【不登校という選択】不登校傾向児童生徒が5年で8万人増加、政府の対策と実際の状況

日本では少子化の影響で、年々子どもの数が減少するなか、不登校児童生徒数は10年連続増加していて令和4年度の不登校児童生徒数は約30万人。これは、在籍児童生徒数の3.2%にあたり、不登校の小学生は10年前の約5倍、中学生は約2倍となっています。

不登校児童生徒数(棒グラフ)
「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」を基に作成

不登校児童生徒に対し、政府は、個々の児童生徒の状況に応じて必要な支援を行うこと、支援に際しては「学校への登校」という結果を目的としないことを明確にしています。

不登校傾向の生徒が、5年で約8万人増加

不登校の児童生徒が増えている一方で、学校に行くことはできても授業に参加できない、または心の中で学校がツライと感じている「不登校傾向」の児童生徒も増えています。

NPO法人カタリバが、令和5年10月31日から11月3日にかけて全国の中学生を対象に「不登校傾向の中学生の実態」についてインターネット調査を行い、スクリーニング調査で6.000サンプルを回収。併せて、不登校の子どもの家庭や生活などについても調査を行っています。

なお、この調査は平成30年(2018年)、日本財団が行った「不登校傾向にある子どもの実態調査」で発表された不登校傾向の子どもの数が、その後、どのように変化しているかを把握するために行ったものです。

子どもたちの学校生活実態
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

回収した調査結果を、文部科学省の調査結果をもとに性別・学年の構成比が合うように処理を行ったところ、1年間に合計30日以上学校を休んだことがある「不登校」にあたる生徒は全体の4.7%にあたる推定147,951人でした。

また、1週間以上連続で学校を休んだことがある生徒の割合は3.9%、教室外登校や授業に参加する時間が少ない「部分登校」「授業不参加型」の生徒が4.9%、基本的に教室で過ごしているものの学校がツライと感じている「形だけ登校」の生徒が4.4%となっています。

こうした「不登校傾向」にあたる生徒が全体の13.2%にものぼり、合計で41万9097人と推計されています。つまり、5年前の調査時から約8万6000人(26%)増加しているということです。

同調査で行った「あなたにとって学校はどのようなところですか」という質問に対し、「形だけ登校」の生徒は、通常登校できている生徒よりも「行かなければいけないところ」「緊張するところ」と回答する割合が10ポイント以上も高くなっています。

不登校傾向生徒実態調査結果
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

さらに、「現在の幸せ度合い」に関しての質問に、「幸せである」と回答した割合が通常登校の生徒が73.4%であるのに対し、「形だけ登校」の生徒は39.6%と、大幅に少ないことが分かりました。

不登校傾向生徒「幸せ度合い」
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

その一方で、オンラインで授業に参加している生徒の「幸せ度合い」は、通常登校の生徒と同程度あります。このことから、子どもたちは勉強そのものがイヤというわけではなく、不登校や不登校傾向になる原因が、同年齢の子どもが集められた「学校」という閉じられた空間にあり、「オンライン登校」が不登校児童生徒に対する支援のヒントになる可能性があることがわかりました。

不登校傾向生徒「幸せ度合い」
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

不登校生徒の状況

不登校を選択した子どもは、学校以外になんらかの「学びの場」を利用しているのでしょうか。

NPO法人カタリバでは、この点について不登校の子どもを持つ保護者を対象に調査を行っています。その結果、不登校の子どもを持つ保護者の約6割が、「学びの場を利用したり、参加したりしたことはない」と回答していることが分かりました。

不登校傾向生徒「学校以外の学びの場(保護者)」
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

しかしその一方で、同じ質問を不登校の子どもに対し行ったところ、約7割の子どもは「学びの場はある」と回答しています。「学び」という言葉に対する認識が親子で違う可能性があるのかもしれません。

不登校傾向生徒「学校以外の学びの場(生徒)」
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

文部科学省は市町村や教育員会などに対し、スクールカウンセラーの常駐や、教育支援センターなどの公営施設の整備など、不登校生徒や保護者に対する支援を行うように通知を出し、実際にそのための予算も組んでいます。

ところがNPO法人カタリバの調査によると、フリースクールや別室登校の存在、スクールカウンセラー、教育支援センターなどの存在を知っていても、実際に利用している割合が非常に低いことが分かりました。認知していても利用していないということは、心理的なハードルがあるなど、なんらかの原因があることが推測されます。

不登校傾向生徒実態調査
不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査/NPO法人カタリバ(最終閲覧日:2024.2.6)

政府の対策と実際の状況

文部科学省が令和元年5月に行った調査では、教育支援センターを設置している自治体は全国の約63%となっていて、不登校児童生徒数に対して公営施設の不足が指摘されていました。そのことを受け、文部科学省では次のような支援を行っています。

不登校児童生徒に対し、政府が行っている支援

  • 校内教育支援センターの設置促進
  • 教育支援センターのICT環境の整備
  • スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置充実

学校内外の機関等で相談・支援を受けた場合や自宅におけるIT機器等を活用した学習活動したときの「出席扱い」はどうなっているのでしょうか。

文部科学省は、不登校児童生徒が学校以外で学習活動を行った場合の指導要録上出席扱いに対する判断を各学校長に任せています。

しかし文部科学省が行った調査によると、学校内外の機関等で相談・指導を受けて指導要録上出席扱いとなった割合は約11%、自宅におけるIT等を活用した学習が出席扱いとなった割合は約0.3%に過ぎず、対策制度はあっても現場の対応が追いついていないことが推測されます。

指導要録上出席扱いとなった児童生徒数
「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」を基に作成

さいごに

文部科学省によると令和4年度の不登校児童生徒数は約30万人と過去最高を記録しています。そのうえ、学校には行っていても授業に参加していなかったり、心の中でツライと感じていたりする「不登校傾向」の生徒数が5年で8万人も増えていることがNPO法人の調査で分かりました。

しかしその一方で、「オンライン登校」をしている子どもたちの「幸せ度合い」は高いことが分かりました。つまり「オンライン登校」が不登校や不登校傾向の子どもたちの対策になんらかのヒントになり得るかもしれないということです。

少子化の影響で児童生徒の数が年々減少しているなかで、不登校や不登校傾向の子どもが増えているという事実に、文部科学省も対策に乗り出しています。

koedoでは、今後も不登校の児童生徒について定点観測をしていこうと考えています。

【参考】

(koedo事業部)