【古代メキシコ×STEAM教育】動物の神々、ピラミッドと山岳・洞窟信仰

2023年9月25日

前回の記事で、メソアメリカ文明に共通する神々を紹介しました。

古代メキシコは、日本と同じように多神教でした。日本では「八百万(やおよろず)の神」という表現を使いますが、マヤ文明では「八千の神々」と記されているそうです。
神々は、人々の暮らしに関係のある、身近な存在だったことが伺えます。

マヤの神々
BIZEN中南米美術館展示パネル 《マヤの神々》

太陽・芸術の神は「キニチ・アハウ」です。「赤の女王(レイナ・ロハ)」の夫と考えられている、キニチ・ハナーブ・パカル王の名前にも「キニチ」が付きます。
現在のホンジュラスにある古代都市コパン初代王は、キニチ・ヤシュ・クック・モ王。
王が太陽神として神格化されるため、「キニチ」を名乗っていたと考えられています。

農業や日常生活と関係が深い神々もいれば、王族や貴族たちにしか関係のない神もいました。さまざまなものが神格化されたメソアメリカでは、動物も神となりました。

動物三神
特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
左:《クモザルの容器》中央ベラクルス 950~1521年 ベラクルス州出土
中央:《フクロウの土器》マヤ文明 250~600年 オシュタンカフ出土
右:《ジャガーの土器》マヤ文明 600~950年 タバスコ州出土
すべててメキシコ国立人類学博物館蔵
展示風景は東京会場(会期:2023年6月16日(金)~9月3日(日))のもの

古代メキシコは、さまざまな自然環境の中で文明が生まれました。メキシコ高原地帯には活火山、低地には密林、川がある地域、沿岸部と様々な地域から成り立っています。人間の力では変えることができない自然現象や、生きるために欠かせない飲食物の問題から、さまざまな神を崇めるようになったと考えられています。

神格化した動物

動物が神格化されたメソアメリカでは、ジャガーがもっとも重要とされていました。

踊るジャガー石彫
BIZEN中南米美術館蔵 
左《踊るジャガー石彫(レプリカ)》メキシコ トゥーラ遺跡出土 トルテカ文化 900年~1150年 
アステカ以前の文化ですが、同じようにジャガーが神格化されていました。
背面《心臓を食らうジャガー石彫(拓本)》
メキシコ テオテナンゴ/メキシコ州 出土
テオティワカン~トルテカ~マトラツィンカ~アステカ時代 650年~1550年

ジャガーはアメリカ大陸最大のネコ科の動物で、熱帯雨林低地に生息しています。
なぜ重要な動物だったかというと、メソアメリカ最強の猛獣だったからと言われています。

獰猛で夜行性の動物なので、死や生贄、王権、戦争と関連付けられており、石彫や土器、壁画のモチーフにされていました。

彩文三足大皿
BIZEN中南米美術館蔵 《彩文三足大皿》
グアテマラ マヤ低地南部 古典期後期 600〜950年 
ジャガーの口元から人の鼻と口が見えているのがお分かりになるでしょうか。
ジャガー頭部にスイレンがありますが、これは闇と水の神の姿になり
儀式を行っている王を表していると考えられています。

古代日本と古代メキシコに見る「交易」で触れましたが、ジャガーの毛皮はマヤ低地の特産品で、ジャガーの毛皮に座れたのは王だけでした。王の遺骸の下に敷かれたり、王が埋葬される際にジャガーが生贄として捧げられたりしていたそうです。
王が埋葬される場所は、神殿としても使われたピラミッドでした。

神殿ピラミッド

神殿ピラミッドは、王や貴族が宗教儀礼を行う、公共建築物でした。
テオティワカンの太陽のピラミッドは、底辺224メートル、高さ64メートル、体積100万立方メートルの巨大な建造物です。

ちなみに日本で一番高いお城、大阪城の高さは41.5メートルです。

火の老神石彫
特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
《火の老神石彫》テオティワカン文明 450~550年 
テオティワカン、太陽のピラミッド出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵
展示風景は東京会場(会期:2023年6月16日(金)~9月3日(日))のもの)

 背景パネルは、テオティワカン最大の建造物「太陽のピラミッド」
600もの神殿ピラミッドが立ち並び、ローマに匹敵する大都市だったテオティワカン。
アステカ人は廃虚となったテオティワカンに到達したとき、
その壮大さに驚き、巨大な神々がこの地に集い、太陽と月を作ったと考え
ナワトル語で「神々の集う場所」(テオティワカン)と呼んだそうです。

ピラミッドと聞くと、エジプト ギザのピラミッドを連想する方が多いかもしれませんが、世界各国に似たような建築物があります。

世界各地の古代建築物

  • 古代アフリカ:クシュ王国
  • 古代メソポタミア、シュメール文明:ジッグラト
  • イギリス:シルベリー
  • アイルランド:ニューグレンジ
  • カンボジア:アンコールワット
  • インドネシア:ボロブドゥール
  • 中国:秦の始皇帝陵

