【未来人材ビジョン②】雇用と人材育成―日本企業の現状と今後の企業の在り方
経済産業省が今後の人材政策などを検討するために設置した「未来人材会議」が、2022年5月31日、未来を支える人材の育成・確保に向けた方向性を示す「未来人材ビジョン」を取りまとめ、公表しました。
この「未来人材ビジョン」では、社会システム全体を見直す大きな方向性として、次の2つを示しています。
- 旧来の日本型雇用システムからの転換
- 好きなことに夢中になれる教育への転換
この記事では、「旧来の日本型雇用システムからの転換」を、「好きなことに夢中になれる教育への転換」は、次回取り上げていきます。
日本の雇用システムの変化
日本の雇用システムは、戦後、どのように変化していったのでしょうか。
まず、「戦後の立ち上がり期」の1946年から1960年ごろ、日本では輸出によって経済が活発し初め、終身雇用・年功序列・企業内労働組合が確立されました。
そして、1961年から「高度成長期」に突入し、これが1990年ごろまで続きます。
このころになると、実態は年功運用のままとはいえ、年齢ではなく能力で処遇が決まるようになってきます。
1991年にバブルが崩壊したあと、雇用システムの変革が模索され始めます。
それまで職能資格制度で管理していた人事労務が目標管理制度に変わり、成果主義人事が導入されます。2000年代に入ると「少子高齢化」を受けて定年が延長されはじめ、2020年には政府主導でいわゆる「働き方改革」が始まります。
日本企業の現状とは…
日本の企業は、現在、どのような状況なのでしょうか。
「現在の勤務先で働きたい」と考えている割合は52%
日本では、いまでも多くの企業で「年功序列」が当たり前のように採用されています。
年功序列とは、社員の勤続年数や年齢を重視し、役職や賃金などを決定する人事制度のことです。この制度の働く側のメリットとして、長く務めることで収入UPが見込まれることが挙げられます。
しかし、「未来人材ビジョン」によると、「現在の勤務先で働き続けたい」と考えている割合は52%となっていて、けっして多くありません。
では転職や起業を考えている人が多いのかというとそうでもなく、「転職意向のある人」の割合は25%と諸外国の約半分、「独立・起業志向のある人」の割合は16%と諸外国の約3分の1に留まっています。
「転職意向」が低い理由としては、転職することが必ずしも賃金増加につながらない傾向が強いということが考えられます。
人事投資を行っている企業、自ら投資している社員の割合は?
日本ではここ20年くらいの間に急速にデジタル化が進み、世界的に脱炭素化の流れが強まっています。
こういった時代の流れに対し、約4割の企業が「現在の従業員のスキル」と「これから求められるスキル」の間にギャップがあることを認めています。
しかし、OJT以外の人材投資を行っている企業はごく一部で、社外学習や自己啓発を行っていない人の割合は46%と諸外国と比較しても高い水準となっています。これは、日本では企業が社員を育てようとせず、自ら何かを学ぼうとする意気込みのある社員も少ない状態だということを示しています。
こうした理由から、バブル崩壊前には1位だった日本の国際競争力は、バブル崩壊後の最初の10年で一気に下降し、その後の20年で上昇と下降を繰り返しながら2021年には31位まで転落しています。
今後の企業の在り方とは…
今後、企業はどのように雇用・人材育成システムを見直していけばいいのでしょうか。
未来人材ビジョンでは、次の2つの見直しが必要だと考えています。
- 日本型雇用システム
- 採用戦略
日本型雇用システムの見直し―設備投資から人材投資へ変換
中長期的な投資・財務戦略において、投資家は人材投資やIT投資、研究開発投資を重視している一方で、企業は設備投資を重視していて、ここに大きなギャップがあります。
未来人材ビジョンでは、終身雇用・年功序列といった旧来の日本の雇用システムから、人材に投資する「人材資本経営」に切り替え、働き手と組織の関係が「閉鎖的」関係から「選び・選ばれる」関係と変化させるべきだと考えています。
採用戦略―インターンシップの積極的な活用
日本では、就職について真剣に考え始めるのは大学後期になってからという人が少なくありません。その一方で、大企業では新卒一括採用だけではなく、中途採用・通年採用・職種別採用・ジョブ型採用など採用方法が多様化してきています。
また、さまざまな仕事から強みを発見する「無限定正社員」で働きはじめ、ある程度キャリアを積んでから専門性を活かした「ジョブ型雇用」に転換していくという企業も増えてきています。
未来人材ビジョンでは、大学生の間に目的意識を持ち、個々の能力を発揮できるようインターンシップを積極的に活用する仕組みを考えることも必要だと考えています。
さらにリスキルや学び直しのための取り組み、社員のエンゲージメントを高めるために副業や兼業等の多様な働き方の導入、時間や場所にとらわれないリモートワーク等の導入も大切だと考えています。
さいごに
今回は、「未来人材ビジョン」のうち雇用・人材育成についてまとめました。
その結果、日本では「いまの職場で働き続けたい」と思っている人の割合が52%に留まっていることが分かりました。
また、バブル崩壊前には1位だった国際競争力は、2021年現在31位まで転落。
これを立て直すために、未来人材ビジョンでは、雇用システムと採用戦略の見直しが必要だと考えていることも分かりました。
koedoでは、今後、未来人材ビジョンが考える「教育」についてもまとめていきたいと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- 未来人材ビジョン/経済産業省