政府が「生成AIの利用に関する暫定的なガイド」を発表、現在の利用状況は?
ChatGPTを代表とする生成AI(人工知能)の利用が話題になっています。
生成AIにできるのは、インターネット上の膨大な情報の中からユーザーの求めに応じて言葉を並べたり疑似的な会話をしたりすることだけです。しかし、その言葉を使ったときの相手の気持ちを考えたり、その言葉を使う場面や背景を考えたりはできません。
ビジネスの現場では、職種によって積極的に生成AIを利用しているところもあるようですが、教育現場では子どもがAIの回答を「絶対的に正しい」と思ってしまわないかという懸念が指摘されています。
文部科学省は2023年7月、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表しました。
生成AIについて政府のガイドラインとは
政府は、生成AIについて次のように述べています。
- 生成AIは、ある単語や文章の次にくる単語や文章を推測し、「統計的にそれらしい応答」を生成するもの
- 回答は誤りを含む可能性が常にあり、事実とまったく異なる内容や、文脈と無関係な内容などが出力されることもある
- 対話型生成AIを使いこなすには、最後は自分で判断するという基本姿勢が必要
- 一定の知識や自分なりの問題意識とともに、真偽を判断する能力が必要
これらのことを考慮したうえで、政府は教育現場での生成AIの利用を「限定的な利用から始めることが適切だ」としています。
ChatGPTの実際の利用状況
ドリームエリア株式会社が、2023年6月15日から20日の期間に未就学児から大学生までの子どもを持つ保護者を対象に「ChatGPT」に関するインターネット調査を実施したところ、45,177名から回答を得られました。
この調査では、次のような質問をしています。
- ChatGPTを使ったことがありますか?
- AI技術の発展により将来なくなると言われている仕事が増えてきています。お子さまの将来に不安を感じますか?
- 宿題やレポート作成にAIを活用することをどう思いますか?
- AIの教育への応用について不安に思うことはなんですか?
ChatGPTの利用について
「ChatGPTを使ったことがありますか?」という問いに対し、「使ったことがある」と回答した保護者は約15%に留まっています、
一方で「使ったことはないが今後使ってみたい」と回答した保護者は43.6%、「使ったことはなく、今後使う予定もない」と回答した保護者が41.3%と、ChatGPTを使ったことがない保護者の意見が割れていることが分かります。
なお、同じ質問を子どもに対して行ったところ、約7割の子どもが「使ったことがない」と回答しています。
AIの発展が子どもの将来に与える影響について
「子どもの将来に不安を感じるか」という質問に対して、6割以上の保護者が「かなり不安(18%)」「少し不安(48.9%)」と回答。急激なAI技術の発展が子どもの将来に与える影響を不安視している保護者が多いことが分かります。
宿題やレポート作成へのAI活用について
「宿題やレポート作成にAI活用をどう思うか」という質問に対し、約半数の保護者が「使い方を指導したうえで活用」と回答。3割以上の保護者が「活用場面などの制限を設けるべき」と回答しています。
この回答から保護者は宿題やレポートなどにAIを活用すること自体には肯定的な意見を持っていることが分かります。
AIの教育への応用について
AIの教育への応用について、6割以上の保護者が「子どもの問題解決能力の低下」「プライバシーやセキュリティ」「AIへの依存」に不安を感じています。また、5割以上の保護者が「コミュニケーション能力の低下」、4割以上の保護者が「AIが提示する情報法の偏り」に不安を感じていることが分かりました。
教育現場での適切ではない使い方、考えられる活用例
現在、日本で多く使われている生成AIは、利用規約によって年齢制限が設けられています。
- ChatGPT…13歳以上、18歳未満は保護者の同意
- Bing Chat…成年。未成年は保護者の同意
- Bard…18歳以上
政府は、生成AI活用の適否に関する暫定的な考え方として、次のように述べています。
・「子どもの発達の段階や実態を踏まえ、年齢制限・保護者同意等の利用規約の遵守を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成するうえで、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする(特に小学校段階の児童に利用させることには慎重な対応を取る必要がある)。
・まずは、生成AIへの懸念に十分な対策を講じられる学校でパイロット的に取り組むことが適当。
「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」/文部科学省
適切でないと考えられる例
生成AIを使用するにあたり適していない場面とは、どのような場面でしょうか。
政府は、次のような場面での使用は適切ではないと考えています。
- 生成AI自体の性質やメリット・デメリットに関する学習を行わず、自由に使わせること。
- 読書感想文やレポート、小論文などを書く際に生成AIを利用し、自分が書いたものとして応募・提出すること
- 詩や俳句、音楽など子どもの独創性を発揮させたい場面やテーマに基づいて調べる場面で、最初から安易に使わせること
- 定期テストや小テストなどで使わせること
考えられる活用例
また考えられる活用例として、政府は次のように述べています。
- グループの考えをまとめたり、アイデアを出したりする段階で、ある程度意見をまとめたうえで議論を深める目的で活用する
- 英会話の相手として活用する
ビジネス現場での生成AIの活用
ビジネスの現場では生成AIを利用したことがある人はどれくらいいるのでしょうか。
野村総合研究所が、20歳から69歳のビジネスパーソン2.421人を対象にインターネットアンケートを行っています。
業種によって利用状況に大きな差がありますが、全体では業務で使用中と回答したのは3%、トライアル中が6.7%となっており、実際に生成AIを利用している人は、まだまだ多くないことが分かります。
また、「実際にどのような業務で生成AIを利用していますか」という複数回答可能な質問に対しては、「あいさつ文などの原稿作成」が49.3%、「記事やシナリオの作成」「ドキュメントの要約」が43.8%となっています。
一方で、「今後、どのような業務で生成AIが活用できると思いますか」という複数回答可能な質問に対しては「マニュアルの作成」「議事録の作成」などの割合が増えています。
さいごに
いま、わざわざそろばんや電卓を使って仕事をしている人はほとんどいないでしょう。表計算ソフトが一瞬で計算してくれるからです。
表計算ソフトで計算することが当たり前になったことで暗算が苦手な人が増えています。しかし、マクロや関数を覚えたり、使いこなしたりするために試行錯誤を繰り返して苦労をしている人もいます。
同じように生成AIを使うことで今は想像できないことで思考したり、苦労したりすることがあるかもしれません。
生成AIの利用は、今後、どのような影響を与えるのでしょうか。
子どものうちから生成AIを利用することで、子どもの思考力低下が懸念されています。保護者に対して行ったアンケート調査では、問題解決能力の低下やAIが提示する情報の偏りが心配されています。
子どもに限らず大人も、今後、生成AIを利用する機会が増えるならば著作権侵害やプライバシーの侵害、秘密情報の漏洩、サイバー犯罪など気を付けなければいけないことがたくさんあります。つまり、罪を犯さない方法をしっかりと教育する必要があります。
koedoでは、今後、どのように教育現場に生成AIが広がっていくのか定点観測続けたいと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- 【通知】「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の作成について /文部科学省
- 話題のChatGPT。AIと共存する子どもの将来に不安を抱く保護者は全体の7割に迫る /ドリームエリア株式会社プレスリリース
- アンケート調査にみる「生成AI」のビジネス利用の実態と意向 /野村総合研究所