コロナ禍における小兵塾あれこれ 小回りが利くからできたこと【その3】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が止まらない中、とある報道が目に留まった。「春休み中に配布した新年度の学習内容は学校再開後、授業で再学習の必要なし」というものだった。
いままで数回にわたって子供たちに配布された宿題は、どれも前学年の内容で復習メインだった。しかし、いよいよ休校が長引き、送られてきた配布物をZoom越しで見ると、内容が予習に移行してある。確かに教科書も送られてきたが、これだけで学習したことにするのはちょっと乱暴だ。そうなれば……やりましょう! 私たちが! 子供たちが新学期に困らないようにすれば良いだけ、動けば良いだけ。授業をすれば良いだけ。
ここに、“2塾合同Live授業”が誕生した。テーマは「子供たちの学びを止めない」。塾内外を問わず、子供たちを受け入れて無料授業を展開した。こんな即決は大手の塾には絶対にできない。ライバル講師の授業を自分の生徒に受けさせるなんて! しかも、無料なんて! そして、オフィスごと塾を持ってくるなんて!!
そう、私は2塾合同ライブを行うために、指導道具一式を先方の塾に持っていき、そこで個別指導・ライブ授業を配信したのだ。2塾合同でライブ授業を進めるので、どちらの生徒も安心するように二人で画面に映るようにするためである。オフィスごと移動できるのも個人だからできること。そしてオンラインだからできることである。
この塾Liveの取り組みは新聞でも取り上げていただき、保護者からの評判も上々だった。「ライブの時間になると、自分から部屋に行って授業準備をしています」とか。「生活にメリハリがつきました」とか。子供たちもライブ授業に慣れてくると、画面越しの硬い表情がだんだんいつもの表情に戻っていった。
このライブ授業はいまも受験生対象に続けている。受験生の演習時間の確保のためもあるが、また、いつ、新型コロナウイルス感染症拡大のために休校になるかわからないからだ。オンラインにも慣れておくことは、これからの教育に大切なことだと思う。特に受験生にとっては、学習が止まってしまうことは致命傷になる。
オンライン授業については、「成果が出ない」「学力は上がらない」などとも言われている。しかし、私が実際に子供たちのオンライン授業をやってみて思うのは、詰まるところ「やり方次第」。ただ単に動画を見るだけでは、そりゃあ子供たちは集中もできなければ、面白くもないだろう。でも私たちの塾Liveでは、双方向で意思疎通ができるようにしている。教室で授業を受けているように先生から当てられるし、ときにはイジられもするのだ。
画面越しであっても、子供たちのやる気は表情から分かる。ライブ授業では基本顔出しをお願いしているが、勉強が極端に苦手な子はどうしても画面から消えがちである。顔が映らないようにカメラを天井に向けていたり、顔の半分しか見えないようにセットしたりと、「隠れたい」という心理状態が伝わってくる。
反対に、ライブ授業で基礎概要を学び、各塾で演習を積むことで自信をつけた生徒は、だんだん画面の真ん中に自分の顔を映してくるようになり、アップになってくる。これは面白い変化だ。
そういった小さな変化も、私たちは見逃さない。変化があった生徒には「この前のライブ授業はしっかり顔が見えたから、意思表示がよくわかって授業しやすかったよ!」と声もかける。先生は画面越しであっても、自分を見てくれているという安心感が大切だと思う。そして、それが次のコミュニケーションにもつながる。
場所を越えて、子供たちとつながることは可能なのだ。そのつながりがさらに学力へとつながれば、まさに講師冥利に尽きるというものである。
この塾Liveのチャレンジは、地方の教育格差を是正する可能性を秘めていると思う。スマホ一つあれば、いま現在は塾がない地域や、講師がいない地域の子供たちの学習環境を変えることができる。このコロナ禍の中で見出した、私の希望の一つである。
この記事を書いたひと
松本 正美
(まつもと まさみ)
「学ぶ力は、夢を叶える力!」松島修楽館代表。中学3年生の時に「将来は塾の先生になる!」と決意し、大学1年生から大手個別指導塾で教務に就く。卒業後、そのまま室長として10年間勤務。その後、新興のインターネット予備校で生徒サポートの仕事に携わった後、2013年に松島修楽館を開業。単なるテストのための勉強だけではなく、「どんな夢でも、正しい努力によって叶えることができる」ということを子どもたちに伝えるため、根本的な「学ぶ力」を育むことを重視した指導を行っている。2人の高校生の母。趣味はサックス、タップダンス。