形状が似ているものもありますが、埋葬場所であったり、宗教的な建築物であったり目的はさまざまです。

テオティワカンの太陽のピラミッドは100年頃に建築された後、150年〜250年に増改築されたことが分かっています。現在は失われているものの、頂部には神殿が建っていたと考えられています。

太陽のピラミッド
太陽のピラミッド

また、マヤでも増改築が繰り返され、巨大な建築物が造られました。

マヤ地域の巨大建築物

  • ティカル「神殿4」:高さ70メートル
  • カラクムル「建築物2」:高さ55メートル、一辺140メートル
  • カラコル「カーナ基壇複合」:高さ43.5メートル
  • コバー「ノホッチ・ムル」:高さ42メートル

以前の記事でも触れましたが、人々は死者とともに生きていたのでしょう。

一度に大きな建造物を作るのは、時間も労力も資材の確保も大変ですが、増改築を繰り返すことである程度調整できます。また、以前あった建物よりも巨大で大きな神殿ができることで、後世の王はより王の権威・神格化を強調でき、集団としての結束を高める効果があったのではないかと考えられています。

古代メキシコでのピラミッドは、王の権威を表す役割もあったようですが、根底に山岳信仰・洞窟信仰があったことをご存知ですか?

山岳信仰

日本でも古くから山岳信仰があります。
日本は火山地・丘陵を含めると、国土の約75%が山地です。山は、人々の生活にとってなくてはならない存在でした。

山は、麓に住む農民に農業用水をもたらし、日照りが続くと山中にある泉に水を取りに行くことができました。山に残った雪の形を見て、代搔き(田起こしした田んぼに水を張って、土をさらに細かく砕き、丁寧にかき混ぜ土の表面を平らにする作業)や田植えの時期を判断している地方もあったそうです。

山の雪解け水が地中に溜まると湧水となりますが、海底湧水となって牡蠣などの海産物の栄養となる地域もあります。

狩猟民にとっての山は、熊、イノシシ、鹿、鳥などをもたらしてくれる存在でした。猟師であるマタギには、独自の山の神の信仰がありました。それ以外にも山は、渓流の魚、木の実、鉱物資源、建築資材・道具材料・食器木地・衣類素材となる木々や植物など、様々な恵みをもたらしてくれるのです。

信仰の対象になった山々ですが、修験道としての山々、死者の魂が向かうとされる山々などもあります。

イメージ写真
日本の田園風景のイメージ

山が神聖な場所ということはほかの国々にも見られます。
古代ヘブライ人のシナイ山、ギリシア人のオリンポスは神が住まう場所でした。

マヤ地域では、活火山、休火山、特徴的な山、丘は聖地とされてきました。
山は、下界・地上界・天上界をつなぐ場所と考えられていたそうです。
比較的平坦な場所に都市が広がることが多かったマヤでは、人工的に山を作り、神聖化された王の先祖が宿る場所とする必要があったと考えられています。すべての神殿ピラミッドが王墓だったわけではありませんが、神殿ピラミッドで先代の力を取り入れ、現王が儀式を行っていたのかもしれません。

現在でもメキシコでは聖なる山々に十字架を立てて、祈りを捧げている地域もあるそうです。

イメージ写真
イメージ

洞窟のある山は、特に神聖視される傾向が強く、儀式や納骨が行われていました。

古代メキシコの洞窟信仰

洞窟は、マヤの人々にとって宗教的な場所でした。
大地と繋がり水がある場所なので、豊穣に結びつけられていたと考えられています。

先スペイン期には、洞窟の上や洞窟のある方向に合わせて都市や建造物が造られていました。暗い洞窟は恐ろしい地下界の入口とも考えられており、多くの洞窟に人骨が埋葬されていたそうです。

ピラミッド状の神殿の入口も洞窟の入口と見立てられ、地下界の入口を表していると言われています。神格化された王は、神殿の内部で儀式を行ったり、神々と交流したと考えられています。都市の中の建築物は、太陽の動きや山の場所に合わせて建てられていました。

テオティワカンの羽毛の蛇ピラミッド、月のピラミッド、太陽のピラミッドにもトンネルがあり、調査されてきました。

立像
特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
《立像》テオティワカン文明 200~250年 
テオティワカン、羽毛の蛇のピラミッド、地下トンネル出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵
展示風景は東京会場(会期:2023年6月16日(金)~9月3日(日))のもの

パレンケにあるパカル王の墓も、神殿奥深くに続く人口の洞窟のような形状です。

墓室まで続く持ち送り式(最下部の基礎石の上に扁平な石を積み上げるのに、上にいくにしたがって内側にせり出すように積む方法)の丸天井の十三階段は、マヤの宗教で言う天国への十三階段を、九段の階段ピラミッドは黄泉の国の九階段を表していると考えられています。

日本でも、神聖視されている洞窟が数多くあります。

海蝕洞と鍾乳洞

日本の洞窟には、海蝕(かいしょく)洞、鍾乳洞の2種類があります。

海蝕洞は、波が岸壁にあたることで当たることで削られ、長い年月をかけてできます。ほかの岩層より柔らかい層や、同じ岩層でも割れ目などの比較的弱い部分があると作られます。

