「折れない心」より「折れたときに立ち上がる心」を育てる
一般社団法人 青少年健全育成協会理事 岡田さえ氏 (一男の母)に聞きました
夢を深掘りしよう
人生って思い通りにいかないこともあるし、人から傷つけられることもある。だから、誰でも必ず心が折れるときってあると思うんですよ。
でもいまは、そのまま倒れてしまう人が多いから、そうじゃなくて倒れたときにどうやって立ち上がってくるかっていう強さを子どもたちに伝える講演をしています。
例えばオリンピック選手になりたいとか、こんな人になりたいとか思うのは“夢”なんですけど、それよりもっと深掘りして、「それは何のためなのか」「それを達成したときにはまわりにどんな喜びを与えられているのか」「どんな人のお役に立っているのか」とかいうところまで深掘りすると、“夢”が“志”になるんです。
“夢”を深掘りして“志”にしておくと、心が折れたときにもう一回“志”に立ち返って、「これって何のためにやっていたのかな」と考えたり、別の手段やアイデアを出すこともできる。それこそが立ち上がる力になってくるんじゃないかと考えて、子どもたちとワークショップをしています。
志の木ワークショップ
人間と木は一緒なんです。
根っこは土の中に隠れているけれど、“志”とか“”思い“。
枝や葉や実というのは、いまやっている”手段“。
幹というのは、“家族”や“仲間”。
風が強く吹いたり、台風が来たりしたら、枝が折れたり葉や実が落ちたりすることもあるけれど、枝や葉や実というのはいまやっている”手段“だから、もしそれがなくなっても、もう一度根っこに立ち返ればいい。
例えば、私は絵本や公園や施設を作ったり、講演で学校を回ったりしていますが、それらはすべて「100年後の未来の人が、少しでも心豊かになれるように」という“志”でやっていることなので、もし絵本が作れなくなったとしても、また違う方法を考えます。
夢も希望も持てないという子もたくさんいるけれど、絶対夢を持たないといけないというわけではないんですよ。それって年齢とともにいろいろ変わってくるから。でも、自分に夢ができたときは、それが何の役に立つのかを考えてほしい。
人の生きる力って、誰かに喜んでもらうとか、人の役に立つときに最大限に発揮できるものだから。これが自分のためだけだったら、力を発揮するのは難しいんです。
親子で「会話」していますか?
私が講演で子どもたちに伝えていることは「自分を大切にしよう」、すなわち「自分の気持ちをお話ししよう」ということです。
いまの子どもたちは、そもそも自分の気持ちを人に話せない。なぜなら、親が忙しかったり、余裕がなかったりして、子どもが何かしたいと言っても、即座に頭ごなしに否定してしまうことが多いからです。すると、子どもはだんだん何も言わなくなる。しまいには、何かあったときに「相談できる人がいない」「どうせ言っても仕方がない」と言ってそのまま折れてしまう。
こういうときは親が「そっか、そっか」と言って、一度子どもの気持ちを承認する。受け止める。すると、子どもは「わかってくれた」と思うから、親の次の言葉が入りやすいんです。これを続けていると、子どもが自分の気持ちが言えないということもなくなってきます。
人はみな存在自体が素晴らしい
そもそもなぜ自分を大切にしないといけないのかというと、祖先の一人でも欠けていたらその子はいないわけです。だから、勉強ができるから素晴らしいとか、みんなと同じことができるから素晴らしいということではなくて、「あなたの存在自体が素晴らしいんだよ」ということを力説しています。
親御さんもお子さんに対して「あなたはあなたでいい」ということを認めてあげてくださいね。もちろん親御さん自身も「あなたはあなたでいい」のです。
それから、子どもが小学生くらいになったら、「心離さず手を離す」ということをやってほしいですね。「信頼して任せる」ということです。もちろん子どもだから失敗するけれど、親はその最終責任を取るだけで、決してレールを敷かないことです。執着して育ててしまうと、大人になって問題を抱える人が多いので。
しずくの一滴一滴がやがて大河になる
私は父がアル中で、母は働き詰めという環境で育ちました。家に帰ってもアル中の父と二人で、会話も成り立たないどころか辛く当たられる。包丁を持ってきて殺してやろうかと言われたこともありました。母もあまりにも忙しそうだったので、自分の気持ちを伝えることもできず、よく嘘をつく子でした。
中学卒業後に家を出て、結婚、出産、離婚も経験し、人から見れば大変な半生だったかもしれません。実際に辛いと思うこともたくさんありました。それでも、まわりの大人や友達に助けられて、ここまでやってくることができました。人は一人でも寄り添ってくれる人がいることで、前へ向いて進んでいけるということを身をもって体験しました。人はみな、無力ではありません。微力であっても、それはやがて大きな力となるのです。
だから、私は決心したんです。これからの自分の人生は、子どもたちに大切なことを伝え続けていこうと。将来自分がいなくなったときも、その時代に生きている人たちが少しでも心豊かでいてくれれば、私は嬉しいのです。人は苦しいなと思うことを希望に変えていく力を持っているし、一人ひとりに未来を作る力があると信じています。
この記事を書いたひと
木下 真紀子
(きのした まきこ)
コンセプトライター。14年間公立高校の国語教諭を務め、長男出産後退職。フリーランスとなる。教員時代のモットーは、生徒に「大人になるって楽しいことだ」と背中で語ること。それは子育てをしている今も変わらない。すべての子どもが大人になることに夢を持てる社会にしたいという思いが根底にある。また、無類の台湾好き。2004年に初めて訪れた台湾で人に惚れ込み、2013年に子連れ語学留学を果たす。2029年には台湾に単身移住予定。