【親になるということ】大人から促したい「子どもと議論する」習慣
私たちは毎日子どもと一緒に生活をしていますが、小さいときには、いえ、大きくなってもなかなか「議論する」ということがありません。ですが成長の過程で議論や討論に慣れていると、学校に行っても社会に出ても、しっかりと考えて自分の意見が言えるようになります。
議論というのは知識だけでは成り立たず、必ず相手を必要とします。その最初のステップは「間違っても信頼関係が崩れない」家庭の中であることが望ましいのではないかと思います。そしてその時期は小さなころ、3歳くらいから始めることができると考えています。
例えば、私は情報リテラシーの講座で、ネットでのいじめやトラブルに関する話を依頼されることが多くあります。SNSで既読が付かないことに対して文句を言ったり、それが原因でいじめが起きたりという事象や、文字だけのやり取りで受け取り方が違うことなどを説明する際に、「相手の気持ちを考えて」と伝えます。
この「相手の気持ちを考えるということ」をどのように伝えるかということは、実は大変難しいことだなと最近考えています。大きくなってから急にできることではなく、小さなときから家庭で何度も考えることを繰り返していくことが大事なのです。
「遊んでいたおもちゃを取られたからお友達を叩いた」という場合、叩いたら相手も痛い、相手が傷つくという意味で、「あなたも叩かれたら痛いでしょ? 〇〇ちゃんも同じじゃないかな?」というような話をします。自分と同じように相手も痛みを感じるし、傷つくということを伝えるのですが、たいていこういう場合はまず「あなたはおもちゃを取られてだったのよね?」と、おもちゃを取られたことを受け止めてあげて、その次に先述の「相手は叩かれたら痛い」ということを伝えるでしょう。
そして子どもがごめんなさいと言って、「わかったらこの話は終わり」となるところですが、私はもう一歩踏み込むと良いのかなと思っています。つまり、叩いたことを反省して、子どもが落ち着いてきたら、次のような「議論」を始めるのです。
「なんで〇〇ちゃんはおもちゃを取ったんだろう……?」
するといろんな想像が生まれます。
- 楽しそうに遊んでたから自分も遊びたくなった
- おもちゃをみたら、昨日の続きをしたくなった
- まだ小さいからよくわからないでそうして(おもちゃを取って)しまった
- 本当は一緒に遊びたかったのではないか?
これは子どもにだけ考えさせるのではなくて、親も一緒に考えるのです。議論ですから。答えがわかるわけではないけれど、なんとなく想像はつくような話なので、親のほうも子どもの目線に立って一緒に理由を想像します。
私が自分の子どもに対して行ったとき、確か4歳くらいだったと思いますが、散々話した後に「実は、自分もこの前お友達のおもちゃを取って喧嘩になってしまった」という話をしてくれました。そのときはお友達が持っているものがうらやましくなったのだということでした。「そうか、うらやましかったんだね。じゃあ〇〇ちゃんもうらやましかったのかな」「そうかも」「じゃあ、今度は叩くんじゃなくて、一緒に遊ぼうって言おうね」という話をしたことを覚えています。
相手のことを考える、想像するというのは、気持ちだけではなく、相手の状況やタイミング、普段の様子なども含めて行うことです。友達とのいつもの関わり方から、行動した理由を想像する。これを繰り返すことで、徐々に「知らない人」との距離感や行動の予測などを考えられるようになると思います。
そしてそのためにはたくさん考えて話すことが必要なのです。自分の意見をアウトプットする、その一つに議論というものがありますから良い訓練になるでしょう。その際に気を付けることは、「相手を子ども扱いしない」ということです。別に難しい単語を並べて黙らせるということではありません。子どもを一人の人間として対応するだけです。
彼らが言っていることがわからなければ質問をします(この子はこういう子だからと勝手に想像しない)。説明がうまくできなくてもゆっくり待ちます。同じ意見には同意し、違う意見には自分の意見をぶつけます。詰問ではなく、余裕をもって話し合えるのは家族ならではですから、子どもとの対話を楽しんでください。
そして、できれば何かしらの結論めいたものを必ず出していただきたいのです。意見が違う人がいて(同じならそれでよいのですが)、話し合いをして合意をする。この繰り返しがやがて自分で考え、意見を言う、主体的に動く、といった能力を高めることにつながっていくと思います。
いま、学校は忙しくてなかなかこうした議論の場がありません。学級会や児童(生徒)総会も、決め事ばかりで課題解決(クラスの問題など)まで行うことがなかなかできないようです。毎日は忙しいですから、お休みの日などにぜひチャレンジしてみてください。意外と大人がハマるかもしれません。
この記事を書いたひと
吉田 理子
(よしだ りこ)
1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。