セミナーのオンライン化で起こったこと(その1)
新型コロナウイルス感染症の拡大は、「教える」「学ぶ」という分野にも大きな影響を与えました。その中でも顕著なものの一つに、講義のオンライン化があります。私は学校教育にはテンポラリー(臨時)の大学講義程度しか関わっていませんが、長らく企業向けのセミナーや研修に登壇してきました。その経験から、コロナ禍で起こったセミナーや研修の変化について感じたことをお伝えしようと思います。
教室内や公共交通機関で新型コロナウイルスに感染することへの怖さや、「三密を避けろ」という政府の要請もあり、昨年から教室に集合してのセミナーや研修は激減しました。私も2020年の3月以降、対面セミナーに登壇したのは一度だけです。一方コロナ禍の影響で広がったのは、ZoomやMicrosoft TeamsなどのICT技術を使ったオンラインセミナーです。
それでは、セミナーがオンライン化したことで、何が起こっていったのでしょう? 前半では主に講師、セミナー会社など、コンテンツ提供側に起こったことをお伝えします。
待つか、オンライン化か
2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令された当初に、これほど長く影響が続くと考えていた人は少ないのではないでしょうか?
WHOによるとSARSの世界的流行期は2002年11月から2003年7月の約8か月間、新型インフルエンザは2009年4月から2010年8月の約13か月間とされています。ただ、どちらの場合も日本国内では大流行に至らなかったため、比較的早く日常に戻った記憶がありました。
私が登壇させていただいているセミナー会社は、緊急事態宣言中のセミナーを中止や延期とし、宣言が解除されたら再開すればいいと考えていたところが多いように思います。風向きが変わり始めたのは、当初5月7日に解除される予定だった宣言が5月31日まで延長されることになったころです。
新規感染者数がなかなか減らず、また宣言が解除されても感染の再拡大を懸念する専門家の声が多く報道されていました。そこで、6~7月ごろから講義を教室ではなくオンラインで行う動きが本格化していきます。
慣れないインフラに四苦八苦
オンラインセミナーは、いまでこそ完全に市民権を得ましたが、昨年の上期時点では講師も受講生もセミナー会社も暗中模索の状態でした。当初はセミナー会社、講師、受講生のすべてがオンライン・ミーティング・システムの使い方がわからないため、使い方の説明やフォローに時間を取られました。講義の前日になって「Zoomの使い方」というミニセミナーを実施したこともあります。
また、「Zoomは会社で禁止されている」「Microsoft Teams(Skype、Cisco Webex、Google Meet)しか使えない」といったツール選択の問題にも悩まされました。現在はだいぶ落ち着きましたが、セミナー会社主催のセミナーはZoomが多いように思います。企業研修は、その企業が指定するツールを使用することがほとんどです。
他にも、途中でのネットワークの切断や遅延、PCやプログラムのハングアップ(正常に動作しなくなりキーボードやマウスからの入力ができなくなった状態のこと)により講義の一部が聞けないといったインフラ系の問題が多発しました。ネットワークについては各自で必要な改善策を打っているようです。また講義の一部を聞けなかった場合は、録画した動画を一定期間視聴できるように対策しています。
教室と同じ内容では伝わらない
当初は私も、コンテンツや時間配分、演習などを教室講義とまったく変えずにオンラインで行っていました。しかし、すぐに「対面セミナーと同じようにはできない」ことがわかってきます。一つは、受講生の集中力が続かないことです。私の場合、教室での講義は大学の講義のように90分前後で10分程度のトイレ休憩をとるような時間配分でした。でも画面を長い間注視し続けるのは、相当な集中力を要します。
これと同程度の時間を要するものとして、映画の場合はプロの俳優がセリフを話したり、ストーリー構成や演出、映像・音響の効果などを使ったりすることで視聴者を飽きさせない工夫がなされています。これに対して従来のセミナーには、エンタメ性を重視したものがあまりなかったように思います。私自身もあまり活舌のいい方ではありませんし、芸人さんのような話術を持っているわけでもありません。
テレビの場合は約15分に一度CMが入るので気分転換ができます。そこで私の場合は、休憩時間の間隔を最大でも60分とし、15分に一度程度は“閑話休題”のような話題を入れることで、受講生の集中力維持を図っています。
しかしその結果として、これらの時間が加わったことから全体の時間調整が必要となり、結局はオンライン用にコンテンツを新しく作り直すことになったわけです。
この記事を書いたひと
小泉 武利
(こいずみ たけとし)
中小企業診断士。化学工場で開発や品質保証を中心にキャリアを積み、その後は環境管理や購買、経理、人事など広く間接業務全般の管理を担当。2017年にコンサルタントとして独立し、クールな戦略コンサルを目指していたが、お会いする人に「トトロみたい」「癒される」と言われ続けたことからセルフイメージが崩壊し、現在に至る。経営全般に関するコンサルティングの他、化学物質規制のコンプライアンスやファシリテーション、ISOマネジメントシステムなど、一般には聞きなれない分野のセミナーに多くの登壇実績あり。