【STEAM教育と特別展「宝石」①】 宝石ってどうして光っているの?

2022年6月2日

人が宝石を身に付けるようになったのは、紀元前まで遡ることができ、古代エジプトのファラオの墓から、トルコ石やラピスラズリといった宝石が副葬品として発掘されています。

それほど昔から人は宝石の輝きに魅了されていたと考えられます。

多種多様な宝石と豪華絢爛なジュエリーを一堂に集め、科学的・文化的な視点から紹介する特別展「宝石 地球のうみだすキセキ」が、いま国立科学博物館で開催されています。

特別展「宝石」の展示を見て回りながら、そこに「Science」「Technology」「Engineering」「Art」「Mathematics」があることに気が付きました。

宝石を「美しい」と感じるのはどうして?

宝石を「美しい」と思うのはどうしてでしょうか。
宝石は、光の加減によって美しさを変えていきます。

しかし、宝石の原石はほとんど輝いていません。
つまり、人が施したなんらかの仕組みが、宝石をキラキラと光らせているということです。

「もっとキラキラ光らせてみたい」
その思いがきっと、宝石をより美しく輝かせるための仕組みの探求と、そして美しく見せる技術の確立へと人を駆り立てたのではないでしょうか。

特別展「宝石」では、宝石の美しさの仕組みを宝石の特性や、光の「屈折」と「分散」から説明しています。

そもそも宝石とは…?

「宝石」とは、鉱物のなかで磨くと輝くものをいい、なんと約200種類も確認されています。

では「鉱物」とは?
鉱物とは、地中で自然にできる物質のこと。現在、世界では5000種類以上の鉱物があるとされています。その鉱物の中で、鉄・金・銀・銅など人の生活に役立っているものを「鉱石」と言います。

宝石がキラキラ光っている理由

宝石の加工技術が確立され始めたのが14世紀ごろ。
当時の加工職人たちが試行錯誤を重ねながら、宝石に光があたったときの反射などを考えて加工技術を確立していったのでしょう。

特別展「宝石」では、加工技術の変遷の歴史が詳しく解説されていますので、ここでは、ほんの少しだけ触れていきます。

キラキラ光って見えるダイヤモンドも、原石のままではあまり輝いていません。
原石を加工することで、光を取り込み美しい輝きを放つようになります。

たとえば、「ラウンドブリリアントカット」というカット法は58面体。
ダイヤモンドの屈折率を考慮して、輝きを最大限に引き出すように設計されています。

このラウンドブリリアントカットは、石の中で反射した光が、すべて上に戻ってくるように設計されています。

発見したのはベルギーの数学者「マルセル・トルコウスキー」。
1919年に自身の著書で「ダイヤモンドの理想的なカット形状 アイディアルカット」として発表しています。