日本の海蝕洞窟で信仰の対象となっている代表的なもの

  • 加賀潜戸(島根県松江市) 
    支佐加比売命(きさか ひめのみこと)が金の矢を放ち岩を射通したため、光が通るようになったと言われています。
  • 鵜戸(うど)神宮洞穴(宮崎県日南市) …神武天皇の御父の誕生地と言われています。
  • 江ノ島岩屋 … 弘法大師や日蓮上人も修行したと言われています。
  • 浜比嘉(沖縄県)… アマミキヨが住んだ跡とされています。
浜比嘉
浜比嘉

海蝕洞はあの世とこの世をつなぐ聖なる空間、異界の入口と考えられている場所が多く存在します。
日本では沖縄 伊江島のニャーティヤーガマ、出雲の猪目洞窟、ニュージーランド北島スピリッツベイの洞窟など。アイヌのアフンルパルもこれに当たります。

洞窟ではありませんが、アイルランドでは木のほら穴が、死者の魂があの世に行く通り道と考えられています。

鍾乳洞は主成分が炭酸カルシウムの石灰岩がある場所でできます。
石灰岩は酸性の水に溶ける性質があります。雨水は降ってくる間に炭酸ガスを吸収し、水にしみ込んだ時に酸性の水になります。

この酸性の水は、濃度によって石灰岩を溶かすことができるのです。雨水がしみ込んで岩を溶かし地下に空洞ができたり、空洞の中に増えた地下水によって石灰岩を溶かしたりしているうちに、洞窟ができていきます。その間、何十万年、何百万年という期間がかかるそうです。

石灰岩から溶けた炭酸カルシウムが再び結晶化したものが、鍾乳石です。鍾乳石ができると、その洞窟は鍾乳洞と呼ばれるようになります。

海蝕洞と鍾乳洞も、気の遠くなる歳月をかけて作られる自然の芸術です。

日本では、洞穴がこのようなこととも結びつけられています。

  • 生命を産み出す不思議な力を持つ … 女性の出産と結びつけられていた
  • なくした生命力や霊力を復活させる信仰 …「胎内くぐり」「茅の輪くぐり」の原点

これらの考え方は、里芋の種芋を冬の間穴に貯蔵した後、畑に植えると多くの子芋が増えることや、熊が穴籠りしている間に子熊を産み、春になると子熊と一緒に穴から出てくることとも関係していると言われています。

日本で行われた籠りと再生信仰の根底には、洞窟が闇(夜)の世界、眠りの世界と認識されていたことが大きいそうです。

昔、沖縄に住む人々は五十歳を過ぎると、数日間の食べ物と水を持って洞窟に行き、神のいる海を見ながら命が果てるのを待ったと言われています。食料を持っていくか、絶食するかの違いがあるものの、即身仏が頭を過ります。

グアテマラのナフ・トゥニッチ洞窟は、マヤ低地南部で最も重要な洞窟遺跡のひとつとされています。紀元前250年〜800年頃まで、マヤの王族達が様々な宗教儀礼を行い、89もの洞窟壁画が残されています。そこには王たちの図像の他、マヤ文字が黒色で描かれているそうです。

古代メキシコでは、オルメカ文明の時代から洞窟の入口を表している石彫がありました。現代でもマヤの血を引く祈祷師たちは、雨乞いなどの儀式を洞窟で行っているそうです。

指令棒
別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
《指令棒(采配)》テオティワカン文明 200~250年 
テオティワカン、羽毛の蛇のピラミッド出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵
展示風景は東京会場(会期:2023年6月16日(金)~9月3日(日))のもの)

このように世界中で、洞窟と山が聖なる場所、特別な場所と考えられています。

さいごに

先日、織姫伝説の残る山を登りました。苦労して登っている間は修行のよう、標高が上がるに従って景色も空気も下界とは異なり大変美しく、疲れを忘れました。頂上に立つと、これまで自分が踏みしめてきた道のりが大変遠く、すべてが小さく見えました。

古代メキシコにも山岳信仰、洞窟信仰があることに驚いたのですが、ふと世界各国にあることに気付きました。山の壮大さ、噴火の脅威、山が与えてくれる恵みの数々を考えると、世界各国に山岳信仰があることが理解できます。洞窟信仰も世界中にあることから、人間の感性の共通点を感じました。

古代メキシコの王たちは、ピラミッドという高い場所から見下ろすことで、王の権威を保ったり、天に近づいた気持ちになっていたのかもしれません。

BIIZEN中南米美術館

  • 展覧会名:「冒険!マヤ文明」展 エピソード2
  • 期間:2023年3月28日~10月9日(月・休) 
  • URL::https://www.latinamerica.jp
特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」

  • 東京国立博物館 平成館  2023年6月16日(金)~9月3日(日) 終了しました
  • 九州国立博物館(福岡会場)2023年10月3日(火)~12月10日(日)
  • 国立国際美術館(大阪会場)2024年2月6日(火)~5月6日(月・休)

(koedo事業部)

【参考】