【古代メキシコ×STEAM教育】土偶
展示品の中に、さまざまな土偶があります。
土偶は、土で作った人形のこと。人間の形だけではなく、動物などいろいろな形があります。
当時の様子を私たちに伝えてくれる土偶には、どのような役割があったのでしょうか。
古代メキシコの土偶
マヤ地域では、カンペチェ州北部沿岸のハイナ島から多くの土偶が見つかっています。
ハイナ島はユカタン本土の西側にあるため、日が沈む場所=死の世界と結びつけられ、共同墓地として使われていたと考えられています。確認されているだけでも2万基もの墓があり、発掘された1,000基ほどの墓からは、副葬品として多くの写実的な土偶が見つかりました。
土偶はタバスコ州北部、カンペチェ州南西部の粘土で作られたことが分かっており、ハイナ島だけではなく、ベラクルス州、ユカタン州、キンタナロー州のシェルハまでの沿岸部に遠距離交易されていました。
この前の時代、先古典期中期(紀元前1000年〜紀元前400年)には、王や高位の貴族を除く貴族や農民は、死者を家屋の床下や近辺に埋葬し、生きている自分たちの家屋は増築して生活を続けていたそうです。
住居跡から出土するほとんどが、手で作られた土偶です。このことから、土偶が家族の宗教儀礼に使われたのではないかと考えられています。
土偶はマヤに限らず、ほかの地域の文化でも見られました。
カリブ海のタイノ族文化では「セミ」と呼ばれる土偶、石偶が使われていました。「セミ」は一家にひとつあり、先祖の霊や精霊を表していると考えられています。
土偶と聞くと人型を連想される方が多いかもしれませんが、冒頭で紹介したとおり、動物や神様をかたどったものも多く作られました。
日本の土偶
日本では、1万年以上続いた縄文時代に土偶が作られていました。
人型に見えるもののディフォルメされている部分が多く、土偶が何を表しているかさまざまな説があります。
- 女性の姿
- 妊娠している女性の姿
- 守り神
- 呪術師が祈祷している姿
日本の各地で発掘された土偶は、マヤと異なり埋葬場所で発掘されることは少ないそうです。土偶の大部分は、住居跡やお墓以外から発見されることが多いと言われています。
壊された状態で捨てられていることもあり、次のような目的を願って使われていたという説があります。
- 再生
- 子孫繁栄(多産)
- 安産祈願
- 自然の恵み
- 病気や怪我の回復
縄文時代の土偶にも、マヤと同じように動物の形をしたものがあります。
動物土偶には、子孫繁栄の願いが込められていると考えられているものもあります。
土偶以外にも動物霊を送ったと思われる形跡、意図的に配列された動物の頭蓋骨跡が発見された遺跡があることから、何らかの儀式が行われていたと考えられています。
儀式に使われた土偶
古代マヤの神殿ピラミッドや広場では儀式が行われ、その王国に住む人々も参加したと言われています。
宗教儀礼、饗宴、祝祭などの儀式で、さまざまな楽器が使われました。
- マラカス(ヒョウタン製)
- 太鼓(土製・木製の胴に動物の皮を張ったもの)
- 太鼓(亀の甲羅を鹿の骨や木製のばち、手で叩くもの)
- 鈴(土製・銅製、金製)
- 長い骨に刻み目状のくぼみを付け、きしむ音を出す楽器 など
- 法螺貝
- ラッパ(土製・木製・ひょうたん製)
- 笛(土製・鹿角製)
- オカリナ(土製)
- 横笛(土製、骨製) など
多くの土偶は、笛として作られていました。
儀式で楽器を演奏するのは、男性の貴族だったそうです。
さまざまな楽器が奏でられるなか、王は神々に扮したきらびやかな衣装をまとって歌い踊ったと考えられています。
王の儀礼的な踊りは、神々や祖先の霊と交流するために行われていたと考えられています。儀式の前に、お酒、幻覚物質でトランス状態に入っていたそうです。
そして自らの血を捧げる、放血儀礼を行いました。
放血儀礼
宗教儀礼では、コーパル香が焚かれました。
熱帯産の樹木から採った樹脂を乾燥させて作られており、現在でもカトリック教会や伝統的な宗教儀礼で用いられているそうです。
放血儀礼では、男性王は黒曜石製石刃やアカエイの尾骨、ジャガーの骨、サメの歯などで自らの性器や耳を切り付け、女性王はトゲのある縄を舌に通し、垂れる血を籠の中に置いた紙の上で受けていました。貴族や農民も放血儀礼を行った記録があり、黒曜石でできた石刃やリュウゼツランのトゲを使っていたそうです。
なぜそんなことを……という疑問が出てきます。
王は政治的な指導者、戦時では最高司令官、そして最高位の神官でした。
世界が終わらないよう、太陽神には活力となる新鮮な血を捧げ続けなければいけない……と信じていたからです。
人身供犠も、こちらの考え方から行われていました。
さいごに
時代が変わっても、健康でいたい、美味しいものをお腹いっぱい食べたい、生まれ変わっても幸せでいたい、という人間の根本的な願いは変わらないように感じました。
科学で解明できることが増えた現代は、最新技術を取り入れて願いを実現させようしていますが、古代の人たちは儀式を通して神に祈り、成し遂げてもらおうとしていたのかもしれません。
とはいえ、人の力ではどうしようもないこともあり、神への感謝や畏怖は消えません。
現代でも日本では、収穫を感謝する「神嘗祭(かんなめさい)」と「新嘗祭(にいなめさい)」が行われています。
メキシコ農村部では、スペインからの独立後、カトリックと融合したさまざまな農耕儀礼が行われているそうです。
先祖供養や家族との関わり方など、時代・国境を越えて共通する部分もあります。古代メキシコの子ども向け玩具と思われる、カラカラと音が鳴る土偶や、赤ちゃんを抱っこしている土偶を見て、ほほえましい気持ちになりました。
- 展覧会名:「冒険!マヤ文明」展 エピソード2
- 期間:
2023年3月28日~10月9日(月・休)終了しました - URL::https://www.latinamerica.jp
東京国立博物館 平成館 2023年6月16日(金)~9月3日(日)終了しました九州国立博物館(福岡会場)2023年10月3日(火)~12月10日(日)終了しました- 国立国際美術館(大阪会場)2024年2月6日(火)~5月6日(月・休)
(koedo事業部)
【参考】
- BIZEN中南米美術館オンライン講座「古代中南米ww」第5回「マヤ文化が生んだ至宝」
- BIZEN中南米美術館オンライン講座「古代中南米ww」第6回 知られざる中間領域(中米&カリブ)
- マヤ文明を知る辞典 青山和夫 東京堂出版
- 古代メソアメリカ文明 マヤ・テオティワカン・アステカ 青山和夫 講談社メチェ
- ハイナ島 /Webilio辞書
- 山梨県埋蔵文化財センター
- 土偶を読む 竹倉史人 晶文社