【授業のためのICT入門】 デジタルシチズンシップを意識する
GIGAスクールも2年目に入り、いよいよ実践的な授業が展開され始めているのではないでしょうか。子ども達も情報機器の扱いに慣れてきて、自分の学習や興味を深めることに活用しているところだと思います。
そうなってくると、より「授業のどのような場面でICT機器を利用するか」ということが問われるようになります。それだけでなく、「使う目的をどう子ども達に説明するか」がより重要となります。
なぜならば、学校でICT機器を利用する機会というのはすべて「デジタルシチズンシップ」にひもづくことだからです。
デジタルシチズンシップとは、「情報技術の利用における適切で責任ある行動規範」を意味します。この言葉は1998年に米国で提示された、情報教育の基準が設けられた際にベースとなる考え方で、2007年に正式に使われるようになったものです。
日本では「情報モラル」という言葉に相当します。
今の子ども達は「デジタルネイティブ」と呼ばれますが、だからといって、デジタル技術の進歩が私たちの生活にどのような影響を与えているのか、これからの社会に自分たちがどう関わり、生き抜いていくのかということを知っているわけではありません。
むしろ、そうした理解が伴わないままに、デジタル技術の「操作」だけが上達してしまう……という問題や、家庭環境によるデジタルデバイド、いじめなど、人同士のコミュニケーションに課題が生じています。
日本で情報モラル教育というと、子ども達がインターネットの危険性から身を守るための啓発活動と認識されがちですが、子ども達が将来、有能な市民として社会のためにデジタル技術を積極活用する方法を身につけるための支援としての教育というようにシフトする必要があると考えます。
欧州評議会(2020)Digital Citizenship Education Trainers’ Packでは、デジタルシチズンシップを10の領域に分けて説明をしています。
- Being Online
- アクセスと包摂
- 学習と創造性
- メディア情報リテラシー
- Well-being Online
- 倫理と共感
- 健康と福祉
- e-プレゼンスとコミュニケーション
- Rights Online
- 積極的参加
- 権利と責任
- プライバシーとセキュリティ
- 消費者としての気付き
情報リテラシーの講座を学校で開催されたことがある先生方なら、何となくご理解いただけるかと思いますが、いま、学校(特に小中学校)での情報リテラシー講座に圧倒的に足りないのは、最後の「Rights Online(オンラインの権利)です。
これは私が情報モラルの授業を学校側から依頼される際にいつも感じることです。危険性や身体、学習面への影響から子どもにICT機器とどう付き合っていくかの話をしてほしいとは言われますが、子ども達がやがて大きくなった後(ネットでは現在も)の市民社会への参画や多様性をどう受け入れるか、ネットの利用についてといった観点はほとんどありません。
利用場面の想定や目標の視野をもっと広げる必要があると思います。
同時に、公共空間への情報発信を危険視しすぎるため、自分が情報を発信するということの社会的影響を考えさせたり、良質なコンテンツを自らが創り出したり、それをビジネスモデル化するなどの「将来につながる視点」を持つべきだと思います。
そして、それらは何も「情報リテラシー」というカテゴリーで学ばなくても良いのです。毎日の授業、日々子ども達に語る話の中で、常に取り入れることができます。
たとえば授業中、タブレットを使っている際にまったく授業と関係のないことをしてしまう(違う教材を開いたり、Webサイトを見てしまったり)子どもがいたとします。
「勝手なことをしてはいけません」「今は何の授業なの?」と指導することはできますし、一般的にはそうするものです。
しかし、そういうことが起こったら、機会を作って「授業中にタブレットでほかのことをしたくなる気持ちについてどう思うか?」という話し合いをしてみてください。その際、タブレット、インターネットでできること(メリット)を子ども達に考えてもらいます。
検索ができる、教材に入っているアプリ(クイズや教育的なゲームも)が使える、配置を変えられる……など、たくさん出てくるでしょう。
ネットもタブレットは楽しいし、それらすべてはやってはいけないことではないのです。
でも、これを授業中にするのは良いこと?と聞かれると、子ども達は「良くない」と答えると思います。
そこで踏み込んで、「なんで良くないの?」と続けていきます。Being Onlineの「メディアリテラシー」から入り、Well-being Onlineの「倫理と共感」、Rights Onlineの「権利と責任」を考えるということに発展さることができます。
子ども達(私たち大人も)のネット利用を進めていく以上、デジタルシチズンシップという概念を教える側も持ち、子ども達の日常生活に浸透させていくということが2年目以降のGIGAスクールには求められていくのだと思います。
この記事を書いたひと
吉田 理子
(よしだ りこ)
1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。