キラキラ光って見える理由 その1「光の屈折」

光の屈折とは、光がある物質から異なる物質へ進むとき、その境界面で光が曲がる現象のことです。

たとえば、水の入ったガラスのコップにスプーンを入れたとき、スプーンが曲がって見えます。この現象が「光の屈折」です。

光が「空気」から「水」へと進むとき、「空気と水」の境界面で光が曲がるため、スプーンも曲がって見えるのです。

イメージ画像
「光の屈折」 イメージ

光を屈折させる強さを示したものを「屈折率」と言います
この屈折率が高いものほど、光があたったときにキラキラと光って見えます。

光の屈折率が高い代表的な宝石にダイヤモンドが挙げられます。
水の屈折率は約1.3、ガラスは1.4~2.1ですが、ダイヤモンドは約2.4。

つまり、ダイヤモンドに光が射し込んだとき、ほかの物質よりも光が曲がる角度が深く、さらに複雑に反射するため、私たちの目にはキラキラと光って見えるということです。

キラキラ光る理由 その2「光の分散」

光が屈折する角度が色によって異なることを「光の分散」といいます。
光は青い光ほど曲がりやすく、赤い光ほど曲がりにくい性質をもっています。

DVDディスクに光があたったとき、虹色に光って見えることがありますが、これが「光の分散」です。

光の分散イメージ
「光の分散」イメージ

鉱物の特性と技術の組み合わせ

宝石が輝いているのは、光の屈折や光の分散の仕組みを利用して輝いて見えるようにカットしているからです。

カットの種類は「ファセットカット」「カボションカット」などさまざまなものがありますが、不定形のものを含めると数十万パターンを超えると言われています。

特別展「宝石」風景
特別展「宝石」展示風景

ファセットカット

ファセットカット
ファセットカット

ファセットカットは、宝石の表面に角度の異なるたくさんの面を持たせることで、光を屈折させて最大限から輝いているように見せるカット方法です。

このカット法は、15世紀から16世紀ごろ、ダイヤモンドの輝きを引き出すためにフランスやオランダで生み出されたと言われています。

ダイヤモンドなど透明度の高い宝石に多く使われるカット方法で、ブリリアントカットやブリオレットカット、ローズカット、パビリオンカットなど、さまざまなカットの仕方があります。

カボションカット

カボションカット
カボションカット

宝石をドーム状にカットすることを「カボションカット」と言います。

カボションカットは、複数の線が現れるスター効果、猫の目のような一筋の線が現れるキャッツアイ効果、石を動かして見る角度を変えることで光が移ろうシラー効果など、光の屈折ではなく、宝石そのものの光沢を活かすためのカット方法で、多くの場合、半透明から不透明な宝石に使われます。

ビーズ

小さな宝石に穴を開けたものを「ビーズ」と言います。

球状のものだけではなく、面があるものもビーズに加工することがあります。

タンブリング

宝石の原石をドラムに入れ、研磨剤と一緒に回転(タンブル)させて角をとり、表面を滑らかに仕上げる方法を「タンブリング」と言います。

川の流れによって角の取れた石のようにも見え、もとの形がイメージしやすいカット方法です。

スラブ

厚みのないフラットな形にカットする方法を「スラブ」と言います。

カメオやインタリオなど、宝石に彫刻する場合に多く使われるカット方法です。

まとめ

今回は、STEAMに沿って宝石を次のように読み解きました。

Artは「はじまり」と「おわり」を司ります。

「こっちの石の方が輝いているのはどうしてだろう」
「もっと輝かせるためにはどうしたらいいのだろう」

そうした疑問や課題を認識し、行動を起こす「はじまり」の部分。
そして、表現を高めようとして技術が確立していった「おわり」の部分。

また、宝石への憧れや、ほかのものと比べたときに覚えた違和感や差異など、動機そのものにもArtはあると考えられます。

Scienceは、Artによって始まる仮説と検証のフローです。

つまり、宝石をより美しくみせるための工夫や技術の発展のなかで、光の屈折や分散の仕組みを発見し、技術(Technology)に落とし込むまでの歴史を指しています。

仮説を立てて、実行する。失敗したときには、その失敗からさらに仮説を立てる。
満足する結果が得られるまで、その繰り返しです。

成功体験とは、なんらかの「完成形」にたどり着くことではなく、繰り返した失敗の中から、なにかにたどり着くことです。
仮説と検証を繰り返すことで、子どもたちに「挑戦」する姿勢や、「粘り強さ」といったものが自然と身に付いていくものと考えます。

Mathematicsは、Scienceのフローを構成するための基盤と枠組みをつくるものです。

仮説と検証を繰り返すためには、まず言葉の定義を考える必要があります。
人によって言葉の意味がずれていては、仮説と検証のフローが成り立たないからです。

言葉の意味、言葉の表す範囲を確立するものとして「Mathematics」を位置づけています。

Technologyは、Artによって生み出された「課題」を解決するための方法として位置付けています。Scienceから落とし込まれる技術であったり、過去のScienceから生まれた技術の蓄積であったりします。

Engineeringは、課題と技術を結び付ける機能と位置付けています。
技術への理解と課題の本質を把握する感性から構成されると考えています。

「STEAM」に正解はありません。
これは、あくまでも「こういう考え方がある」という例にすぎません。
みなさんなら、STEAMに沿って宝石をどう読み解きますか?

特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」は2022年6月19日(日)まで、東京・上野の国立科学博物館で開催されています。
この機会に、よろしければ足を運んでみてはいかがでしょうか…?

特別展「宝石 地球のうみだすキセキ」

展覧会名:特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」

会場:国立科学博物館 地球館地下1階 特別展示室

会期:2022年2月19日(土)~6月19日(日) ※日時指定予約制

URL:https://hoseki-ten.jp/

【参考】

koedo事業部