する際の基準)を調べたところ、実は平成10年度から「音読」が削除されていたが、文科省の「海外子女教育情報」には以下のように位置づけられていた。
- 「音読」は、黙読の対語(たいご)だから、声に出して読むことは広く「音読」である。
- 「音読」は、正確・明晰・流暢(正しく・はっきり・すらすら)を目標とする。
ということはつまり、日本語を引っかからずに声に出して読むことが目的? 文の内容は何でもいいってこと?
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私はてっきり現代の「音読」は江戸時代の「素読(そどく)」に由来するのだとばかり思っていた。
素読とは、江戸時代の寺子屋で取り入れられた学習方法で、当時の日本人は外国から入ってきた漢文を習得するために、日本独特の読み方(いわゆる書き下し文)を考案し、何度も何度も音読するという方法を編み出した。
はじめは意味がわからなくても、とにかく読む! ひたすら読む! いずれ意味がわかるようになる!というなんとも日本人的な(!)発想で、当時の日本人は中国の思想などを習得していった。いまでも学生が有名な古文や漢文の一部を暗唱させられるのは、この名残と思われる。
だから、現代の小学生に課される音読の宿題も、意味がわからなくても教科書の本文を読め! いずれ意味がわかるようになる!といった意味が込められているのだとばかり思っていた。
……が、息子に課された宿題を見る限り、どうやらその解釈は違うようだ。そこで、「音読」と「素読」の違いを調べてみた。
- 「素読」は「本の文字をそのまま声に出して読む方法」という意味。本の文字をそのまま読む。
- 「音読」は「内容を理解しながら声に出すこと」という意味。内容を理解しながら読む。
ということは、やはり「音読」の内容も大事で、流行歌の歌詞よりは教科書に載っているような文章のほうがいいのでは?
そこで、「音読」の効果について調べてみた。すると複数のサイトで、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』を監修した川島教授の見解が取り上げられていた。
曰く、音読の効果として下記のようなものが挙げられるという。
- 記憶力アップ
- 思考力アップ
- コミュニケーション能力アップ
- 読解力アップ
- 精神の安定
- 自信がつく
驚くべきことに、音読の内容よりも声に出して読むことのほうに意義があるかのような見解。ということは、息子の担任が出した音読の宿題にもちゃんと効果がある???
元国語教師の私としてはなんとも受け入れがたい事実だけれど、息子は何の疑問も持たずに音読しているし、私自身もノスタルジックな気分に浸れるのでいいということなのだろうか。
そもそも子どもの音読を聞いて、ここまで深く考える保護者などいないだろうから、考え込んだこと自体余計なお世話だったのかも知れないが、なんとも釈然としない私がいる。
■参考
・音読・朗読/文部科学省
・【素読】学習方法や効果は?音読との違いも解説/Kuraneo
・音読で小学生の成績はぐんと伸びる!すぐに始められる音読方法/子ども知育
この記事を書いたひと
木下 真紀子
(きのした まきこ)
コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。