【親になるということ】スマホ育児にすらなっていない?風景<その1>

2021年4月30日

春は、小さなお子さんを持つお父さん、お母さん方にお話しする機会が多くなります(なぜだろう……気持ちを新たにしたいのかな)。特に私が依頼されるのは、「小さなお子さんとネットの関わり」についてです。いわゆる「スマホ育児」の問題ですね。また、保護者がスマホに夢中で子どものことをよく見ていない、ということも問題と言われたりします。

私たちの日常からスマホやタブレットといったモバイル機器がなくならない以上、こうしたものにまったく触れないで生活するのは難しいことです。そんな中、私がいままでに「これはまずいな」と思ったことをいくつかご紹介しましょう。

一つめは電車の中でした。ベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんが電車に乗ってきました。お母さんはスマホに夢中です。別に特別な風景でもなく、私も気にしていませんでした。しかし、そのうち赤ちゃんがぐずりだしました。するとお母さんはスマホを手に持ちながら、マグカップの飲み物を赤ちゃんの口に突っ込みました。でも、機嫌が直りません。

次に、ベビーカーを揺すりだしました。目は、スマホに向いたままです。それでも赤ちゃんは泣き止みません。だいぶ大きな声で泣き出したのですが、お母さんはひたすらベビーカーを揺すって、「泣かないで~」と言っています。

ついに私と隣に座っていたおばさん(知らない人)が立ち上がって彼女のそばまで行きました。「抱っこしてあげて、赤ちゃんの視界が変わるから」。お母さんは慌ててベビーカーから抱き上げ、視線が高くなった赤ちゃんはすぐに泣きやみました。

「ありがとうございます、なんでわかったのですか?」と聞かれましたが、私はうまく答えられませんでした。だって、ただ赤ちゃんを見ていたら、その子がなんで泣いているのか、想像がついたからなのです。

でも、スマホに夢中だったお母さんは、「なぜ泣いているのだろう」と考えず、「食べ物を口に入れる」「揺らしてみる」という“お世話”を手順として行ってしまったのだと思います。

もう一つは、街中の横断歩道でした。お父さんが赤ちゃんをベビーホルダー(抱っこ紐)で前抱っこしながら歩いていました。お父さんと同じ視点で景色を見ているのねと微笑ましく思っていたら、赤ちゃんの手にはスマホがあり、その子は景色を見ないで抱っこされながらスマホを見ていました。お父さんは黙々と歩いています。

赤ちゃんがスマホを落としたらどうしようという物理的な不安もありましたが、せっかく外を一緒に歩いているのだから、お話をしたらよいのにと思いました。さすがにこのときは話しかけることができませんでしたが、赤ちゃんにとって「外を歩く」ということがどういう意味を持つのか、また親子で同じ景色を見るということがどんなに楽しいことなのかを知らないのかな?と思いました。

この二つの出来事はいろいろな問題を示唆していますが、この中で私が伝えたいのは、大人がスマホを使うということと、子どもがスマホを使うということの違いを、まずは親が認識してほしいということです。

まず、大人がスマホを使うことを考えてみましょう。スマホを使うメリットは、

大人の場合

  • 仕事を含め、いつでも情報にアクセスすることができる
  • ゲームや読書など、時間をつぶせる

などが考えられます。では、子ども(特に乳幼児)にスマホを使わせることで親が得るメリットはどうでしょう。パッと思いつくのは、

子どもの場合

  • じっと座って静かにしていられる
  • いつの間にかいろいろな知識(英語や漢字、クイズ問題など)を吸収している
  • 生活習慣(トイレトレーニングや歯磨き)を動画で身につけたりできる

ということでしょうか。ですがこのメリットは、先ほどの例のどちらにも当てはまらないことです。一つ目の例は、親が自分のメリット(スマホを自分が触りたい)を優先した結果、子どもとのコミュニケーションがうまく取れなかった結果です。二つ目の場合は、親が「大人の感覚」で行動した、子どもといることがどういうことなのかをあまり考えていなかったということです。

これは、昨今話題にあがる『スマホ育児』ですらありません。親が子どもを育てるうえで何らかの便利さ、ストレスの軽減があるならば、スマホを子どもに触らせるということも理解できます。何でもかんでもダメというのは孤立感を覚えますし、育児が辛くなりますよね(使わせ方についての思いは別途ありますが)。

でも、そうした育児の中でのスマホとのかかわり方ではなく、「大人の気持ち・大人のルール」を子どもの世界に持ち込むことは、やはり避けなければならないと思うのです。いま小さなお子さんの親になっている世代の方を含め、私たちはある程度の年齢になってから携帯電話などのモバイル機器を使うようになりました。

そのため、少なくとも「自分がこれで何をしているか」を理解できましたし、「なぜ使っているのか」も説明できる状態だったと思います。では、お子さんはこのことを説明できるでしょうか。同じ感覚でスマホを触っているでしょうか。

いまの子どもたちは生まれたときからモバイル機器に囲まれています。自分で理解できる年齢よりも前から触ることができるという状況が何を生み出すのか、「親として」子どものIT機器利用をどう考えるのかについては、避けて通れないテーマとなっていることをまずは知っていかなければなりませんね。

この記事を書いたひと

吉田 理子
(よしだ りこ)

1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。